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54話「甘すぎる」

文が途中で抜けてしましたので追加しました。すみませんでした。




──ルタ様が魔物を殲滅している間に、マーシュと共に負傷者の治療を進めていく。



「そういえばロージュ達は何処に……」

「はて。確かに姿が全く見えませんね」


散々な状況ですっかり存在を忘れてしまっていたが、ロージュとラインハルト様の姿が何処にもない。


周辺の負傷者は殆ど治癒を終えたが、怪我をして倒れ込んでいるどころか何処にも居ないのだ。



「ラインハルト様やロージュは何処へ?」



治癒を終えた比較的傷の浅い兵に聞いてみる。


「ラインハルト様やロージュ様は我々第3騎士団交戦中に側近数名を連れて森の奥へと進んで行った…と思われます」

「思われる……という事は第3騎士団は何の指示も受けていないし、ラインハルト様が森奥で何をするかも聞いてないってことでしょうか?」

「………はい」



……信じられない。

姿が見えないと思ったら、交戦中の第3騎士団を放置して更に森の奥へと進んで行ったらしい。


重症者が多く私達が駆けつけなければ確実に死者が出ていたであろう状況で、交戦する兵へ魔物の敵視(ヘイト)が向いてるうちに自分達は森の奥へと進んで行く目的は?


森の奥に何か目的があって先立って向かう事で自分の手柄を立てる、兵の負傷はルタ様の責任だと押し付けたい……。


他にも色々と考えてみたが、流石にこの状況ではラインハルト様の部下である第3騎士団の兵達も嘘の証言はしないと思う。


仮に意図があっての事だとしても、現時点では兵の損害を上回るメリットがあるとは思えない。


「……こんな事を言うのは許されないかもしれませんが、ルタ様やマーシュ様、そしてケイ様がいなければ我々は全滅していました。本当にありがとうございます」

「力になれて何よりです。治癒は終わったので後方で休んで下さい」


団長の目的も意図も分からない中でただ振り回され続ける第3騎士団の兵士達が気の毒で仕方がない。







「ケイ様、ルタが魔物を狩り終えたみたいです」


私達が兵達への魔法をかけ終わると同じぐらいの時間でルタ様も魔物を討伐したようだ。


彼が交戦していた前方は高火力の魔法によって焼き尽くされ、密になって生えていた木々は墨となり開けた土地となっていた。


しかしルタ様も無闇に辺りを焼き払った訳ではなく、燃えていた所とそう出ない所の境界線がハッキリしており、広範囲の攻撃ではあったが範囲を絞って魔法を使用している事が窺えた。



「──ケイ……ッ!!」


前方からルタ様が駆けてきて、私を思い切り抱きしめた。


少し苦しいぐらいに抱きしめられ、彼の少し熱いくらいの体温と魔力の流れを感じる。きっと私に怪我がないか確認してくれているのだと思う。


「る、ルタさま……」


私を抱きしめる手は大きくて温かくて。

火の中に居たはずなのに不思議とルタ様は焦げ臭くなくて、いつも通りの優して少し甘い香りがして。


ルタ様は怪我が無いか確認してるだけでこの抱擁に深い意味なんて無い……と言い聞かせているのに私の意図とは関係なく心臓が勝手に跳ねてしまいどんどん高鳴っていく。


今しがた死ぬかもしれなかった事も忘れてしまいそうになっていると、「コホンッ」と傍で様子を見ていたマーシュの咳払いを聞いて後方で休んでいる兵達の注目がこちらへ集まっていることに気が付く。


「……す、少し苦しいです。それに皆、見てます」

「……あぁ。すまない」


ルタ様は私から体を離し、優しく頬に触れた。


「危険な目に合わせてしまい、本当にすまなかった」

「謝らないでください。私こそ後方への気が逸れていました。ルタ様とマーシュ、兵達のお陰で無事です。ローブも私を守ってくれましたし全然大丈夫です」

「……ありがとう」


そういって私の耳に優しく髪をかける。心配をかけたせいなのか、先程からいつも以上に優しくて甘い彼に心臓が虐められている。


「……あ、あのそれより、ルタ様。頬に」


ルタ様の頬には深い切り傷が出来ていた。

私を庇った時に魔物から受けた傷かもしれない。


『ヒール』


高鳴る心臓を落ち着かせて彼の頬に手を添え呪文を唱えると、暖かい金色の光が指先から溢れ出し頬の傷を瞬時に癒した。


「……こんな傷に魔力を使わなくていい。ケイが疲れてしまう」


因みに傷を治すついでにルタ様に怪我が無いかを確認させて貰ったけど頬以外は無傷だった。あんなに数多くの魔物を相手していたのに流石としか言いようがない。


「ほんのちょっとしか使ってないです。魔物による傷は短時間でも放っておけば膿んで跡になりやすいんですよ──っ……!」


突然ルタ様は私の額に優しく口付けする。


「……ふ。そうか。ありがとう」

「るっ、るたさま。皆が見ております……っ」


ルタ様は周囲の魔物の有無を大体は探知出来るので安全を確保出来た状況なのだろう。しかし、いや、それでも、こんな場所で皆が見ているのに、例え見られていなかったとしても今の彼は甘すぎて私の心臓は壊れてしまうかもしれない。


マーシュも何時もなら何か言うのに、今日に至ってはただ見ているだけだ。


今の様子を見ても咳払いすらしてくれない。


「あぁ、すまない。ケイが無事で本当に良かった」

「し、心配をお掛けしました」



以前も人前で抱きしめられたりはあったけど、ここまでは無かった。



……ルタ様が人目を気にせず甘いのは私が心配をかけ過ぎたせいかもしれない。


当初ルタ様は私がこの任務に参加する事を反対していた。私は頭で分かってるつもりで討伐任務が如何に危険かを分かっていなかった。さっきは本当に運が良かった。ローブが無ければ、ルタ様が気が付かなければ、マーシュが直ぐに駆けつけられなければ……。


何はともあれ、もうこれ以上迷惑は掛けられないので後はルタ様とマーシュへ任せて私はここで待機していた方がいいのかもしれない。


なんて色々と考えていると二回目の咳払いがして、

「……あの。ルタ? そろそろ離れて貰えますか? 状況をお話しますね」と痺れを切らしたのかマーシュがようやく口を開く。




「色々とお話することはありますが、先ずラインハルト様とロージュ様は……──」


これからルタ様にロージュとラインハルト様が不在であった事と森の奥へと進んで行った事を説明してくれるようだ。


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