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61話「異質な力」




光の弓矢(ホーリーアロー)──!!』



魔物へ向けて(かざ)した手から、とてつもない速さの光が飛び出していき身体が反動で後ろへと跳ねる。


矢の動きが速すぎて目に捉える事は出来なかったが、その矛先は確実に首飾りの宝石を射抜いた。



「──グアアァァアアアッ!!! 」



宝石は弓矢が当たるとパキンと音を立て粉々に砕け散り、その刹那に爆発して大きな炎が魔物を包み込む。


(──やった!! 効果があった──けど)


自分の魔法が魔導具に効いた事を安堵する間もなく、魔物が飛びかかりこちらに牙を向けていた。



(まずい、すぐに防御魔法を──)



『ホーリーウォ──』

「「グワァアアァアァッ──!!!」」



咄嗟に詠唱するも魔物の動きの方が速く、私の視界は魔物の鋭い牙で埋め尽くされる。


(ダメだ、間に合わな──)



『──炎の弓矢(ファイア・アロー)!』




魔物の牙が私の身体へ触れるか触れないかの距離で魔物は後方へと吹き飛ばされた。




「──大丈夫か!?」

「は、はい!! ありがとうございますっ!!」



──危なかった。

ルタ様が魔物を射抜いてくれなかったら確実に噛み砕かれていた。



「ケイ!! そのまま魔導具を狙ってくれ!! 他は気にしなくていい!!」



ルタ様に援護してもらい、次々と襲いかかる魔物に光の弓矢を当てていく。


魔道具を破壊すると吸い取り溜め込んだ魔力が暴発するのか、宝石が割れた途端に激しい炎が魔物を包み込む。


炎に包まれた魔物たちは悲鳴にも聞こえる雄叫びを上げながらバタバタと倒れていく。


炎に耐性があるように見えた魔物たちは魔導具が無いと耐えられないようだ。



「これで──、最後──ッ!!!」



最後の1匹を倒す。

倒れた魔物たちを見ると、人の姿へと戻っていた。



「ケイ!!」


最後の魔物が倒れると同時に駆け寄ってきたルタ様は息が出来ないくらいの強さで私を抱きしめた。


「る、ルタ様……っ 」

「よかった……! 本当によかった……!」

「く、苦しいです。……その、魔物たちはもういいのですか」

「もう奴らは動けないし、ラインハルトも逃げれない。万が一何か動きがあれば直ぐに対処する…から、すまないが少しだけこうさせてくれ」

「は、はい……」


ルタ様の魔力探知は王国随一とマーシュが言っていた。


万が一黒装束達がこちらを攻撃しようとした場合の魔力の微細な動きを彼は見逃さない。


彼が魔物の脅威もラインハルトが逃げる心配もないと言うのであれば大丈夫なのだろう。


「無事で…よかったです」


緊張が解け、ぶらんと下げていた手をルタ様の背に回す。



──ルタ様が無事でよかった。



ついさっきまで彼はラインハルトにいたぶられ、大量に出血していた。少しでも治癒魔法を使うのが遅ければ、特異な魔力が発動していなければ、最悪の事態になっていたかもしれない。


本当に、本当によかった。



(兵たちがいるけどごめんなさい、少しこのままで──)



人目を気にせず、少しだけ彼に身を委ねることにした。






暫く抱きしめられた後、ルタ様は愛しそうに私の頭を撫でる。


少し見つめあった後、美しい真っ赤な双眸はどんどん近づいてきて鼻の先がぶつかりそうになる。


(ま、周りに兵達がいるのに──、このままもしかして──)



「──ケイ」

「は……はいっ!!」

「……頬が切れている」

「え……──っ!」


ルタ様に指摘され、自身の頬がパックリ切れている事に気がつく。


気が付かないうちに頬を切っていたらしい。切れた頬に意識が向くとそこは中々熱くて痛い。


「痛い……、ぱっくりいってますね……」


……ルタ様の距離感が近すぎて変な勘違いをしていたことが恥ずかしくなる。



「守りきれなくてすまない。それに俺が治癒魔法を使えれば……」

「言われるまで気が付きませんでしたし、このくらい大丈夫です」


こんな少しの傷で私を守りきれなかったとシュンとしているルタ様は少し可愛い。


私の傷は頬が切れただけで大したことはない。それよりも心配なのはボロボロの体で戦い続けたルタ様の方だ。


「それよりもルタ様のお身体が心配です。……失礼しますね」


(……切り傷だけじゃない、全身の打撲もあるしまだ貧血だ。立ってるだけでやっとのはずなのに……)


ルタ様の身体へ魔力を流し込むと、見た目で分かる切り傷や擦り傷の他にも打撲など全身を負傷していた。


全身()てみるとこうして立っているのも不思議なくらいの負傷であり、先程の戦いが如何に激しいものであったのかを物語っていた。


(……それに、ルタ様だけじゃない)


周りを見渡すと新兵達も比較的軽傷ではあるが負傷していた。


牙や爪が鋭い魔物であったので切り傷が多く、傷口からの感染症も怖い。



(一人一人対応してもいいけど、時間がかかる………なら)


