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6話「子供の頃のお話」



「──クロ!!今日も一緒に遊びましょう?」


時を遡ること10年前。

あれはちょうど親たちの話し合いでラインハルト様との婚約が決定しそうな頃。



「ケ、ケイちゃんが来るって言うから来たけど……。僕お外あんまり好きじゃないんだ」

「何言ってるのよ!外で遊ぶのがわたしたち子どものお仕事でしょう?」


数週間前、彼はロレーヌ家の領土内にある広い森で一人でポツンと座っていた。こんな所に子供が一人で座っていることを不思議と思い話しかけると父親の仕事の関係で就いてきたが、嫌気がさしてしまい抜け出して来たという。


クロは黒髪に赤い瞳が特徴的で女の子の様なとても可愛らしい見た目をした男の子だった。素性は知らないが高級そうな召し物を着ていたので貴族か街の商人の子供だろうと思っていた。名前を直接聞いた訳では無いが、黒い髪が特徴的だったので気がついたら彼をそう呼んでいた。


彼とは妙にウマが合い、気がついたら毎日森で遊ぶ仲になっていたのだ。


「さあ今日も森で冒険だー!」

「け、ケイちゃん待ってよぉ」


そうだ。思い出した。

あの頃の私はクロを引き連れて領土内の森を探検するのが好きだった。御屋敷をこっそり抜け出して幼いながらにして馬に乗り森へ行ってクロと遊ぶ。森には魔物が出ないという訳ではなかったが、弱い魔物が極偶(ごくたま)に出現する程度だったので走って逃げれば何とかなっていた。今では何故そんな危険なことをしていたのか理解ができないが子供ながらにそのスリルが楽しかったんだと思う。


そんな当時の活発な私に対して妹のロージュは毎日御屋敷に(こも)って様々なドレスを着たり可愛いお菓子を食べるのにハマっていて、ラインハルト様を森に誘っても、「俺は興味ないからいい。お前もロージュの様に大人しく屋敷でお菓子でも食べていればいいのに」と言われていた。


……思い返せば昔からラインハルト様にはロージュの様にロージュの様にと言われ続けていた。彼はロージュのことが昔から好きだったのかもしれない。でもそれなら何故彼は私との婚約をしたのだろう?親の決め事には反対出来なかったのだろうか?



「──あ!!魔物だわ!!クロ!逃げるわよ!!」

「まっ、まってよぉ!!!置いてかないでよー!」


クロとの森の探索中、久々に兎の様な小さな魔物に遭遇し、森を駆け抜ける。

木をすり抜け、頬をすり抜けていく風が気持ちいい。


「はぁ、はぁ。なんとか振り切ったわね」

「ケイちゃんは危なっかしすぎるよ……。本当に何かあったらどうするの?」

「大丈夫よ!!私とクロの逃げ足の速さを知っているでしょ?それにロレーヌの領土内の森じゃあ低レベルの魔物しか出ないしね!」

「そうだけど……──っ!」


突然しゃがみ込むクロは足を抑えていた。

抑えている足を見るとザックリと切れてしまっており血が垂れている。走っている時に木で切ってしまったのかもしれない。


「……く、クロ!大変!待ってね今すぐに魔法かけるから」


彼の傷に手を添え詠唱する。


『ヒール』


すると、(たちま)ち私の手からは金色の光が溢れ出し彼の傷を包むとみるみると裂けた皮膚が繋がり傷が消えた。


「……はい!もうこれで大丈夫!」

「す……凄い。ありがとう」

「光魔法は唯一得意なの。天国にいるお母様譲りなのよ」


そうだ。地味と言われ続けた私にも唯一得意なことがあった。それがこの光魔法。私を産んで早くに亡くなったお母様が得意だったという。幼くして光魔法の適正があると言われていた私は、確か王立魔法学校の推薦状も来ていた……と思う。


「ケイちゃん、もう帰ろう。だいぶ奥まで来た」

「大丈夫よ!私の魔法があればどんな怪我もあっという間に治ってしまうのだから!」


クロの言うことは正しい。

あの頃の自分は本当に考える力がなかったがと思う。ヒールが使えたとしても現にクロは先程まで怪我をしていたのに。


「もう少しだけ奥に行ったら帰りましょう?」

「うう……」


クロは嫌がりつつも、絶対に私に着いて来てくれた。

私はクロのことをいつの日か読んだ冒険物語の相棒のように思っていた。


私を止めるクロを無視してどんどん森の中を進んでいく。


「クロとなら私、何処までも行ける気がするわ」

「そうだね。僕もケイと一緒にいると楽しい………


──ケイ!危ない!!!」


突然クロに突き飛ばされて私は激しく地面に転がった。


「……ったあ。何するのよクロ……



───ひっ」



顔を上げ、目の前を確認すると、

私の目の前をたち塞ぐかのように立つクロ。




……そして、小さな少年の前にはとても大きい熊のような魔物が(たたず)んでいた。


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