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59話「聖女の光」




『──ヒーリングスト』


身体が今までにないぐらい熱くなり、太陽の中にいるのかと思うぐらいの眩しさと、柔らかな暖かさに包まれていくのを感じる。


ルタ様は瞬く間に眩い金色(こんじき)の光に包まれていき、彼の傷は光に包まれた途端に癒えていく。



(傷は……綺麗に治った。けど)


血色が無く、顔色が悪い。

傷の治癒に魔力が消費されてしまい、体内の魔力までは回復していないようだ。


ありったけの魔力を込めていても乾いてパサパサの土が水をあっという間に吸い込んでしまうかの様に、送り込んだ魔力が彼の身体にどんどん飲み込まれていき供給の底が見えない。




(まだ、足りない。まだまだ彼に魔力を込めれる)




自分の魔力を全て彼へと捧げるつもりで、より強い祈りを込めて魔力を注いでいく。


すると、ルタ様を中心として輝いている光は更に眩さを増して辺りを飲み込むように周囲を光のベールで包み込んだ。



「──……ッ!! ……えっ」



光のベールが周囲へと広がった途端、新兵達を拘束していた黒装束達がバタバタと倒れ始めた。


「おいっ、今だ! 離れろ!!」


新兵達はすぐに黒装束から距離を取る。



「おい! ケイ!! お前コイツらに何をした!? 今すぐに魔法をやめっ──……」


黒装束達が倒れ込む様子を見て焦ったラインハルトは私に掴み掛かろうとする──が。






──その刹那、彼は後方へ吹っ飛んだ。







何が起こったか分からなかった。

黒装束がバタバタと倒れた事もだが、ラインハルトが後ろへ吹っ飛んだのは?



「いっ…てえ……。ケイ…てめえ。やりやがったな!? 今すぐに拘束してや──」


いや、ラインハルトを吹っ飛ばしたのは私ではない──と伝える前に今にも飛びかかりそうな勢いで此方へ近付こうとしたラインハルトがまたまた後方へと飛んでいく。


何が起きたのか理解できなかった先程とは違い、今回は彼に起きた事を目で捉えることが出来た。



「……この魔法は」



凄まじい速さの炎の球がラインハルトへ向かって飛んでいくのが見えたのだ。



この魔法を使う者は場に一人しかいない。



「……るた……さま」



「ケイに近付くな」



ルタ様がラインハルトへと魔法を放ったのだ。

彼を拘束していた枷はパキンと真っ二つに割れ、よく見ると枷に埋め込まれていた黒い魔石もパッキリ割れていた。



「ルタ様……!!」


かろうじて起き上がったであろう、少しふらつく彼の上体を支えた。



「……ケイ、怪我はしてないかい?」



ルタ様が私の頬に優しく触れると、暖かくて優しい魔力が体内を巡るのを感じた。私に怪我が無いかの確認をしたのだろう。


今の彼は意識を保つので精一杯かもしれないのに、こんな状況でも私の心配をしている。


「大丈夫です。ルタ様こそ、お身体は……」


彼に触れている所から魔力を少量流す。

……血液量が回復している。私の魔力の特異な効果を使う事が出来たのかもしれない。心做しか先程より顔色も良い。


しかし、傷は癒えたとはいっても魔力は完全には回復していなかった。


「ケイのお陰で痛みもない。魔力もかなり分けてもらったみたいだ。それに実は意識も辛うじてだがあった。状況は分かる。万全ではないが……戦える」



そう言って、ルタ様は体を起こし私の前に立つ。



「ルタ、てめえ。やりやがったな……。おい!! 動ける奴は居るか!!!? 」



激しく声を荒らげるラインハルトの呼び掛けに森の奥からぞろぞろと出てきたのは先程倒れた者達とは別の黒装束達。先程よりも体格の小さい者達が多いが、ざっと見て十名ぐらいは居る。



「……もういい、十分遊んだ。気が変わった。皆殺しでいい。……殺れ」



ラインハルトがそう言うと黒装束達はゴキッゴキッと不気味な物音をたてながら高さ2m程の二本足で立つ大きな狼の様な魔物へと変化した。



「……狼人(ライカン)化、闇魔法の一種だ」

「狼人……?」

「身も心も魔物に近い状態になり、理性は無いに等しい。存在自体、噂でしか聞いた事が無かったが……。魔力がかなり高い、流石に守りながらは戦える相手じゃない。ケイ、新兵と一緒に防御魔法の中に入れるかい?」



黒装束が魔物化した途端に全身から冷や汗が止まらない。


高い魔力と頭がクラクラする程に淀んだ気配。


狼人なんて聞いた事も無いが、とても危険な存在だと本能が訴えている。


今すぐここから逃げ出せと言われても足が(すく)んでしまい思うように動かせないだろう。



「……」



それなのに、素直に『はい』と言うことが出来なかった。


ルタ様は多数の強力な魔物を一人で相手にしようとしている。


完全に傷を癒したとはいえ、万全の状態ではないはず。たとえルタ様だとしても、隙を突かれて崩されればあっという間に彼らと呼んでいいのか分からない者達の餌食となってしまうだろう。


可能な範囲でルタ様をサポートしたい。が、魔物に恐怖し身体は思うように動かせない。戦闘経験の少ない私では足でまといにしかならないし、防御魔法の中で新兵と共に身を守っているほうが彼も戦いやすいだろう。



(でも……彼が今度こそ致命傷を負ってしまったら?)



頭では分かっていても、万全でない彼が一人で戦う事で起こりうる最悪の事態が浮かんでしまう。


私は知ってしまった。

家族やラインハルトに虐げられていた頃には知り得なかった感情。



──ルタ様を失いたくない。



彼に何かあったら。


彼が一瞬で致命傷を負わされ、治癒魔法が間に合わなかったら。


もうあの優しい笑顔を二度と見れないだなんて事になってしまったのなら─────



「──……っ」

「ケイ、俺なら大丈夫だ。君が兵を守ってくれたら安心して戦えるから」



ルタ様は私の不安を読み取ったのか、頭を優しく撫でた。


今にも魔物達は此方へ飛びかかってきそうだ。


そんな状況下でも気を使わせてしまう私は本当に学ばない。



……気を引き締めるんだ。

今の私でも出来ることは彼が示してくれているのだから。



「分かりました。私は兵を守ることに徹します」

「任せた」

「「──ヴァアアアアゥッ!!」」


ルタ様が背を向けた瞬間を狙ってか、彼へと飛びかかる魔物達。私は即座に防御魔法を唱える。


『ホーリーウォール!!』


出来るだけ魔力を込めて硬く厚く鉄壁をイメージして、私と新兵を囲むように四角く光の壁を出現させた。



「ありがとう。思う存分に出来る──」


ルタ様は横目でその様子を見て、恐ろしいと思えるほど美しい笑みを浮かべながら詠唱する。




『──インフェルノ』



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