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63話「これからのこと」






「子供の奴隷ですか。あそこの国も酷いことにますねぇ」


マーシュが治療を終えた子供たちに睡眠魔法を施していた。


「奴隷印があると命令に逆らえません。逆らうと想像できないほどの苦しみを味わいます。きっと魔力の高い子供を攫ってきて良いように使っていたのでしょう」



先程マーシュから聞いたのだが闇の魔力とは本来人間は備えることが出来ないという。


闇魔法を扱うために必要な事は……人の命を生贄にした儀式を行うこと。


近年諸外国の裏社会では魔力の融和性が良いとかで子供の肉親を生贄にして儀式を行い、その後儀式によって闇の魔力を宿した子供を奴隷として扱う事が増えており問題になっているそうだ。


そして、禁忌魔法である奴隷印を押された奴隷は主に逆らう事が出来ないという。


子供達は自分の意思に反して犯罪を積み重ねていく。


ラインハルトはその子供を利用して私達を殺そうとした、という事らしい。


ラインハルトの様な者達がいる限りはこうした子供達は減らないとマーシュは言った。



「可哀想ですが…ルタの言うように彼らは王国で裁かれ、闇の魔力を封じなければなりません。その後、元の国へと引渡しとなります」

「……引渡した後はどうなるのでしょう」

「その国によりけりですが最悪の場合は処刑処分、奴隷制度がある国でなら通常の奴隷として労働を強いられると思います」



あまりにも残酷な未来。ルタ様が言っていた通り極刑はまぬがれないのか。

この子達はなりたくて暗殺者になったんじゃないのに。


「何とか…できないのでしょうか」

「難しいでしょうが、子供ですし奴隷印もあるのでルタが裁判の際にフォローを入れてくれるでしょう。自ら進んで罪を犯していない限りは極刑まで重い罪にはならないと思います」



肉親を犠牲にされ、心までもを操られ人を殺めさせられた子供達。


例え処刑や奴隷になる事を免れたとして、彼らの心の傷は深いだろう。



「この子が最後ね」


全ての子供達を癒し終える。

私に出来る事はこれぐらいしかない。


子供たちをルタ様に託し、処分が軽く済むことを祈るばかりだった。







森の入口へと戻ると、行方が分からなくなり後ほど捜索予定であったロージュが呑気な顔をして持参の高級そうな椅子に座っていた。



「あら、ルタ様? 随分と遅かったですわね。それにボロボロですし……。私が癒して差し上げますわ!あ、あとラインハルト様はどちらに? 」

「……ロージュ嬢に伺いたい事がいくつもあります」



まずロージュに声をかけたのはルタ様だった。


表情は険しく冷たい。

あれだけルタ様に媚びていたロージュでも流石に何かを察して表情が強ばる。


あの様子だとロージュは何も知らなかったのかもしれない。


ロージュはルタ様や第3騎士団数名に連れられ、入口にある小屋の中へと連れられて行った。




しばらくして聴取を終えたルタ様が戻ってきて、私とマーシュに声をかけた。


「……先程の事については何も知らなかったそうだ。問い詰めている時に今回の件とは関係ないが妊娠している事も嘘だったと明かした。ラインハルトとケイの婚約を解消する為にロレーヌ侯とローズ夫人も含めた四人で決めたそうだ」

「妊娠が……嘘 」


──衝撃だった。

ラインハルトとロージュが幼い頃から仲が良かったのは分かっていた。ラインハルトが私を婚約者としての扱いをしてくれなかった事、一人の女性とした向き合いをされなかったのは、彼らが想いあっていたからだと思っていた。それ故、婚約破棄されとても傷付いたがラインハルトとロージュが昔から想いあった末に子を授かったのであればそれも仕方が無いと思っていた。


ルタ様が今回の件をロージュに問い出すと「妊娠は嘘だけどその件は知らない、他の事も分からない」とだけ泣きながら繰り返し話したという。


私がロージュの身体を見た時に感じた違和感の正体とは、彼女が“妊娠していない可能性がある“という事だった。


胎児も小さいながらに魔力を含んでいる。彼女の腹部に生命反応(魔力)を感じなかったのは胎児がまだ小さいからではなく妊娠そのものが嘘であったからなのだと。



「それとラインハルトが俺を拷問してる時に気になる発言が幾つもあってな。今回の件以外にラインハルトだけでなく、ケイには申し訳ないがロレーヌ侯やローズ夫人に聴取をしたい事も沢山出てきた。森の警備等についてはクラレンス家が一旦管理する。騎士団の仕事と平行して行わなければいけないから暫く忙しくなってしまう。……一人にしてしまう時間が増えてしまう、すまない」

「いいんです。私の事は気にせずにすべき事を成してください」

「ルタ、ケイ様の魔力について私も色々と調べたりしたいので大丈夫ですよ。寂しい思いはさせませんから──っ痛! 痛いですよルタ!! 」


スっと私の真横に立とうとするマーシュの腕をルタ様が力強く抓った。


力が強いですよ……。と そうにマーシュはボソッと呟いた後にコホンと咳払いをして話を続ける。


「ケイ様の特異な魔法をこの目では確認出来ませんでしたが残存していた魔力の気配とルタや新兵の話はとても興味深い。光と闇の魔力はお互いに打ち消しあってしまうが、ケイ様の魔法は闇の魔力を完全に上回り、黒装束達は意識を失い魔道具さえも壊れてしまった。これは”マリア”と非常に似ている……」


