36話「冒険者ギルド」(6)
「──ケイ様の特異性を明らかにする為に1つ提案があります」
「……何でしょう?」
「怪我人が確実に出るであろうAランクの討伐依頼を受けるのです。そして、後衛で治癒魔術師として怪我人を癒す。本来のケイ様の力を確認することが出来るでしょう」
危険な依頼を受け、怪我人を癒す。
そうする事で本来の力を引き出す事ができるだろう、そうマーシュは言いたいのだと思う。
「──マーシュ、そんなの行かせるわけないだろう」
これまでマーシュとの話を黙って聞いていたルタ様が口を開いた。彼の声色は少し恐ろしいと感じてしまう程に低く落ち着いていた。
「……まあ、ルタ。落ち着いて下さい。この平和な国でも最近はクラレンス領とロレーヌ領に位置する森で魔物の凶暴・凶悪化が生じているのです。クラリスの冒険者は有能ですが最近は手に負えなくなっていて王国の騎士団へ依頼をする事になっていた様で。つまり、近々貴方の所に正式に依頼が来る案件なのです。それにケイ様を戦いの最前線には配置しません。グループに分かれて討伐は行われるので後衛グループの更に後衛で怪我人を治癒してもらいます」
「俺がケイを守れるからいいだろう……と言いたいのか?」
「ええ、ルタが入ればケイ様は安全でしょう?勿論その依頼はコネで私も参加しますしケイ様はお守りしますよ」
「だとしても危険すぎるし絶対にそんな事は許可できない。ケイに何かあれば俺はお前に何をするか分からない」
ルタ様は私に依頼を受けさせるつもりは無さそうだ。
それもそうだろう。私達は魔物の恐ろしさを身を持って知っている。幼い頃、大きな大きな熊のような魔物にルタ様と殺されかけた。自分の無力さも知った。
今のルタ様は実力もあるし魔物を倒すなんて騎士団の仕事で日常茶飯事であろうが、戦いの前線に出た事もない女一人を守りながら戦うだなんてどれだけ彼に負担をかけてしまうだろう。
──でも。
マーシュの言う通り、これは私の本来の力を明らかにするいい機会なのかもしれない。
街での出来事が本当にたまたま生じた出来事なのか、それともマーシュが言うように私の魔力の“特異性“によるものなのか。
私は明らかにしたいのだ。自分の力について知りたい。
地味で無能だと家族や元婚約者に虐げられ、自分の能力を過信して大切な人を傷付けてしまい大嫌いだった自分を好きになれるかもしれないから。変われるかもしれないから。
「──るっ、ルタ様!! 私は挑戦してみたいです!! 私は自分の事を知ってみたい……。それに、私は自分を変えたいんです!!!」
「……ケイ」
「め、迷惑をおかけしないようにマーシュから光魔法についても教わります!!」
「……君に何かあった時、俺は許可してしまった自分を許せなくなる」
「ケイ様にはルタと私がずっと付き添う形で討伐をお受けしましょう。最悪前線組が押されるようであればルタは声がかかるでしょうが、私がケイ様に付いて必ず守ります。ルタ、私の事は貴方が1番分かってるでしょう?」
「………」
ルタ様は暫く考え込む様子を見せた。その間、部屋の空気は重く、息が詰まりそうだった。
しかし、ルタ様が私を危険な所へ行かせたくないと大切に想ってくれているのが伝わってくる。
自分の我儘で大切に想ってくれている人を心配させたくない。
今回の件以外にも自分の力について知る機会はあるだろう。
……彼が許可できないというのであれば受け入れよう。
「……ルタ様。やはり、貴方に迷惑をおかけする訳にはいかないので私──」
「──どんな怪我人が出ても危険な前線には行かない事。魔力を使いすぎたり無理はしない事。引け、という指示があればどんな状況であっても直ぐにマーシュと逃げること。守ってくれるか?」
「……えっ、──は、はい!! ありがとうございます!!」
「……が、マーシュ。ケイに近付き過ぎても俺はお前に何をするか分からないぞ」
ルタ様は渋い顔をしながらも私が討伐依頼を受けることを許してくれた。




