第61話 エンカウント
ツァーカブと鬼円がぶつかるその前。
春乃は帰宅するために、香蔵は鶴愛に会いに行くために歩いていた。
たわいもない会話を続けながら歩く2人。
その前に、とある人物が現れた。
「……あれ?」
「……っ、香蔵さん!」
春乃はその人物の顔を見て、脳内で警報を鳴らし、香蔵に手を伸ばす。
だが、その手は、浮き上がった地面により、届かなかった。
「うわぁぁぁぁ!!?」
春乃の下の地面が浮き上がり、宙に飛ばされる。
そして、いくつかの物体と物体がぶつかり合い、大きなフィールドのようになる。
春乃は地面に手をつけて、それに驚愕していると、横から脇腹を蹴られた。
「ごホッ!?」
「貴様のせいだ……」
脇腹を蹴られたことで、地面に転がり、咳き込む。
そんな春乃に近づき、再び蹴りを入れる男性。何回も、何回も、何回も蹴りを入れる。
「貴様のせいで、俺は……失望されただろうが!!」
「ァア゛ア゛!!?」
再び蹴りを放つ。それが春乃にとってまずかった。
その蹴りは、脇腹ではなく、肋骨辺りにいく。そして、鈍い音と共に春乃に大きな痛みが走る。
春乃は目を見開き、肋骨を抑えて叫ぶ。
「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」
「チッ、叫ぶなよ……五月蝿いだろうが!」
コンクリートで作られた丸い球体のようなものを、口に詰める男性。
その顔は、邪悪に塗れており、ニヤッと笑みを浮かべる。
(なんでこいつが……ここに……!?)
春乃は脇腹を抑えながら睨みつける。
その顔に見覚えがあると言ったものでは無い。何故ならば、自分が初めてバールを持ち、殴った相手だからだ。
「キムラヌート……!!」
「ははっ、覚えてやがったのか女ァ」
キムラヌートは笑いながら春乃の首を掴み、持ち上げる。
春乃は脚をバタバタと動かし、キムラヌートの腕を掴み、精一杯の抵抗をする。
だが、それも虚しく、どんどんと力を込めるキムラヌート。呼吸が出来なくなり、肺にある酸素が減っていくのを春乃はどんどんと感じていた。
(死ぬ……? ここで……死ぬ……?)
春乃の目から1粒の涙が落ちる。
キムラヌートはさらにその笑みを横に広げ、口の中から声が出る。……尤も、それは笑い声だが。
「ハハハハハハ……ッハハハハハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
遂に、春乃の目の前が暗くなっていく。
春乃の瞼が閉じかけた時、光が辺り一面を照らした。
「『皇帝の幻想』!!!」
剣が空を斬る。
春乃が落ちると共に、黄色の髪の毛がその周りを舞った。
「大丈夫? 春ちゃん?」
「……か、香蔵……さん……ゲホッゲホッ、ケホッ!」
春乃が喉を抑え、足りなくなった酸素を取り込み、走らせる。
香蔵はそんな春乃を見て、微笑みかけてから、キムラヌートの方を向く。
「さて、続きをしようか」
「……てめぇとは戦わねぇつもりだったんだがな……」
キムラヌートが構える。『皇帝の幻想』が剣を香蔵の前に構えた。
キムラヌートと、香蔵が睨み合う。
「行くよ、『皇帝の幻想』!!」
「来いよ、幽霊女!!」
悪意と満月が、衝突した。
◇◆◇
「始まったようだね、カイツール」
「……どうやら」
カイツールと呼ばれた黒ずくめの人物は頷く。
その前に座っている男は、グラスを持ちその中に入っているドス黒い液体を1口含む。
「……人間の悪意と血、そして……ワインを混ぜたものは美味いよ。君も飲んでみるかい?」
「……いえ、未成年なので……」
「そうかい、そうやって断られると悲しいねぇ」
その混ぜ物のワインをもう一口飲む男。
カイツールは瞳を閉じて、後ろを振り向き部屋から出ていく。
男はそれを見つめたまま、だが、止めはしなかった。
「さぁて、期待してるよ、ツァーカブ、キムラヌート」
男はそう呟き、グラスを割った。




