第60話 決闘
キィン! っという鉄をぶつけたかのような音が、閑静な住宅街で鳴り響く。
そして、家の屋根の上に乗っている青年……鬼円が、ソニックブームのような衝撃波を纏いながら奥に女性に蹴り飛ばされた。
もちろん、人間の身体でソニックブームは出せない。いわゆる例え、というやつだ。
鬼円は道路に顔面をぶつけ、そのまま広々とした場所に出る。
そして、鬼円は、鼻血が出ている鼻を擦り、血を地面に振るう。
「ふふ、頑丈なのね」
「うるせぇな……」
鬼円は周りを見て察する。
ここは、何かしらの倉庫がある場所であると。
「人目に付くだろうが」
「あら、そうかしら? 人間の願望って意外と役に立つわよ?」
鬼円がふと、通りすがった人を見れば、鬼円達をみてそそくさとその場を離れた。
その人の目は、赤色に光っていたのは、鬼円も認知できた。
「……能力か」
「そうよ。私の能力は以前と変わってるけど、人の欲望や願望を操れるの」
ツァーカブ。
彼女の能力は元々「色欲」というものだったが、それは昔の話。現在では、彼女の説明通り欲望や願望を操り、人々の行動を支配出来るようになっていた。
人間とは、誰しもが望みを持っている。
赤ん坊であれば、「トイレをしたい」だとか「寝たい」だとか。まだまだ成長途中の少年少女ならば、「あれが欲しい」や「これが欲しい」だの、様々な望みがある。
ツァーカブの能力はその欲望をより大幅に大きく膨らまし、その人物の脳を操ること。
通常、欲望を持っていたとしても人間は『法のある中』で求める。
法があるということは、例え欲しいものが目の前にあっても、それを盗むことは許されない。例え、目の前に殺したい人間が出たとしても、殺せない。
ツァーカブは、その欲望を伝い、脳を操る。
つまり、本人の意思ではなく、ツァーカブの意思でその人物の欲望に向かって歩ませることができるのだ。
「テメェのその能力は、万能な訳じゃねぇだろ……!」
「えぇ、そうよ? どんな人物でも万能な能力なんてない……」
鬼円の言葉に、ツァーカブが答える。
万能では無い、ならばどこが欠点なのか? それは、『欲望を持っていない人間に能力は発動しない』こと、そして『欲望を求める心が小さく、不確かなもの』には弱い事だ。
とくに、後者には実例があった。
「あの子、幅次李よ」
幅次李。
冷世の元いじめっ子であり、現在では友達である少女。
彼女は、ツァーカブに操られていた。『冷世よりも、もっと活躍出来るようになりたい』という望みを持っていた。
だが、彼女のその欲望は弱かった。
そして何よりも、春乃や狸吉の介入。それもあり、彼女自身で欲望を消したのだ。
「ほんっとに使えなかったわあの子。例え私が支配しようと犯罪とか、人間としての意思だとかで中々動かせなかった」
「そりゃあ、テメェみてぇなやつに操られてたまるかって本能が叫んだからだろうが……よ!!」
鬼円が飛び出す。
鬼円の刀が、彼女の首に迫ったところで、彼女の蹴りが鬼円を貫く。
鬼円は後ろに吹き飛ばされるものの、刀を地面に立てて、威力を緩和する。
「これ以上テメェの好きにさせっかよ!!」
鬼円が再び走り始める。
刀を振るい、ツァーカブの腕を斬る。ツァーカブの腕に鮮血……ではなく、灰のようなものが昇る。
それを見て、鬼円が目を見開く。
(やっぱりか……こいつも!! あいつと同じ!!)
瞬間、キムラヌートの拳が鬼円を捉える。
大きな打撃音と共に、倉庫の方まで吹っ飛ばされる鬼円。
鬼円は地面を2、3回転がった後に地面に手をつけ、バク宙のような形で地面に降り立つ。
その後、倉庫の入口に入っていく。
(……なんで入った? そっちに出口はない……袋小路のはず……)
ツァーカブは少し考えた後、ニヤッと笑いながら倉庫の方まで歩く。
ツァーカブが倉庫の中に入ると、ガタンと倉庫の扉が閉まり、後ろから鬼円の刀がツァーカブを貫く。
峰打ちだったようで、痛みだけが身体に走り、前に転がり、後ろを振り返る。
そこには、大きなオレンジ色のオーラを放ちながら、立っている鬼円の姿があった。
「さぁ、行くぞクソッタレ」
「はんっ、アンタが私に勝てるわけ……!?」
ツァーカブがそこまで言うと、鬼円が地面を思いっきり蹴り飛ばし、ツァーカブの横を駆け抜けた。
ツァーカブは唐突なことに後ろを振り向くが、そこには既に、鬼円はいなかった。
ツァーカブがどこだと探していると、上から衝撃が走る。
鬼円は、ツァーカブに飛び蹴りを放ったのだった。
ツァーカブが鬼円の足を掴もうとすると、空を切った。
「……!?」
ドッ、という音が鳴り、ツァーカブは音の鳴った方を向く。
鬼円は壁を蹴り、天井を蹴り、地面を蹴り、反対側の壁を蹴り、地面を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、地面を蹴り……
鬼円は、倉庫の中を縦横無尽に跳んでいた。それも、ツァーカブの周りを。
(速い……!? 捉え、きれない!?!?)
ドドドドドと、物凄い音と共に、鬼円の刀がツァーカブの皮膚を斬り裂く。
ツァーカブはなんとか対応しようと、目を動かすが、あまりにも強い力で壁を蹴っている鬼円の姿は捉えきれていなかった。
「ジジイから教わったぜ……」
独白のような、そんな風な声で鬼円が呟く。
「俺たちは決して、地面に脚をつけているんじゃねぇってよ……」
鬼円はツァーカブの喉元を斬り裂く。
ツァーカブは首から溢れ出る灰のようなものを抑えながら、片足を地面につける。
「地面も、壁も、天井も、脚をつけれるんだ……ただ、重力っつぅめんどくせぇ壁があるだけでなぁ」
ツァーカブの片足を斬り伏せる鬼円。
ついに立てなくなったツァーカブは地面に倒れた。その背中すらも、斬り裂き、斬り裂き、斬り裂く鬼円。
「畜生でイラつくジジイだけどよ、言ってることはすげぇ正しいんだ……そんなジジイが言ってたぜ、縦横無尽に駆け抜けろってな!!」
鬼円がツァーカブにトドメをさそうと刀を構えた。
その瞬間、大きな轟音と共に、倉庫が崩落した。




