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42話「討伐任務(3)」

★誤字報告ありがとうございます!!







「──お姉様、お久しぶりですわね」

「……ロージュ」



ロージュ=ロレーヌ。

私の元婚約者と不貞関係を結び、その身に子を宿した腹違いの妹。


ラインハルト様もそうだが、彼女と最後に会ったのは両家の顔合わせぶりか。


綺麗な桃色の髪はツヤがあり良く手入れをされているし、肌ツヤも茹でた卵のようにぷるんとしていて美しい。この時期の妊婦はゲッソリする人が多いと聞いているけれど、ロージュは顔色もよく健康そうで安心する。


しかし、どんなに健康な状態であれ彼女は妊娠3ヶ月〜4ヶ月の身でとても不安定な時期のはず。


見た感じお腹はまだ出ていないが、その身には子が宿っているのだ。


そんな時期に魔物の危険度が低いと認定されたとはいえ、身の危険が及ぶ可能性がある場所に来るなんて。



「相変わらず地味な服装ですこと。まあ、そのローブは地味なお姉様には勿体ない代物に見えますわね」


私の服装は今朝方アンが選んでくれた物だ。たしかに控えめではあるが、伸縮性もあり動きやすい。私は派手すぎないが上品さを感じるワンピースとブーツをとても気に入っている。


……一方で私を罵るロージュの着ている桃色の美しいドレスはフリルが満遍なく着いていて可愛らしいが戦いの場には向かずに動きづらいだろう。


歩き方からハイヒールを着用していると思われ、足場の悪い森でもし転んだりしたらお腹の子は………。




「そんなことはどうでもいいわ。ロージュ。貴女は何故こんな危険な場所に来たの? 今は安静にしなければいけない時期なのに……」

「……会って早々お節介ですか。私は前衛のヒーラーとして()抜擢されまして、この作戦に参加致しましたの。お姉様こそ、魔法が()()()使えない癖にどんなつもりでノコノコいらっしゃったのかしら?」




前衛でヒーラーとして参加する……?

私の聞き間違いでなければ、ロージュは確かにそう言った。


なんてことだろうか。無謀だし危険すぎる。


どんなにロージュ自身が健康体だとしても彼女は妊婦。

授かった経緯がどんな物であれ、新しい命に罪はないし、母親となるロージュだって自分の身は大切にして欲しい。



ローズから言われる嫌味なんてどうでもいい。



「……私は後衛で、前衛での戦闘で怪我をした方の治癒を努めさせてもらいます。貴女も前衛などではなく、私と一緒に後衛に回ってほしいのだけれど」

「いいえ、(わたくし)はラインハルト様やルタ様と一緒に前衛で戦い、その補助を致しますわ。防御魔法も扱えますのよ」

「ロージュ、防御魔法が使えたって確実に貴女が安全な訳では無いし、そんな危険な所には行かない方がいい。それに、貴女はお腹に──」

「──さっきからうるさいですわよ!!!ラインハルト様と結ばれた私に嫉妬されてるのですか!!? お姉様は黙って後衛でのんびり過ごしていればよいのですわ!! それにクラリスの街で聖女だなんて呼ばれてるらしいですわね!? 引きこもりで魔法学校も出ておらず、教養もない。地味で無能なくせに聖女だなんて──」


ロージュが大きく声を荒らげている。

……何故そんなに興奮してまで私に怒るのだろう。彼女にどんな罵声を浴びせられようとも、怒りの感情が湧いてくることは無く悲しくなるだけだった。



「──ロージュ嬢。私の婚約者に大きな声で怒鳴りつけないで頂けますか」


姉妹のやり取りを見守っていたルタ様が私を怒鳴つけるロージュの間に入る。


「ど、怒鳴ってなんか無いですわよ!! これは姉妹の問題ですわ!! ルタ様は関係ありませんのよ!!」

「……私も身重の貴女が前衛に来る事は好ましく思いません。何かがあってからでは遅いのですよ」

「私は大丈夫ですし、貴方様のお役に立てます!!!」

「……ですがロージュ嬢……」


ルタ様の言うことに聞く耳を持たないロージュのキーキーと甲高い声が森の中に響き渡る。


「……オイオイ、ルタよぉ。俺の婚約者の決めた事に文句があるのか? そこに突っ立てるだけの口うるせぇ地味女よりは役に立つと思うぜ?」

「そうです!!私はお姉様よりも皆様のお役に立てますので!!」


ラインハルト様の酷く冷めた目線が私に向けられる。


「……ラインハルト。お前………」



ルタ様が自身の剣の鞘を強く握りしめた。



……かなり怒っている。


ラインハルト様が私を(けな)した瞬間、彼の身体から一瞬にして高い魔力が放出されて周囲の気温が高くなった。


ルタ様は今にも剣を引き抜くか魔法を詠唱してラインハルト様への攻撃を行ってしまいそうだ。


周囲の兵士達も怒りを露わにしているルタ様が珍しいのか動揺しているようだった。




「──あー!ハイハイ! 喧嘩は辞めてください。部下達が見ている前でみっともないですよ、ルタ。フォルクング様もここはどうか落ち着かれて」



状況を見兼ねたマーシュが二人の間に割って入る。



「その中途半端な耳の長さ、銀髪、オッドアイ。……お前、マーシュか」

「ええ。フォルクング様にご認知頂き光栄です」

「……ふん。分かった、今はこれで引いてやる」


誰に対しても高圧的な態度を示すラインハルト様が、マーシュの姿を見るや否やすんなりと身を引いた。


「まて、ラインハル──」

「──ルタ様、私は大丈夫ですから」


いまにも飛びかかってしまいそうなルタ様の手を引く。


「……ケイ」

「大丈夫です、私なら。もう私は貴方が隣に居てくれますから」

「……そうか」


……よかった。

ルタ様から溢れ出る魔力が落ち着いていくのが分かる。


彼がこのままラインハルト様へ攻撃をしていたら、ラインハルトを燃やし尽くして殺してしまいそうな程に彼の魔力は昂っていた。



「……ラインハルト様、行きましょう? じゃあ、また後でね? お姉様。精々足を引っ張らないようにお願い致しますわ」

「じゃあな、ケイ」



ラインハルト様とロージュは第3騎士団の兵を引き連れ、私達よりも先に前衛の配置へと向かった。





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