第88話 表の裏は…… その①
8月も後半に入ってきた。
あれだけ長かった夏休みも、もうそろそろ終わりを迎えるのだ。
怒涛の夏休み、と言うべきだろうか。様々なことがあった。
けれども、いまやるべきなのは……そんな思いにふけることではない。
私は学校近くの図書館で様々な書類を見ていた。
ここ10年で起きた……『殺傷、および毒を用いた殺人事件』を調べていたのだ。
そう、鶴愛さんのことだ。
黎矻先生曰く、鶴愛さんの殺され方は殺傷なのだが、毒も盛られていたというのだ。
第2の刃、と言ったところだろうか。用意周到で腹が立つ。
私は怒りを抑え、紙をめくる。
様々な事件がある中で、こんなにも限定的な殺人事件は少ない。だからこそ、一発でわかるというものだ。
「……犯人は何人もの死人を出して……そして、壁に打ち付ける……例外があるけど」
資料は集まった、けど……一つだけ違う。
この8年前に起きた事件だけ、死体が壁に打ち付けられていないらしい。
ただ、それだけを除けば……連続殺人の犯人が……鶴愛さんを殺したことになる。鶴愛さんと同じ死に方をしている被害者が何人も出てるからだ。
……こいつが、この犯人が……鶴愛さんを殺した。
逃がすものか。必ず見つけ出して、報わせてやる。
「……香蔵さんに、みんなに伝えよう。その後は……」
色々考えながら、図書館を出る。
っていうか、図書館にこんな本が置いてあることも問題だけど……。
……あれ?
「……快弦ちゃん、かな?」
確かにあの後ろ姿は快弦ちゃんだった。
けれども、なんでこんなところにいるんだろうか。特に今日は用事もないはず……なのだが。
快弦ちゃんは周りを気にするかのようにして、歩いていく。私はその後ろをつける。
(って、何をしてるんだろう私は……)
後ろをつけるだなんて、最低だろう。普通に話しかければいいのに……。
ふと、風が吹いて、快弦ちゃんの髪の毛が揺れた。
……これは、これは、香蔵さんからも、狸吉さんからも説明されていた。
だからこそ、目印になるねと意気込んだのだ。
奴らは、私たちの敵対している『クリフォトの樹』と呼ばれる集団は…………体の各部位どこかに、『数字』と『i』という文字が一緒についているらしい。
快弦ちゃんの、首筋。
正しくいえば、うなじの部分。
『6i』の文字が彫られていた。
嘘だ、嘘だと脳内で無理やり思考を抑える。
それを見て、思考し、理解してしまった今、私は吐き気と目眩に襲われた。
そんな、そんなことがあるわけがない、と汗を垂らす。だが、現実は……。
私は、隠れて後をつける。
嘘だ。きっと、なにかの冗談に決まっている。
メイクとか、火傷とか、悪いことだけど、もしかしたらそういうタトゥーなのかもしれない。
だが、心の中で何度も何度も思考を否定しようとしても、それは事実だと現実は押し付けてくる。
「……学、校……?」
彼女は、もう閉まりかけている学校へと入っていった。
夕焼けが、肌をヒリヒリと刺す。
蒸し暑い。どの教室も、既にクーラーを切っているようだった。
セミの鳴き声がする。
野球部は帰ったのだろうか、練習している声は聞こえてこない。
セミの鳴き声しか、しない。嫌ってほど、静寂に近かった。
「……シェ……それ……どくさい……」
(誰かと、会話……してるの、かな?)
私はドアから隠れ見る。
ゾクッという気配に襲われ、口元を抑える。
初めてだ、こんなに寒気に襲われたのは。
……教室に、ヤバいのがいる。
感覚というか、感触というか、とにかくこの教室に入っちゃいけない感覚がする。
さっきまでの吐き気が襲ってくる。いや、さっきよりも強い。
声が出そうになる。助けてと叫びたい。
(飲み込め、飲み込め、飲み込め、飲み込め!!)
必死に黙り込む。
……ふと、会話が終わったのか、双方が黙り込み、なにか物音が響いたあと、止まった。
私は、再びドアから隠れ見る。
今度は、快弦ちゃん一人だけだった。左手で右腕を抑えていて、その場に立っていた。
ふと、快弦ちゃんが振り返ってきた。
目と目が合う。
「……ぁ」
小さく、快弦ちゃんの声が響いた。
彼女の隠れていた瞳が見えた。……顔が、ぐちゃぐちゃだった。
グロテスクというか、肉が爛れてて、赤く染まってて……とても、人のような顔ではなかった。
瞬間、ガラスが割れて、快弦ちゃんがいなくなった。
「……か、い……つるちゃん……」
私はその場を勢いよく離れて、追いかけることしか出来なかった。




