第62話 エンカウント その②
(……クソっ、クソクソ!)
心の中で自分に悪態をつく春乃。
そして、折れた肋骨を抑えながら、立ち上がる。
(痛い、痛い……! 直ぐに誰かを……呼びに行かないと……!)
携帯を取り出す春乃。
だが、そこに書かれているのは圏外という文字。
「……圏……外…………?」
ここは、東京だ。そう考える春乃。
なんとか歩き、作られたフィールドの端につき、そこから下を覗く。
そして、その光景を見て絶句した。
「私たちは……空中にいるの……!?」
下には、街が映っている。
それはつまり、自分たちは空に浮いていて、地上の電波が届いていないということを示していた。
現在の東京の電波は相当強いが、それでも上空には伸びていない。東京の電波は、約300mが限界なのである。
春乃の携帯が圏外になっているということは、春乃達は300m以上の高さにいるということを示していた。
300メートル上空とは、小型無人機の飛行が禁止されているほどの高度。
「こんな高度……アイツ一人で……抑えてるの……!?」
そう言ってキムラヌートの方を見る春乃。
香蔵とキムラヌートは大きな音を鳴らし、ぶつかり合っていた。
香蔵の頬には血が垂れ、キムラヌートはニヤッと笑みをこぼす。まだまだ、どちらも満身創痍ではない。
「どうした? 笑みが剥がれつつあるぞ……?」
「……うっさいわ。ボケ」
と、言いつつも香蔵は内心考えていた。
どうすればこの状況を打破することが出来るのか、である。
(可能であれば、春ちゃんを今すぐにでも下に下ろしたい……)
香蔵は、自身の能力を発動させ、地面に落ちている小石や、岩を蹴る。
それは、キムラヌートには当たらず、キムラヌートは自身の背中から尖った岩を鞭のように振るう。
「動け動け!! ほらほらほらァァ!! クッハハハハハハ!!!」
片方の目を見開き、大きく口を開けて笑うキムラヌート。
香蔵は、『月魂:皇帝の幻想』で攻撃を防ぎつつ、春乃に近づく。
「どぉっ?!」
「無理です! 圏外! それに、よく分からないけど……下の人達が騒いでないから……見えてないかもです!」
「透過、いや……透明にして見えなくしてる。それによって、仲間に気付かれずに私たちを殺せるわけだ……」
なぜ下が騒がないのか。透明化が理由であると2人は踏んだのだ。そして、それは正解に近く、不正解であった。
唐突だが、石灰岩というものをご存知だろうか?
炭酸カルシウムを50 %以上含む堆積岩の事である。
石灰岩は比較的風化されにくいので、山脈中の高いピークや大きな山となっている場合が多い。例えばヒマラヤ山脈のエベレストの頂上や、例えばアルプス山脈のアイガー等は石灰岩で出来ており、日本では伊吹山や藤原岳や武甲山が全山、石灰岩である。
石灰岩は、白く見える岩だ。
水色の岩石は、とても珍しいものだ。
だが、空には何がある?
「不正解だな……俺たちはいま、雲の上だ……!」
「……!! 雲と、一緒に動いて……バレないようにしてるのか!」
例え、雲の下を見たところでそれは白い。
白い上に、白のものを重ねても白しか見えない。
雲に乗るかのようにして、土地を隠していたのだ。
(なんつーやり方……!! こんなん、漫画とかアニメとかでしか出来ないでしょーが!!)
香蔵が心の中で叫ぶ。
力技と言うには、あまりにも力が過ぎると。
だが同時に、香蔵は内心ほくそ笑む。
「だけどそれ、結構な力使うでしょ……?」
「……チッ。あぁそうだよ」
香蔵は齢5歳にて超能力を持ち、そして今でも使っている。経験と知識は超能力部の中でも負けていないが、それらは自分の武器にもなる。
超能力は便利な一面や攻撃的な一面を見せる中、どうしても避けられない問題がある。
それは、エネルギー問題である。
筋肉を酷使し過ぎれば、筋肉が炎症するように。
機械を酷使し過ぎれば、どこかでガタがくるように。
超能力も、酷使し過ぎれば、自身のエネルギーを使う。とどのつまり、ゲームなどで言うMPのようなものなのだ。
「アンタ、いま本気出せないでしょ?」
「……話は、終わりだ!!」
痛いところを突かれたせいか、話を無理やり切り上げるキムラヌート。
地面から生え出る幾つもの岩槍を粉砕しながら空に跳躍する香蔵。
「流石の私でも、この量は動かせない……! だけど……!」
キッとした目つきでキムラヌートを睨む香蔵。
その目には、ある決意のようなものが宿っていた。
(減らせば、私だって……!!)




