「お前は妹に嫌がらせをしたな!」「双子のどっちですか?」
「見損なったぞスミカ!妹をいじめていたなんて!」
親しい人間に注意するだけにしては大きすぎる声で、王子が言う。
非難された少女は、黙ってシャンパンのグラスを傾ける。
「妹に嫉妬し、嫌がらせによって注目を浴びようとするなど……言語道断!恥を知れ!」
スミカは無言でグラスを傾ける。鼻の穴を膨らませた王子は興奮のままに、沙汰を言い渡した。
「反省の色も見られないようだな!いいだろう!私はお前との婚約を解消し、お前が嫌がらせをしていた妹と結婚する!さあ、妹のカスミを呼んでくるがいい!」
スミカが口を開いた。
「私カスミなんですけど」
沈黙。
何とも言えない空気をぶち壊したのは一人の少女である。
「あっカスミー?言われた通りプライドポテト二人分取ってきたよー……ってなにこの空気」
スミカとカスミ。
名前で察せられるかもしれないが、双子である。
お揃いの髪型でお揃いのドレスを着た二人は、まさに仲良し姉妹である。
「スミカ、あんた私をいじめてたらしいわよ」
「えっホント?ゴメン!」
「鵜呑みにすんなおバカ」
はぁ、とため息とともに王子に向き直るカスミ。
「殿下?私たちの関係はこの通りですが?」
「いや……いや待て!姉に脅されてそう振る舞っているだけかもしれないだろう!まったく、お前と言うやつは、カスミ!妹をいじめて楽しいのか!」
「ねえちょっと何言ってんのこの王子」
「しっ、目を合わせちゃいけないわ。この男婚約者とその妹も見分けられなかったような男よ?」
「お前らが双子だからだろう!」
「おうおう。ならどっちが姉でどっちが妹なのか、ちゃんと決めてもらおうじゃありませんか?」
スミカの言葉に、王子は沈黙する。
沈黙再び。
「さ、先に生まれた方が姉だ!」
「ちなみに私たちはお互いの名前で相手を呼んでます」
「どっちが姉とか妹とか、意識したことないしー?」
沈黙三度。
「で、その、姉が妹をいじめてるとか、そんな話誰から吹き込まれたんですか殿下?」
「それは、告発者を守るために明らかにすることはできない……」
「その告発者はどっちを姉だと思ったのやら」
スミカは呆れて天井を仰ぐ。
「だいたい!私たち今代の聖女認定されてますけど、歴代の聖女と違って二人で一人分なんですからね!」
カスミが伸ばした手を、スミカが反対から重ねる。
「ちなみに私は自分と同じ顔をした人間をいたぶるような倒錯した趣味はありませんけど……殿下はおありで?」
「私だってないんだからなー!この変態王子!」
「誰が変態だ!」
その時、群衆の間から声が上がった。
「あれ、でも確か殿下が最初婚約者を決めるとき、スゴいゲスな言葉を吐いてたとか……」
「ああ、俺も聞いた。王族は代々聖女と結婚することになってるから、『双子で両手に花!』とかなんとか」
「そそそそんなこと言ってねえし!」
「バッカお前変態王子だぞ?もっと下品に言ってたはずだぜ」
「じゃあ『双子でハーレム』とか、『双子丼』……とか!?」
「いや確かさん『ピーッ』って」
「キモッ。聖女様可哀想……」
「あれが次代の国王かよ……この国終わったんじゃないか?」
顔が怒りで赤くなる。しかしろくに言い返せない。婚約者の双子はどんどん距離を取り始める。
王子は大きく息を吸い込み、逆転の一言を放った。
「仕方ないだろう男なんだから!」
その後貴族の間から、『あの変態と同じ扱いになるなら女性になりたい』という悲痛な叫びが上がったそうな。
めでたしめでたし。