私には試してみたいことがあった。



「ルタ様、兵の皆さん。今から癒しますね──」



『ヒール』


私とルタ様、新兵達を囲うように治癒魔法を発動させる。


私を中心として放たれた光は一瞬にして周囲を取り囲み、中に居る者の傷口を癒していった。


「ケイ……これは」


「おお! この光の中にいるだけで傷が癒えていく!!」

「ケイ様、ありがとうございます!!」


治癒魔法の範囲を個人ではなくエリアとして指定し発動する事で、その範囲に居る対象者をまとめて癒せるのでは……と思い実施したら案外上手くいった。


消費する魔力は多いが、これなら瞬時にまとまった人数を癒すことが出来て効率が良い。



「広範囲の同時治癒魔法はマーシュですら使ってるのを見たことない」

「ルタ様を癒した時、無意識のうちに魔法が広がって発動したんです。応用できる気がして…出来てしまいました」

「ふ。凄いな。ありがとう、身体が楽になった」

「よかった……です………」


こちらに向けられた柔らかい彼の笑顔は破壊力抜群だ。何度見ても見慣れない。



「──な、なんという奇跡。まさにケイ様は奇跡の聖女様だ!!」

「皆をまとめて癒すことの出来る治癒魔術師なんて聞いたことがない!! 」

「奇跡だ……!!」


少しして状況を読み込めた兵達が声を上げた。


私を聖女と担ぐ兵たちに作った笑顔で微笑むことしか出来ない。


(……あ。やってしまったかもしれない)



軽い気持ちで魔法を応用してみたが使い所を間違えたと後になって気がつく。



『……マリアは“聖女“だったのです。高い能力を評価されて呼ばれていたのではなく、“異世界“から召喚された本物の───』



マーシュから聞いた母の秘密。

聞いたこともない、異世界から召喚されるという聖女の話。


通常で有り得ない効力を持つ私の治癒魔法。


マリア()は聖女であったとマーシュは言い、その娘である私は同じ魔力を受け継いでいる可能性が高い。


クラリスの街が火災に見舞われた際にも特異な魔法が発動したが、今回の件で私に異質な聖女としての能力が備わっていることが決定的になってしまった。


高い能力で称される聖女ではなく、異質な能力を持つ聖女と周囲に広まったら私はこの国でどういった扱いを受けるのだろう。


今はただ賞賛されるばかりだが噂が広まれば、良くない考えを持つ人間も出てくるかもしれない。


母はきっとこの特異な能力を隠していた。


母が特異な聖女の力を使っていれば何かしら記録が残っているはずだし、初めて見聞きする魔法ではないはずだから。



(あぁ、私はなんて考え無しなんだ)



皆を早く癒したい一心で、考え無しに魔法を使ってしまった。


兵達は私の魔法を見て盛り上がっている。口止めをしても直ぐに噂が広まってしまいそうだ。



「………」

「──お前たち、静かに。ケイが困っている」


どうしたらいいか分からず黙り込む私を見てか、ルタ様は兵を止めた。


「す、すみません! 」

「大丈夫です。ただ、さっきの魔法を使ったことはまだ周囲の方々には言わない欲しいです」

「ええ、どうしてでしょうか。ケイ様を素晴らしいお方だと皆に知って欲しいのに……」



“素晴らしい方だと知って欲しい“、その言葉の意味に少しだけ心が苦しくなる。



私の……悪い噂。

地味で何の取り柄もない、何も出来ない令嬢と呼ばれていたあまり思い出したくのない過去。


外に出ることは許されず、必要最低限の衣食住と教育を受けてただ生きているだけの日々。


“地味で無能の令嬢が侯爵家の長女として存在している“


そんな内部情報、侯爵家として普通は隠したい恥ずべき事情。貴族の力を使えば情報操作なんてどうとでもできたはずなのに、ここまで噂が広まっているのは故意にロレーヌ家とラインハルトが噂を広めたとしか思えない。


上流貴族が故意に発信する身内の噂話は社交界だけではなく、貴族も属する騎士団にだって間違いなく広まっている。


部下の反応から私を娶ると決めたルタ様はきっと騎士団で悪く言われてしまっていたのだろう。名誉を挽回出来るのであればすぐにでもしたいところだけど、特異な力をひけらかして解決してしまうのは色々と良くない気がする。特異な力はまだ隠したいし、別のところで挽回をすべきだと思う。


「えっと……お気持ちは嬉しいですがたまたま出来ただけなので。お願いしますね」

「はい……」


……話さないことを了承はしてくれたが、やはりすぐにでも話が広まってしまいそうな雰囲気がある。善意で私の誤解を解きたいと思ってくれていることは嬉しいのだけれど。


「……お前たち」

「なんでしょう」

「ケイが話さないで欲しいと言っている。絶対に守る事、これは命令だ。守らなかった場合は──除隊だ」

「は──はい!!」


ルタ様が兵達を威圧しけん制した。

その威力は凄まじく、兵達は一瞬にして背筋が伸び、気が抜けた様子は無くなった。



(これで周りに話されることはないだろうけど……私まで足の力が抜けた)



凄い威力の威圧だった。

こちらに向けられてたものでは無いのに私まで足が竦み緊張してしまう。



……私まで威圧されてしまったとルタ様が知ったら数週間は気にしてしまいそうだ。




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