第82話 誰が為の
2035年、7月29日。
花火大会があった2日後、鶴愛が香蔵に会いに行くと言っていなくなった日。
その事が知らされたのは、とある住民からの通報であった。
『森の方から腐敗臭のようなものがする』
◇◆◇
──なんで?
──なんでこうなっちゃったの?
──どうして、目の前の、知ってる人は……傷だらけで、血だらけで、死んでるの?
「……ら……!」
──どうして?
──どうして、鶴愛ちゃんが死なないといけないの?
──どうして、こんな酷いことができるの?
「くら……か……ら!」
──どうやったらこんな、こんな酷いことが出来るわけ?
──誰が、こんなことをしたの?
──どこのどいつが、私たちの仲間を、鶴愛ちゃんを殺したの?
「香蔵!!」
「っ!」
狸吉の言葉で香蔵は考えの海から引き戻される。
目の前の磔にされた鶴から目を離し、隣の恋人の方を向く。
狸吉は、息を荒らげながらも、それでも、香蔵を安心させようと瞳を揺らす。
香蔵は、鶴愛の方を指さして、呟く。
「あれって……さ」
「……香蔵」
「あれって……あれ、って……」
香蔵はだんだんと言葉を強めていく。
狸吉は、それを黙ってみるしか無かった。
「鶴愛、だよね? 鶴愛ちゃん、だよね? なんで? なんでこんなことになってんの? ねぇ、なんで? どうして、鶴愛ちゃんがこんな目に会わないといけないの?」
「香蔵。落ち着いて」
「落ち着いて? 私は至って落ち着いてるよ。ただ、知りたいだけ。誰がこんなことをしたのかとか、なんでこんなことが出来るのかとか」
香蔵はポロポロと溢れる涙を気にもとめず、まくし立てる。
狸吉は、そんな香蔵を抱きしめて、その場から離れる。
「……た、ぬきち……さん」
「……おい、香蔵……」
春乃、鬼円、快弦、金之助が2人を見つめる。
そして、遅れてやってきた黎矻は、鶴愛を見て口元を抑える。
「ひ……っでぇ……」
黎矻は口元を抑えてから、目を瞑り十字をその場で切った後、春乃達の方に近づく。
香蔵は、地面にヘタリと座り込み、黎矻を見つめる。
「せん、せい……わ、わたし……つ、鶴愛……わ、た……一緒に、いた……のに……こん、な……こんな……ひどい……ひどいよ……」
「分かってる。鬼円、狸吉、手伝ってくれ」
鬼円は無言で頷き、狸吉は香蔵を掴み、立ち上がらせる。
鬼円は狸吉とは反対側の肩を担ぎ、歩き始める。
黎矻は頭に手を当てて、しばらく考え込んだ後、春乃達に確認を取る。
「あれは、なんだ?」
「……香蔵さんが、可愛がってた……鶴です」
「違うそれじゃない。それは要らんほどあいつから聞かされてる。あれは、なんだ?」
春乃が答えると首を横に振り、再び質問する黎矻。
黎矻自身も、まさかこんな事になるとは思っておらず、困惑していた。
それは、春乃も、金之助達も同じだった。
「……分かりません」
「……っ……分かった。いや、分かってる。ごめんな。嫌なことを聞いた」
黎矻は頭に手を抑えたまま、自分の車に近づいて扉を開けて運転席に座り込み、タバコを吸おうとして……
「……クソっ!!」
勢いよくハンドルの真ん中を殴りつけた。
クラクションが鳴り、そして、止まる。唇を噛み締めたまま、タバコの箱をぐしゃりと潰して、俯く。
「……快弦ちゃん、金之助君……行こ」
「……はい」
「……うす」
2人とも反応して、春乃の後を歩く。
鬼円の家で、香蔵と鬼円、そして狸吉は座り込んでいた。
特に、香蔵は膝を折り畳み、体育座りの体勢で壁にもたれかかっていた。
明らかに誰も口を開けれない状態で、鬼円と狸吉は香蔵を見つめていた。
2人とも何も言わない。いや、何も言えないのだ。何がどうなってるのか、誰も何も分からないからだ。
突きつけられた現実は、香蔵に取って大きすぎる現実なのだ。
狸吉はいてもたってもいれず、香蔵をゆっくりと抱きしめた。
香蔵はそんな狸吉に抱きついて、嗚咽を漏らすのだった。
鬼円は立ち上がり、その場から離れる。春乃達は、ちょうどその鬼円に出会った。
「鬼円……」
「……潰す」
「……え?」
鬼円からオレンジ色のオーラが噴き出る。
春乃も、金之助も、快弦も察している。それは、明らかに怒りを含んだオーラであると。
鬼円の強く怒りを含んだ瞳が、外へと向けられる。
「……潰すしか、ねぇだろこんなん」
鬼円は静かにそう呟いた。
春乃達も、それに頷く。
鶴愛の死亡、それは……超能力部に、大きな影響をもたらしたのだった。




