第66話 決着
───……斬った。
春乃が最初に浮かべた言葉は、そうだった。
鬼円は確かに空中で、ツァーカブの頸を斬り飛ばしたのだ。
それを見て、春乃はダッシュして、鬼円に駆け寄る。
鬼円は、地面に降り立ち、ツァーカブを睨みつけた後、こちらに走ってくる春乃に気付き……。
「おにまるぅぅぅぅぅ〜〜〜っ!!」
「うわっ!?」
思いっきり抱きつかれた。
まさかの事態に、鬼円自身もビックリして、倒れてしまう。
「何やってんだお前!」
「だってぇ……だってぇぇ……」
鬼円はため息をついた後、春乃と共に立ち上がり、香蔵を見つける。
香蔵は血だらけで座っていながらも、こちらを微笑ましく見ていた。
それを見て、春乃は自身がやった事を再確認、顔を赤らめて鬼円から離れる。
(なんだこいつ……抱きついたり離れたり……)
ご尤もである。
鬼円はそれはそれとして、と呟き……ツァーカブに近づく。
身体が徐々に灰となって空へと浮かび、ツァーカブは満足気な表情をしている。
鬼円はそんなツァーカブに近づき、刀を目の前の地面に刺す。
「……お前、誰の手下だ?」
「……さぁね」
鬼円はツァーカブの顔面を踏み、地面に刺した刀を引っこ抜き構える。
鬼のような形相をしている鬼円に、ツァーカブは「ふふふ」と笑う。
「貴方、何も分かってないのね」
「あぁ……?」
「私が吐かない事ぐらい、分かってるでしょう」
「………………」
鬼円は黙りこみ、小さく舌打ちをする。
脚を退けて、睨みつけたまま刀を鞘にしまって消す。
「……とっとと失せろ」
「……えぇ、そうするわ」
ツァーカブは目を閉じて言った。
「……クリフォトの樹に感謝を……」
「……あ?」
ツァーカブは、そう言って灰となり、消えた。
鬼円は最期の言葉を聞いて首を傾げるも、すぐさま痛みと疲れにドッと襲われ、考えをやめる。
鬼円はフラフラと歩きながらも、その場から歩き出して壊れた建物の外へと出る。
そして、春乃達の方を向いて言った。
「とっとと帰ろう、警察が来てそうだしな」
「えっ、う、うん……」
その言葉に春乃達は頷き、その場を後にした。
◇◆◇
「ここです、入ってください」
「……お邪魔します」
「おっじゃましっまーす!」
「わぁ元気……」
私たちは私の部屋があるアパートにまで辿り着き、何とか中に入る。
中では、鶴愛さんがプンプンと腰に手を当てて怒ったような顔をして、その隣では狸吉さんがお茶をずずずっと飲んでいた。
どんどんと歩きながら鶴愛さんは私の頬を引っ張って口を開く。
「な〜に〜し〜て〜る〜の〜?」
「ず、ずびばぜん……!」
「ほんっとにあなたと言う人は!」
そうしていると、香蔵さんが私の裾を掴んでくる。
そちらを向くと、香蔵さんは今にも泣き出しそうな顔でプルプル震えていて、狸吉さんを指さ……し…………て?
「……ブチギレてるよなあれ」
「……だね」
「……しばかれるよな、あれ」
「……だね」
流石の鬼円も顔を真っ青にして、狸吉さんを見る。
私も鬼円同様、顔を真っ青にして狸吉さんの行動をよく見る。
狸吉さんはお茶を飲み終えたのか、上まで上げたコップをドンッ!! と机の上に強くモノ音を立てて置く。
それにビクッと私たちは反応する。
「鶴愛さん、入れてあげてください」
鶴愛さんは狸吉さんの方を向き、頷いて私たちを引っ張る。
引っ張った末、狸吉さんの目の前に連れ込まれる。
「……あのー、狸吉さん……?」
「……正座」
「……はい?」
「……せ、い、ざ!」
私たちはコンマ0.1の速度を出して座る。
特に香蔵さんなんて震えていてバイブレーション機能を付けている携帯みたいになっている。
狸吉さんはゆっくりと俯いていた顔を上げて……その激怒した顔を見せた。
「……何その傷」
「……ええっと……」
私たちは事の発端を説明する。
それを聞いていた狸吉さんはどんどんと鬼のような形相から何とかその形相を退けて行った。
だが、それはそれとしてという風に怒りという名の火はまだ消えていなかった。
「あのね、わざわざ決着をつけようとしなくて良かったんじゃないの?」
「いやそれは……」
「黙りなさい鬼丸」
「……」
鬼円が黙らされた!?
「逃げることも戦いの内、だよ」
狸吉さんは私たちに真っ直ぐ向いて言う。
狸吉さんは立ち上がって香蔵さんの頬を掴む。そして、そのまま……
「ふん!!」
「おぴょっ!?」
「「!!?」」
香蔵さんの頬を両方の手で叩いた。香蔵さんは変な声を上げて両頬を抑えている。
それに私たちは口を開けて動きを止める。
ゆらりとこちらを向く狸吉さん。私は硬直したままであったが、鬼円はその場から立ち上がって逃げようと…………あっ、鶴愛さんに捕まった。
結局、私たちは狸吉さんに頬を引っぱたかれてその1日を終えるのであった。




