45話「討伐任務」(6)
想定外の状況に当初との予定とは違うが前衛での戦闘をルタ様らに任せ、私は後方で倒れ込む兵士たちの治癒に専念する。
「うっ……」
「大丈夫ですか? 少し失礼しますね……」
近くの倒れている兵に駆け寄り、魔力を少しだけ相手の体内へと流し込む。
(……腕に3箇所、腹部に1箇所。大きな血管の近くには傷はなさそう)
負傷した箇所は身体が修復を促そうとする為に生命の源である魔力が集まる。その為、対象に自分の魔力を流し込む事で負傷箇所を感じ取ることが出来るのだ。
『ヒール』
負傷箇所を特定し、その傷を治せるだけの必要最低限の魔力を込めて傷を癒す。
「……楽になりました。ケイ様、ありがとうございます」
「いいえ。少し休んでいてください」
以前の私なら全力で対象者の全身へと魔法を施し魔力を込めていただろう。しかし、この技術を用いれば少ない魔力量で的確な治癒魔法を施すことが出来る。
『治癒魔術師が魔力切れを起こすという事は、死者が発生する可能性がぐんと上がります』
マーシュに何度も言われた言葉が頭を過った。
治癒魔法は包帯等での応急処置とは違って傷ついた血管や組織等を元の状態へと繋ぎ合わせ修復する事が出来る。しかし、失った血液までは再生不可能である為、出血死が死亡要因として一番高い討伐等の戦闘時では迅速に傷を癒し如何に出血をさせないかが鍵となる。
つまり、私とマーシュが魔力切れで機能しなければ死者を生み、簡単に戦闘が崩壊しかねない。
戦場の場においてヒーラーはとても重要な役割となっているのだ。
(この人は右大腿の付け根……。大きな血管と筋肉が断裂してる、発見が早くてよかった。中級の治癒魔法でピンポイントに)
因みに消費魔力量を抑える最大のポイントとなっているこの技術はマーシュが発案したという。確かに私の知る限り本には書いていない。
魔力さえ扱えれば使用出来る技術なので、体内を診る事で原因不明の疾病解明にも活かすことが出来そうだ。本にでもしたら治癒魔術師や医療業界に革命が起きると思うのだけれど。
『ヒール』
……幸いにも負傷者の数は多くとも皆軽傷で大体は初級の治癒魔法で事足りそうだ。魔力のコストを意識した事もあり、全く疲れがない。
「──ケイ様!!こちらもお願いします!!」
回復した兵が負傷兵を見つけ、治癒しやすいように安全な場所に移動してくれている。彼らの協力もあってペースを落とすことなく魔法をかけていく事が出来る。
「次は此方も──」
「すみませんが次は此方に──」
一息つく暇もなく、次々と負傷した兵達を癒し手を差し伸べていく。




