26話「克服」
──詠唱した途端に身体の中が異様に熱い。
余りの身体の熱さに閉じていた目を思わず開くと、私の身体とリンの身体はキラキラと輝く金色の光に包まれていた。
魔力が発動している。この感覚が懐かしい。
金色の光を纏う魔力はリンの焼け爛れた皮膚をあっという間に健康的な柔らかい肌に変え、燃え尽きてしまった髪すらも再生した。
そして、私達を包んだ光はこの広場を包み込む様に弾けて散った。
「───……っはぁ……!はぁっ……!!」
「……リン……!! リン……ッ!!!」
私の横で静かに見守っていたアンは喉から絞り出すように声を出し、リンと呼ばれた明るい金髪を持つ可愛らしい少女は、目を潤わせながら彼女と目を合す。
「……おねぇ……ちゃん……」
「……あぁ。リン……! 本当に、本当によかった……!! ケイ様、ケイ様。何とお礼を伝えたらいいか……!!」
リンを抱きながら涙で顔がぐしゃぐしゃになっているアン。
その様子を見てほっとする。
──ああ。
私はやっと人を救うことが出来た。
自分の魔力が人の傷を包み込み、癒していく感覚が鮮明に手に残っている。
この感覚を絶対に忘れては行けない。
10年前の自分の過ちを許すことは出来ないが、受け入れることは出来たような気がした。
「───……ッ」
魔法の詠唱に成功した安堵感からか、急に強い脱力が全身に表れて膝が折れる。
「──大丈夫か。大分魔力を放出した様だ」
脱力感から身体を上手く支えることが出来ずに地面へ倒れこもうとした時、ルタ様が咄嗟に支えてくれた。
「……久しぶりに使うとこんなに疲れるものなんですね」
「……ふ。そうだな。それに、アンの妹1人を癒すには必要以上の魔力が放出されていた。周りを見てごらん」
彼に言われて周囲を見渡すと、治癒魔法の余波で広がったと思われる金色の光の粒子が怪我を負った街の人々を包み込みキラキラと輝いていた。
「ケイの魔力はとても強力で、この広場にいる人々皆を癒した。怪我人である緑色と黄色いリボンをつけた者だけではなく、その救護に当たっていた者の小さい怪我まで全て癒したらしい」
彼の言うように広場からは、「傷が全て癒えている」「我々までもが治癒魔法の恩恵を得ている」といった歓喜の声が聞こえてきた。
「……張り切りすぎちゃいましたかね……?」
「そんなことは無い。クラレンス領の民を守ってくれて心から感謝する。ありがとう」
私一人では魔法を詠唱することは成功しなかった。ルタ様とアンが背中を押してくれたおかげだ。
「いいえ。ルタ様とアンのお陰です………」
「そんなことはない。ケイ、君の力だよ。それより魔力を使いすぎている、意識がボーッとしているだろう。後は現場に残っている人々に任せて君は休んでくれ」
彼の言う通り魔力を消費しすぎた様で、全身の脱力感はどんどん増していき、意識も朦朧としてきた。
瞼が重い。
目を開こうと頑張っても抗えない眠気がやってくる。
「……ありがとう…ございます……」
怪我人は広場へ全て集められていたようであるし、今の所は一旦大丈夫だろう。
死傷者が出なくて本当に良かった。
私の力が彼と人々の役に立てて本当によかった。
「ケイ。ありがとう──」
──優しく微笑むルタ様の顔を見つめながら、ゆっくりと重たい瞼を閉じた。




