第87話 元気付けるために
夏の暑さが蝕む中、クーラーの効いた部屋にて私たちは座っていた。
誰もがただ座って待っているだけの中、ガラリとドアが開いた。
金色の髪の毛と、長いまつ毛が見え、その顔は暗く沈んでいた。誰が見てもわかる、香蔵さんであると。
「かく、ら……さん!」
私は立ち上がって、香蔵さんを見る。
香蔵さんは私の肩を掴んで俯いてしまった。どうしたものかと、狸吉さんの方を向く。
狸吉さんは、黙り込み、まっすぐ前を見つめている。
鶴愛さんのこともあった。もしかしたら、相当ショックというか……精神に、ダメージが……?
「春ちゃん」
「は、はい……!」
「……BBQ、しよっか」
……はい?
◇◆◇
「せ、先輩! 焦げます、焦げますって!」
「あぁ、わりぃわりぃ」
「春乃先輩、これどこ置けばいいですか?」
「それは、えーっと……こっちこっち」
「ねぇ〜! 鬼円まだー!? 先生も早く焼いてよ〜! 肉〜!!」
「香蔵……まだ焼き始まったばかりだろ……」
私たちは、学校の一室……ではなく、学校近くの公園にてBBQをしていた。もちろん許可は貰っている。
香蔵さんが急に言い出し、みんなでご飯を買ってきてやり始めたのだ。
いきなり何を言い出すかと思えば、BBQとは……と、みんなでなったものの、楽しそうではある。
「まさか、BBQとは……」
「ごめんね、香蔵の無茶ぶりに付き合わせちゃって」
「いえいえ……落ち込んでたのかとばかり……」
「いや、落ち込んでたよ」
私の言葉に、狸吉さんが返した。
やっぱり、か。あんなことがあったんだ、簡単には立ち直らない。そんなことはわかっていた。
友達や家族が死んだことはないし、経験したくはないが……香蔵さんにとって、鶴愛さんは、家族のようなものだったはずだ。それを失うだなんて……そんなの、悲しすぎる。
私は静かに呼吸をして、肉に勢いよくがっつく香蔵さんを見て微笑む。
「香蔵、辛いだろうに。みんなを元気づけるために……」
「……香蔵さんは、強いですよ」
「……強くても、彼女は女の子だ。みんなで、養ってあげないとな」
狸吉さんはそういうと、手にいっぱいの肉をさしてウィンクする。
私もそれを見て頷き返し、歩き始める。両手にコップに注いだ水を持って、歩き始める。
足に大きな石があり、それを気付かずに足を引っ掛けてしまう。
「あっ」
1カメ。
恐らく私はこの時点でダメだと言うことを察している。
2カメ。
既に体勢は悪い。まだコップから水が溢れてはいない。
3カメ。
鬼円の顔が見えた。それと同時に、手が差し出され……。
「ッブねェ!!」
鬼円の腕が私の身体を支えて私は地面に顔を打ち付けることなく、ギリギリの体勢で踏ん張る。
ドッドッと鼓動がなっているが、それよりも……鬼円の腕に、胸が押し付けられている。
……そう、私の胸が、鬼円の腕に、押し付けられていたのだ。
「…………〜〜〜っ!!!?」
「おま、バッ、動くな!」
何とか体勢を立て直そうと頑張るが虚しく。
鬼円が動いたことで、鬼円の腕の中に飛び込むような形で着地する。
つまり今、私は鬼円に抱かれているような形になるのだ。
匂いがする。
ほんのり、まるで森の中にいるかのような木の匂い。その匂いが鼻に入れば入るほど、どんどん顔が真っ赤になっていってしまう。
「おぉ〜鬼円もやるねェ〜」
「ヒュ〜ヒュ〜」
「うっせ殺すぞぉぉぉ〜〜っっ……!!!」
香蔵さんと黎矻先生が茶化す中、ふと、金之助君と目が合った。
まるで、なるほどと、勉強になります、と言わんばかりの顔だった。
それを何に使うのかは、多分奥の方で顔を少し赤らめて口元を抑えている最近部員として追加された女の子を見れば一目瞭然だろう。
いいね、青春してるね。とりあえず私はこの状態からぬけだしたいかな。そろそろ顔が熱すぎて蒸発しちゃう!!!
「えーっと、おに、まる? そろそろ……」
「ほらよ」
「雑!」
まるで放り投げるかのように、ポイッと私を投げる。
私は体勢を立て直すが、放り投げられたのは納得いかないなぁ〜!
こう、文句のひとつふたつ言ってやらないと……!
「鬼円……女の子投げ飛ばすってどうな……」
私は気づいた。
鬼円の顔が若干ながら、赤いことに。
……もしかして、鬼円さん。
……恋ってやつですか?????????




