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32話「冒険者ギルド」(2)


「──マーシュとの約束の時間は正午丁度か。まだ一時間ほど早いので街を見て回ろうか」


待ち合わせの予定時刻よりも少し早くクラリスの街へ足を運び、ルタ様の案内で街を巡る事になった。


「ルタ様、私の我儘を聞いて下さりありがとうございます」

「我儘なんかじゃない。いずれ君もクラレンス家の顔となる。街を知る機会はいずれ作ろうと思っていたし、ケイが街に興味を持ってくれて嬉しい」


ルタ様のエスコートにて馬車を降り、彼は私の手引き、そのまま優しく手の甲にキスをする。


「……まっ、街を見るとその領地の特徴やいい所悪い所が分かるものだ…と私が小さい頃、……優しい頃の父は良く言い、街を見て回っていたのを覚えています。今は見る影もありませんが……」


彼の愛情表現に嬉しくも戸惑うが、それを悟られるのが何だが恥ずかしくて話を続けた。


私の父親、デイビッド=ロレーヌ侯爵。

昔の父の記憶は心優しく領地に暮らす民を思い行動する領主としてとても出来た人間だと尊敬していたと思う。


が、いつからか私の父は豹変した。

幼すぎてあまり記憶が無いが、私の実の母が亡くなり、継母のローズと父親が再婚し、ロレーヌの森でのあの事件が起きて……。


あの事件で父はガラッと変わったのではない。思い返せば、少しずつ少しずつ変わっていった気がする。


そして、私が事件を引き起こした辺りのタイミングで父の中で何かがぷっつりと切れてしまったんだ。


「ケイのお父様……ロレーヌ侯爵。確かに以前は心優しく色々と熱心な方と聞いていたが……」

「今は領地の事よりも私欲に目が眩み、領地内での市民からの支持率も落ちていた気がします。私は自分の事に精一杯だったので詳細は分かりませんが」

「……彼にも何かあるのだろう。しかしケイ。君はもう俺の婚約者で近いうちに妻になる。ロレーヌ家で感じていた様な思いは絶対にさせない」


父の話になり、不安げな私の表情を読み取ったのかルタ様は私の髪を優しく撫でながら言う。


「……ルタ様」


彼の優しい声と言葉やこの大きな手が頭を撫でてくれるのが心地好(ここちよ)くて、ここは街中で隣にアンも付いている事を忘れてしまいそうだ。


優しい瞳でこちらを見つめている彼の顔は、このまま唇を重ねてしまいそうな程に近く──。



「──……コホン。ルタ様、ケイ様。街の人々が見てらっしゃいます」


アンの咳払いで我に返り、周囲を見渡すと数十人程の人だかりが出来ていた。


ガヤガヤと住民達が話す内容を聞いていると、ルタ様が街へ来ている事よりも、婚約者である私とのスキンシップに驚き困惑しているようだった。


ルタ様が私と婚約するまで数々の婚約話を断り続けてきたというのは市民にも有名な話であるらしく、それに加えて『冷血の騎士』というなんとも近寄り難(ちかよりがた)そうな異名まである位なので彼が女性と親しそうにしている所は珍しいのだろう。


「……ひゃっ……。失礼しました」

「……すまない、ケイに夢中になっていて気が付かなかった」

「お二人は婚約者同士ですし、街中で良識のある範囲であれば愛を深めても構いませんが、流石にこれは目立ち過ぎですしマズイです」

「アン、ありがとう……」

「そうだな……」


このままアンが止めなければ、ルタ様は私にキスをしていたかもしれない。


あのまま初めての口付けを交わしても良かったが、流石にこんなに人に見られながらは恥ずかしい。


ルタ様は少し残念そうに「俺は別に見られたって構わないけどな」と小さく呟いていた。

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