マーシュはルタ様に聞こえるか聞こえないかの声で私の実母、”マリア”の名を出す。

普通の治癒魔法を凌駕する効果を持つ私の魔法。

母、マリアが“異世界から召喚された聖女“であるのならばその血を受け継ぐ私も特異な魔力を秘めている可能性があると考えるのは当然なのだろう。


「特異な点について気になるのは分かるが俺がいない間はケイに近づくな。調査は少し落ち着いてからでも良いだろう」


自分自身の事についてもっと知りたいと思えるようになったし、今回の件で自分が如何に世間と魔法について無知だと思い知った。


「ルタ様。私は自分自身の事についてもっと知りたいですし、魔法の事も更に学びたいです。……先程思い知りました。私はまだまだ魔法や魔力について世間知らずだし知識も少ない。学んで自分の出来る事を増やさなければいけないと」

「……その件だが、ケイの魔力調査も兼ねて魔法学校に行くのはどうかと思っていた」


王立魔法学校。

本来なら通っていたであろう魔法の専門機関だ。王国内の11歳から18歳までの魔力を持つ全ての子供が身分を問わずに入学できる。魔法の専門家も多く、より詳しく調べることが出来るかもしれない。

今の私にはあるのは親の息がかかった雇われ教師からの最低限の知識とマナー、本でしか学べなかった魔法や世界のこと。


マーシュも知識も豊富で優秀な魔法使いだ。「教える事はない」と言われたがそれはこの日に備えて“必要最低限の教える事“だと思う。彼から学べる事はまだまだ沢山あるだろうけど、マーシュは優しいから私はそれに甘えてしまいそうだ。



「マーシュの元でも十分立派な治癒魔術師(ヒーラー)になれるだろう。でも一人の人物からだけでなく、様々な教師や教本から学んで欲しい。それに……君は学校に行くことを許されなかった」

「……そうですね。ですが私はもう十八です」

あそこ(王立魔法学校)は、魔法の才能があっても事情があり学ぶ事が出来なかった者が通学できる制度がある。俺が学長に声をかけておけば問題ない。期間は自分が学びたいだけ通えばいい。魔法学校のある王都はクラリスの街から馬車で30分ほどだし、王都であれば少しなら君の顔が見れるかもしれない」

「王立魔法学校なら設立当初に私も通っていました。いつも講師として来てくれないかと言われてましたので臨時講師として私も……」

「駄目だ」

「クラリスで一番のヒーラーですよ私は。治癒魔術に関しては右に出るものはいませんよ」

「必要な時に来ればいい。常にケイに付き添う必要はない」


いつもの二人を見て自然に笑みが溢れる。



「……ふふっ」



そんな私に「帰ろうか」とルタ様は優しく手を引いた。








──事件から1ヶ月が経過した。



あの後直ぐにラインハルトは王宮の地下牢へ留置され、王宮魔術師の施した自白魔法(使用許可がないと罰せられるらしい)にて様々な事を暴露した。


当日の新兵を人質に取りルタ様を痛めつけた事、プランが上手くいかず殺そうとした事、外国から雇った黒装束達は今回の件だけではなくクラリスの火災時にも利用していた事。


ロレーヌ家と共にロレーヌの森の警備費用を着服していた事。


クラリスの街を燃やし、私を婚約者として迎えた事で不幸を演出しようとした事。(社交界で噂を流したかったが聖女という予想に反した噂が流れて逆効果であったらしい)


ロージュは私が聖女と呼ばれているのが気に食わず、自分が聖女と呼ばれるために戦場に来た。私よりも自分が優位でないと気がすまなかったのだと思う。今は厳しい国外の修道院へと送られたときいた。


ラインハルトは本来なら処刑されてもおかしくない処遇をルタ様の配慮で私財を完全に手放された後に彼と全く関わりがないであろう国へと追放となった。容姿だけは非常に優れているので場所はともあれ需要はあるとマーシュ先生は怖い顔で言った。フォルクング領の管理は新しい領主が決まるまでは国が代行して行うという。


ロレーヌ家に関しては私の父と継母の話に相違があり、爵位を侯爵家から男爵家へと降格処分が降りた。元々ロレーヌ家の財産目当て出会った継母は男爵夫人でもいいと貴族の肩書きに縋りついたがラインハルトが自白した他にも結婚前からの余罪が発覚しそれによって願いは叶わず投獄され、裁判所の判決待ちである。


そんなロレーヌ家から嫁を娶るクラレンス家が悪く言われないか心配していたけれど、王や領民から信頼が厚いクラレンス家が責められる事は無く私も不幸な境遇を(あわ)れまれる立場となった。







「ケイ、父さんが間違っていたよ。マリアが早くに死んだのはお前が力を吸い取ってたからだとローズ(継母)から聞いていた。私の事は許さなくていい、忘れてくれ」


ロレーヌ邸が引き払われ、私の実父ロレーヌ男爵は静かに去っていった。


母を失ったショックで継母にたら仕込まれ、死の原因を私だと教えこまれる。精神状態が不安定であった父は簡単に堕ちてしまったのだろう。父は私を守ってくれなかった。それなのに爵位の降格処分だけで死刑にならなくて良かったと思うのは幼き日の暖かい記憶からだろうか。





「ケイ」

「ルタさま」


夕陽が差し込むクレランス邸の広間、二人きりの空間。サラサラの艶やかな黒髪、血のように深い紅い瞳、老若男女問わず目を惹く美しい顔の青年。人の血が通っていない”冷血の騎士”と言われた彼は優しくこちらに微笑んでいる。


「改めて言おう。…私と生涯を添い遂げていただけませんか」

「もちろんです…!」


ルタさまは膝を着き、私の手の甲に優しく口を付けた。



──ルタさまに出会えて本当に良かった。


一人で孤独に終わるかもしれなかった灰色の人生が彼のおかげで鮮やかな紅へと変わった。


「愛してる」

「愛しています」




☆更新遅くなりました。これにて完結ですがエピローグで実母マリアのこと、ルタとケイの日常エピソードが少しあります。

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