47話「討伐任務」(8)
「──ケイ、怪我は無いか」
魔物を討伐し終え、ルタ様は直ぐに私の元へと駆け寄り手を取る。
「はっ……はい。だ、大丈夫です」
ルタ様は手を取っていた反対の手で私の頬に触れて軽く魔力を流し込むと、彼の温かくて優しい魔力がふんわりと私の体内を巡っていく。
ルタ様は治癒魔法を扱う事は出来ないが、扱えたら便利だろうとマーシュに教わりこの技術(魔力を扱えれば習得可能)を教わっていたらしい。
「……よかった。無理はしてないな」
「は、はい。……あの、それよりも。……失礼しますね」
お返しという訳では無いが握られた手から少量の魔力をルタ様へと送り込み怪我が無いかを確認する。
(……あれ程の戦闘だったのにかすり傷一つない)
「治すところは無いだろう?」
「流石です。あんなに激しい戦闘だったのに」
「マーシュのフォローもあったし、負傷した者達をケイに任せる事が出来たからな」
ルタ様は形のいい目を細くして優しく微笑む。こんな状況なのに彼の美しい顔にどきりとしてしまう。
「……く、訓練のお陰です」
心を落ち着かせて気持ちを切り替えながら何とか返答する。
1ヶ月の訓練の成果を出して役に立てたなら嬉しい。が、マーシュは『もう教えることは何も御座いません』とは言いつつ魔法以外にも指南したい事は沢山あったと思う。
例を挙げるならば、さっきだって多発する負傷者を見て一番に飛び出そうとしてしまっていたし、後衛に回る事を已む無く選択されたと悲観的に思ってしまい更にはそれを察され気を使わせてしまった。ロージュを守っていた時だって守る事に精一杯で前衛のフォローなど何も出来なかった。
ルタ様もマーシュもとても優しい。それ故に戦闘の場で訓練通りの成果が出せなかったとしても彼らが私を咎める事はないだろう。
(……私は役目を果たせたのだろうか)
……先程までは上手くやれた気がしていたのに、色々と考えているとなんだか自信が無くなってきた。
「ケイ。いきなり後衛を任せてすまなかった。君が居てくれて本当に助かった」
「っ……」
ルタ様が優しく頭を撫でる。
私は頭で考えた言葉が全て顔に映し出されてしまうのか。ネガティブな気持ちになった事をまた察されてしまった。
申し訳ない気持ちになり彼の顔を見上げればその優しげな表情で「気にしなくていい」と言葉にせずとも伝わってくる。
マーシュも「よく出来ました」と言わんばかりの笑顔でこちらを見ていた。
「すみ……」
(謝るのは……辞めよう。もう少し自分に自信を持って)
「……いえ。ありがとうございます」
「ふ。こちらこそ、本当に助かった」
それまで気遣わしげな表情であったルタ様の口元が綻んだ。




