51話「最悪な状況」(1)
「「──うわぁあああッ!!!」」
私達が駆けつけると先程よりも酷い状況になっていた。
立って剣を握っているものは数名で、残りの兵士は血だらけで地面に横たわり瀕死の状態に見えた。
兵達を囲う魔物は先程の黒狼の背中に長い針を携えている様な姿をしていて攻撃手段としてそれを飛ばすのだろうか。倒れている兵達は皆その針に重厚な鎧を貫かれて複数刺さっている。
不幸にもルタ様やマーシュの勘は当たり、その魔物は黒狼のランクよりも上位種なのかより強力な気配を漂わせている。
より強力な魔物が出現した事と先程の様子から戦闘時の状況は容易に想像する事ができ、疲弊した第3騎士団では立ち向かえるはずもなかった様子だ。
「うっ……」
強烈な濃い鉄の生臭さが辺りを漂い、 思わず両手で呼吸の穴を塞いでしまう。
辺りには倒れている兵士しかおらず、皆出血が酷い。
(どこを見ても皆微かな呼吸しかしていない……。誰から──誰から助ければ──)
あまりの状況に足が止まってしまう。
右を見ても左を見ても血塗れで倒れる人に人。息をしているかも怪しい。もしかしたら死者が出てしまっているかもしれない。誰を優先して癒せばいいのか、頭の中でのトリアージが出来ない。何処から手を付けていけばいいのか分からない。
「──ケイ様! こちらの方へ直ちに中級治癒魔法を!!!」
マーシュに言われ、はっとする。
とても悲惨な状況下ではあるが、狼狽えている場合ではない。マーシュはこんな状況であっても落ち着いており、直ちに私へと指示を出した。
「──はい!!」
マーシュは後方から倒れている兵を優先的に治癒していく。
……そうだ、先程と同じできっと後衛で倒れている兵士が先に魔物に攻撃された兵士だ。先程の戦いと同じで負傷した兵を守ろうとしてまだ力の残っているものが前衛で戦っているのだと思う。
マーシュは次々と速やかに負傷者の治癒にあたっていた。流石だ、と感心する間も無く私も負傷者の元へと駆け寄る。
(落ち着け、私の判断と行動が命を左右するんだ)
──パチンと頬を叩く。
「私はこちらから治癒していきます!!」
「任せました!!私は前衛に向かいつつ付近の危なそうな方を癒し、ルタと前衛のフォローに回ります!! 」
「ケイ、魔物は強力な針弾を飛ばしてくる。気をつけて」
ルタ様はぽんっと優しく私の頭を撫でて、前衛へと駆けていく。一瞬ではあったがその大きな手は私の乱れた心を落ち着かせる。
「──お前達、ケイを死守せよ」
「「はっ!!」」
新兵達はルタ様の指示で私の前に大きな盾を構える。治癒の際に魔物の針が及ばないように私を守ってくれるようだ。