第52話 元凶
「なっ!?」
「っ! おい、花畑!! 止めやがれ!」
「俺じゃねぇ!!」
いきなりのコンクリートの雪崩に、各々が反応する。
哲殻は羅救と春乃を抱え、遠くに走り出し、徹太達も走り出す。悪噛と鬼円、そして香蔵は能力を使い、コンクリートを壊しながら耐える。
いきなりの事に、鬼円は真上を見る。
「……誰かいやがる!」
「っ!」
工場の上から、黒い影が飛び降りる。煙が辺りを舞い、影が見えなくなる。
瞬間、全員の脳裏に『死』という文字が浮び上がる。
鬼円、悪噛、徹太は各々武器や拳を構え、鬼のような形相のまま冷や汗を垂らす。
煙の中からは、誰かの笑い声がする。
「ハハハッ、そんなに睨みつけんなよ」
フードを被った黒い影が空中に浮いていた。
それを見て、全員が息を飲む。
普通の人間が空中を浮遊することはまずない。さらに言えば、花畑と徹太が知らない人間ならば、絶乃罵悪栖でも汚夢爾罵悪栖でもない。
無論、悪噛はそんな存在を知らないので静かに拳を構えるだけだ。
ただ、この場にいる2人だけが違う反応を見せていた。
「コイツ……!!?」
「学校にいたもう1人の……!」
それは、鬼円と春乃であった。
その様子を見て、香蔵が鬼円の方を向いて尋ねた。
「知ってるの!?」
「あぁ、コイツ……俺を襲ってきやがった仲間のひとりだ!」
「先月はどーも。ツァーカブがお世話になったな」
その名前を聞いて鬼円は確信する。コイツが、その仲間のひとりだ……と。
(何しにきやがった……!?)
「何しにきやがったって顔だね。まぁ聞けよ」
心を読まれた鬼円は構えをさらに低くし、何時でも頸を取れる様に準備をする。
そんな様子を見て「やれやれ」と首を横に振るフードの男。だが、言葉を続けた。
「そこの男の『透明な壁』は俺が作り出したものだ。つまり、そいつ自身に力は無い」
「じゃあ、なんだ? てめぇがずっと花畑のことを見てて、タイミング合わせて作ってたって訳か?」
「頭がいいね君は」
徹太の言葉に頷くフードの男。それを聞き、徹太の額に血管が浮かび上がり睨みつける。
そんな中、先手必勝と考えた鬼円は能力を発動させ、腰にある刀を手に取り、飛び上がる。
それを見て、敵であるフードの男は手を鬼円の方に突き出し、地面にあるコンクリートの欠片を空中に持ち上げ、鬼円に放つ。
鬼円はそれに乗っかり、さらにフードの男に近づく。
「オラァ!!」
「っぶね」
フードの男を真っ二つにするかのように刀を振るが、それを軽々しく避けられる。
だが、風圧によってフードは外され、その顔が顕になる。
短い金色の髪に、通常白いはずの目が黒く染まり、瞳がカラコンを付けたかのように金色に染っていた。
空中で身を回転させ、鬼円を蹴り落とす男。
鬼円は地面に叩きつけられ、その衝撃で肺にあった空気を吐き出し、しばらく咳き込む。
「いきなりでビックリだぜほんと」
「テメェ、なにモンだ?」
悪噛の言葉に彼は手を広げて言った。
自身の名前を、世に知らしめるかのように。
「キムラヌートだ。よろしくな」
その言葉が聞こえた瞬間、悪噛がキムラヌートに飛び込み、徹太がキムラヌートに向かって走る。
キムラヌートに拳を当てようとする悪噛。
キムラヌートには届かず、逆にカウンターを食らってしまう悪噛。
キムラヌートの後ろに回った徹太は脚を掴まれ、地面に叩きつけられる。
「ガッ!?」
「君は寝ててくれよ」
操られたコンクリートが徹太に纏わりつき、地面に固定されてしまう。
それを見て、香蔵が動く。
香蔵が手を上げると同時に『月魂:皇帝の幻想』を再び呼び出す。
その手には既に、『月魂:日食の剣』が握られており、キムラヌートに駆け出す。
「こいつは、ちょっとヤバいな!」
「叩き斬れ! 『皇帝の幻想』ッッ!!」
『皇帝の幻想』が剣を振るうと、キムラヌートが飛び退ける。
だが、諦めない香蔵は、さらなる追撃を『皇帝の幻想』に示す。
だが、地面のコンクリートが『皇帝の幻想』に纏わりつき、地面に倒す。
瞬間、先が尖っているコンクリートの嵐が『皇帝の幻想』を突き刺す。
「ほれほれ、コンクリートの槍の嵐だ!!」
「っ!!」
『皇帝の幻想』は為す術なく穴ぼこだらけになり、再起不能となってしまった。
仕方がなく、香蔵が『皇帝の幻想』を消すと、コンクリートの槍を持ったキムラヌートが飛び込む。
香蔵に迫るキムラヌート。それを見て、春乃の頭がフル回転する。
(止めないと。止めないと。止めないと!! どうやって!? 相手はコンクリートを持ってる! 鉄板? ダメだ貫かれる! 鉄板を何枚にも重ねたら? 私が持たないし、衝撃は殺せない! どうする!? どうする!!?)
ふと、すぐ側に落ちているバールを見つける。
それを見て、冷や汗が垂れる。
(バール……!? 止められるか? 殴れば……!! でも、どうやって!? あんな動きをする相手を、私が? どうする!? どうやって…………)
だが、春乃は考えをやめてバールを手に取って走る。
香蔵ではなく、キムラヌートの方へと走り出し、全力で振りかぶる。
「3秒後の予測はっ!! ココっ!!!!」
「何!?」
直線状を移動している相手の3秒後を予測。
それによって、いきなりでは無いにしろ、予想していなかったことをされたキムラヌートは急には止まれず……
「うりゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
ゴン! っと鈍い音がその場に鳴り響いた。




