28話「疑い」
「──そういえばルタ様、どのようにして街の炎を消し去ったのですか? 一瞬で次々に消し去っている様に見えたのですが……」
ルタ様は建物を包み込む猛烈な炎を一瞬で消して見せた。あんな魔法技術は魔法が発展しているこの国でも中々出来る者はいないと思う。
「あれはな、自分の魔力を燃えている炎へと移し炎全体へと伝播させる。そうして火災による炎を自分の魔力で発生させた炎と中和させる事で操り、消火することができるんだ。自分に炎属性の適性があるからこそできた。運が良かった」
「……凄いです。一瞬でそんなことが出来るだなんて。運ではなくルタ様の実力です」
「ありがとう。でも流石に今回の火災は大規模で魔力も殆ど使い切ってしまった」
当日のルタ様は消火後も余裕そうに見えていたが保有魔力量が膨大である彼でも殆ど魔力を使い切ってしまったのか。
魔力の枯渇があんなに意識が朦朧として辛い事であるのに自分のことよりも街の人々や私のことを気にかけてくれる彼はやはり優しいと実感する。
「ルタ様……」
「ケイのお陰であれだけの規模の火災で死者が出なかった。クラレンス領の民を守ってくれてありがとう」
「火災の死者が出なかったのはルタ様が消火を速やかに行ったからですし、私の方こそ過去を克服出来た…と思います。着いて行きたいという我儘を聞いて下さりありがとうございます」
***
「それにしても、火災の原因はなんだったのでしょう?」
「クラリス警察によると道に積んであった荷物が突如爆発し、そこから燃え広がったという。それは1箇所ではなく複数箇所……という話だ」
「……あの規模の火災である事と複数箇所というのは何だかおかしいですね。何者かが放火したように思えます」
「君もそう思うか。しかも街の人々によるとその積荷はいつもなら置いていないそうで、鑑識の結果その中身は燃えやすい小麦粉だったそうだ。小麦粉の中には銃の弾丸が混ざっていた。
つまり、今回の火災は何者かが袋を切り裂き小麦粉を宙にばら撒いた。そこに発砲にすることで小麦粉に着火し粉塵爆発を引き起こした……という事らしい。
爆発に巻き込まれるであろう犯人の死体が火元から出なかった事は放火魔は最低でも中級以上の防御魔法を取得していたと考えられている」
この火災は人為的なもので、誰かに仕組まれている事は明らかであった。
クラリスの治安は国の中でも随一で良いと言われているし、災害時という大変な時の民達の対応で、彼らの人柄の良さというものは十分に感じることが出来た。
民が引き起こしたものとは考えにくいと現地の警察とクラレンス家は考えたそうだ。
「まさかラインハルト様やロレーヌ家が……?」
ふと思い出したくもない家名が出てくる。
この国では剣術と魔法が発展しているが、全ての人間が剣や魔法を扱える訳では無い為、魔物の討伐や現在は無いが他国との争いの際に使用する銃や大砲といった火器も存在する。
何故直ぐに|ラインハルト様やロレーヌ家《彼ら》の名前が上がったかというと、ラインハルト家は代々魔力を持つ家系ではあるが年々魔力は衰弱している為に魔力に頼らなくとも戦う事の出切る火器などの生産に力を注いでいるのだ。
他にも火器などを生産している領主は多いのだが、フォルクング領の特産品といえば銃と言えてしまうほどに発展している。
それと合わせて、先日の両家顔合わせでのラインハルト様のルタ様に対する敵対的な態度が気にかかる。
今までの経験から、噂で評判の悪いケイ=ロレーヌを妻として娶ったことでクラレンス領は不幸に見舞われた……と演出をしたいようにも見えてしまう。
それにルタ様は騎士団でもラインハルト様と顔を合わせていて、『騎士として評判が悪い』と言っていたし二人の関係は元々険悪なのかもしれない。
血の繋がった自分の両親や元婚約者を疑いたくはないが、疑わしい所は考えれば考えるほどに出てきてしまう。
「私の両親やラインハルト様ならやりかねません……。民の事など二の次の人達ですから」
「ケイには悪いが俺も少しその考えが過ぎった。……が、まだ速断に過ぎるだろう。銃弾の産地を特定出来れば犯人を特定しやすくはなるのだが、銃弾の損傷は激しく復元が難しいかもしれない。ケイが休んでいる間に現地で防御魔法の魔力の痕跡を確かめようとしたが、現場が激しく損傷していて確認は不可能だった。
今出来るのはクラリスの街だけではなくクラレンス領全体の警備強化ぐらいだ。クラレンス家は立場が高いから例えどんなに周囲に良くしていたとしても恨みを買うこともあるだろう。決めつけずに広い視野でこの件は見ていこう」
「そうですね……。早く犯人が捕まってロレーヌ家が関与していない事を願うばかりです。またルタ様やクラレンス家の方々に迷惑を掛けてしまいますから」
ロレーヌ家やラインハルト様ならやりかねないと疑ってしまったが、ここはルタ様の言う通り広い視野で見ていく方がいいのかもしれない。
あの火災で多くの人々が命を失いかけたのだ。
いくら両親やラインハルト様でもそこまではしない……はずだ。
私は彼らに人の心が残っているのを願うばかりだった。
☆8/13 粉塵爆発のセリフについて加筆致しました!




