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52話「最悪な状況」(2)



「失礼します。今、治癒魔法をかけますからね──」


後方で倒れている兵から一人ずつ順に治癒魔法を施していく。見た通り先程よりも重症な負傷者が多い為、より速やかで的確な治癒が必要となってくる。


(お腹の太い血管に針が刺さってしまっている。後方に倒れていたから時間も経過して出血も多い。あと少し駆けつけるのが遅かったら……。血液は回復できないけど体力回復も兼ねて上級治癒魔法で……)


(針が脚に刺さってるけど太い血管は無事ね。辛いと思うけど今すぐ楽に……)


(この方は右の肺に針が深く刺さってしまっている。左肺は無事ね、呼吸が苦しいだろうけど魔法をかけて木にもたれかけて置けば呼吸は楽になるはず。なにより心臓と大きな血管を掠めていなくて良かった)


兵に刺さった針は治癒魔法を施すと浄化されるのか瞬く間に消えていくので無理に抜いて出血が酷くなる事が無いのが幸いだった。


(危うい方はマーシュが大体応急処置だけしていったのね……)


マーシュが本当に危うい人は先に応急処置程度の治癒魔法ではあるが、魔法をかけていったようだ。


前衛に向かいつつ時間が無い中でそこまで適切的確に出来てしまうなんて流石クラリスで一番の治癒魔術師である。こんな状況ではあるが彼の元で学ぶ事が出来たのは誇らしい。


傷が深く中には危ない者も何人かは居たが、マーシュの迅速な処置もあり治癒魔法さえ適切に施せれば暫くは動けなくとも命に別状は無さそうだ。



(……後方は大丈夫、次は前衛との中間に倒れている方を──)

「──ケイ!! 危ない!!」



治癒に集中していると、少し離れた前方からルタ様の叫ぶ声がする。何が起こったのかと確認する間も無くルタ様が下さったローブがバチン!と大きな音と光を放つ。


「……っ! 」


驚いて閉じてしまった目を開けて周囲を確認すると直径30センチ以上はありそうな大きく鋭い針が足元へ転がっており、新兵達の構える盾には複数の針が刺さっている。ルタ様から貰ったローブが私を守ったのだろう、ローブは見事にも裂けてしまって布に込められた魔力がサラサラと消えていくのが見えた。


「──け、ケイ様!! お逃げ下さい!!」


そして、目を開けて間もなくして新兵の必死な声の理由を理解した。

振り向くと後方から回ってきたのか魔物が三匹、新兵達の目の前に立ちはばかっていたのだ。


「「構え───……うわぁああっ!!」」


針弾が鋼鉄の盾を半分以上貫く。幸いにも兵にはギリギリ届いていない。


しかし、針弾はとてつもなく速い射出速度で射出され威力が高いのだろう。針を受け止めた新兵達が四方へと吹っ飛ばされていた。


「お逃げ…ください……」


兵達は倒れ、直ぐに立ち上がれそうにない。兵達が離れた今、私は無防備となってしまう。


「グルルルゥゥ………」

「ほ、ホーリー……」


咄嗟に防御呪文を詠唱しようとするが、既に魔物が背中を震わせ次の針弾を飛ばしてこようとしていて間に合いそうにない。



「グワァァアアアッ──!!」




人は死ぬ瞬間、全てがゆっくりと動いて見えると言う。


(……あ、私死んでしまうかも)


今まさにそれを実感する。とても速い速度で射出されたはずの魔物の針は、私の脳天を精確に捉えようとするのが目に見えた。



(間に合わ──)




『────ッ!』



死を覚悟したその時、私へと向かう針弾は目と鼻の先でゴォッと勢い良く燃え尽きた。



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