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48話「討伐任務」(9)


「ケイ様のお陰で死者は無し、負傷者も少し休めば歩けそうですね。的確で早急な治癒の賜物です」

「まだ森の奥からは魔物の気配がする。後日となると繁殖してより強力な魔物が産まれる可能性もあるから少し休んで体制を立て直そう」


戦闘を終えたルタ様とマーシュが兵の様子を見て回った。幸いにも駆け付けたのが早かったので皆出血量も少なく、休めば直ぐにでも動けそうであるとの事だった。




「ひっ……く。……ひっく」


少しばかりの休息の間、兵達が腰を下ろし和気藹々(わきあいあい)と雑談を交わす中で女性の泣き声がする。


「ロージュ」


ロージュが先程倒れ込んだ場所から動かずに地べたに座り込んで泣いていた。


「ロージュ。大丈夫? 怪我はない? 立てる……?」


声を掛けるも泣き止む様子は無く、両手で目を拭っている。


……普段は強気のロージュでも先程の戦闘は流石に怖かったのだろう。本当に間一髪のところだった。


ラインハルト様はそんな彼女を慰める事はなく、駆除された魔物の死骸を剣先で転がしていて興味を示していない。


本来なら婚約者であるラインハルト様が直ぐにでもロージュの手を取るべきだ。しかし、その様子はいくら待っても無い。


どんなにマーシュと二人で声をかけても反応を示さないロージュに、見かねたルタ様がロージュへと声をかけ手を差し伸べた。



「ロージュ嬢、お怪我はありませんか」

「……る、ルタ様ぁ。ありがとうございます!助かりましたぁ〜!!怖かったですぅ〜!!!」


ふっと顔を上げ声の主がルタ様である事を確認すると、ロージュは大粒の瞳でルタ様の真っ赤な双眸(そうぼう)を捉え甘い声を出す。


「ろっ、ロージュはとっても怖かったんですぅ〜っ!!!」


(……げ、元気そうでよかった)


先程までの涙は偽りの物だったのかと思える切り替えの速さである。


立ち上がった後も尚ルタ様に物凄い勢いで距離を詰め寄るロージュ。自分の足でしっかり立てているので大きな怪我は無いのだろう。


「ルタ様は本当にお強くて素敵ですっ……!! 先程のお礼に今度宜しければお茶でも……」


(今度はルタ様に詰め寄るのね)


幼い頃から天使と称され育ち、美しい容姿を持つロージュは数々の貴族子息を魅了して来た。その美しい双眸で見つめれば魅了されない男性は今まできっと存在しなかったのだろう。そんなことが分かりきっているが故の行動。


「……ご無事で何よりです」


しかしロージュの思惑とは裏腹に、ルタ様は表情こそは笑顔を保っているが目に光は無い。


さりげなくロージュと距離を取るが気にせずどんどん詰め寄る彼女に顔が引き攣っていく。


ルタ様のあんな表情は子供の頃を含めても見たことが無かった。


「……ロージュ。怪我はしていない? 見せてくれる?」


流石にルタ様がしんどそうな面持ちをしているので、血肉に飢えた獣の様に飛びかかるロージュのと間に割って入る。


「な、なんですの? 邪魔をしないで下さるっ……!? 」


ふらつくこと所かルタ様に飛び付いているので大丈夫だとは思うけれど念の為に怪我が無いかを確認したい。


魔物に()る傷は例え毒が無かったとしても細菌が入りやすく、どんなに小さな傷でも感染症が原因となり重症化したり妊婦であれば胎児にも影響が出る可能性もある。治癒魔法であれば多少の細菌なら浄化できるので怪我をしていた場合は早めに見ておく必要があるのだ。


「だ、大丈夫ですわよ!! お姉様に心配されるような事は何も──」

「いいから()せて」


ロージュの手を軽く取る。ぶんぶんと振り回し、私の手を払おうとする彼女を他所に身体に少量の魔力を流し込んで怪我がないかを確認する。


「……うん、大丈夫そう。何も無くてよかった」


転んだ際に生地の厚いドレスがクッションとなった為か、幸いにも擦り傷ひとつ出来ていなかった。


傷があった場合に治癒魔法で完全に細菌や毒を浄化出来るかは分からないし無事で何よりだったけれど、魔力を送り込んだ際に少し違和感を感じる事が……。


「ねえ、ロージュ。一つ聞きたいことが──」

「──おい、いつまで座ってんだよ。さっさと奥の残りを狩りに行くぞ」

「ラ、ラインハルト様ぁ……っ?」


ラインハルト様は気が変わったのかそれまで無関心であったロージュの手を乱暴に引く。


「ラインハルト。未だ行くな」

「そうです、フォルクング様。お待ちください。傷は癒えておりますが兵が疲弊しております。奥からはまだ強力な気配がしますし、一旦体制を整えてからでも良いのでは? それにロージュ様の身も……」

「マーシュ、さっきは黙って言うことを聞いてやったがお前のみたいな半端者(ハーフエルフ)が俺様に二度も指示をするな。残りの魔物なんて第3騎士団だけで十分、お前らはそこで座って待ってろ」

「えぇ……」

「フォルクング様、お待ち下さい。ロージュにひとつ聞きたいことが……」

「あ? 図々しくも聖女面か? ケイ、お前が聖女な訳ないだろ。図に乗るな」

「そ、そうよ! お姉様が聖女な訳ないですわ!! 先に行ってどちらが本当の聖女か示してみせますわ!!」


私はロージュに質問をしたいだけなのに聖女面とはなんと酷い。


「──お前たち、座ってないでさっさと立て。行くぞ」


ラインハルト様はルタ様の事は完全に無視、マーシュに差別的な発言を残し、私達の制止を振り切ってロージュと疲弊しきった第3騎士団を連れて森の奥へと向かってしまった。



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