33話「冒険者ギルド」(3)
──少しだけだがクラリスの街を巡り、クラレンス領の特徴が何となく掴めてきた気がする。
クラレンス領は海もあり昔から交易が盛んな土地で、国随一の貿易領土という事は知っていたが、学校にも行かずに屋敷に閉じこもっていた私の知っている知識はそれだけだった。
実際に街を歩いてみると、隣町にある漁港(クラリスの街は内陸に位置している)で捕えられた新鮮な海鮮類が沢山市場に並んだり、交易品や他の領土から仕入れた品で市場は賑わいを見せとても活気に溢れている事を知った。
つい最近大きな火災が発生したのにも関わらず、生き生きと暮らしている街の人々は、以前と同じ様な日常を取り戻しているかのように見える。
「──ルタ様!!この前はありがとう御座いました!店の補償までして下さり何とお礼をお伝えすればいいものか……」
街を散策していると、ルタ様は商人と思われる男に声をかけられた。
「サンマルクさん、頭を上げて下さい。街を火から完全に守る事が出来なかったのは領主であるクラレンス家の責任です。補償をするのは街を守り民を守るのが務めですので当然の事です。むしろ、大切なお店を守ることが出来ず申し訳ありません」
「ル、ルタ様、おやめ下さい……!私共商人ギルドの皆は感謝しているのです。燃え尽きた店、商品の再確保、財源の補償をして頂き貴方様に感謝してもしきれないのです」
「そう言っていただけて嬉しいです。また何か困った事がありましたら何時でも相談して下さい。直ぐに対処できなくても必ず解決できるように考えますから」
私にはルタ様が聖人を超えて神様に見えているのだけれど、それは商人の方や街の人々も同じだろう。
この街の復興の速さはクラレンス家の支援があってこそだとアンは自慢げに言う。
貿易都市を領地に持つクラレンス家の私財はこの国の貴族の中でも随一かもしれない。それでも今回の火災でクラレンス家はどのぐらいの補償をしたのだろう。こんなに惜しみなく民の為に私財を擲つ貴族が他にいるだろうか。
彼の血も涙もない仕事ぶりから『冷血の騎士』との異名が付いたらしいが、街ではこんなに慕われているし、それは彼の性格を表したものではないだろう。社交界で根拠の無い噂を流されてしまっていただけなのかもしれない。
「ルタ様のお陰で街は再度活気づいていますね」
「そうだと良いのだが……。建物や商品を補償しても中央街の全ての物が一度燃え尽きてしまったという事実は変わらないだろう。写真や家族との思い出の品等は新しく調達することは出来ないからからな。……俺がしなければいけないのは、またこの様な事が起きないように対策を練ることだ」
クラリスの街が人の出入りがとても多い貿易都市という事もあって、火災の事件の犯人探しは難航しているらしい。
その事もあってか、また大きな火災が起きて、今度は死傷者がゼロになる保証はどこにもない。今回は運が良かっただけ──と険しい表情をしてルタ様は続けた。
「──そろそろ時間だな。冒険者ギルドへ行こうか」
ルタ様へ連れられ、街の中心部へ位置する冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
☆少しづつの更新で申し訳ありません。次の話でやっと冒険者ギルドを訪れます!!
誤字報告もいつもありがとうございます!!




