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23話「火災」(2)





クラレンス邸から馬を10分ほど走らせるとクラリスの街へと着く。


クラレンス邸を出た瞬間から街がある方角から大きな黒煙が舞い上がるのが見え、事態は急を要することが目に見て分かった。






「──酷い」


街は大きな炎に飲み込まれ、街を焼き尽くしていた。


建物は焼けて倒壊し、倒れた建物から隣の建造物へと火が移り、ドミノ倒しの様になっている。


街の消防団が必死に放水をしているがとても人の手ではこの炎は抑えられないと肌で感じてしまう程の火災であった。



「──る、ルタ様がいらっしゃったぞ!!」



消火活動に当たっていた男がルタ様の存在に気がつく。



「ルタ様!!お願いです!火を消してください!!」

「ルタ様、私達を助けてください」

「まだ避難できていない者がいて──!!」


彼の周りに街の人達が集まり、助けを求めている。


「……皆よく頑張ってくれた。遅くなってすまない。今、消す」



ルタ様は人混みをかき分け、目の前で激しく燃えている建物の前へと歩み出すと右手を前に(かざ)して詠唱を始めた。



『──』



炎の燃え盛る音で詠唱は聞こえなかったが、唱えた途端に炎は瞬く間に消え失せ、少しの黒煙と大きな黒い墨だけが残った。


ルタ様は燃えている建物をどんどん消火していき、到着してから半刻(はんこく)も掛からずに全ての建物を鎮火した。


激しく燃え盛る炎が消えていく様は、10年前に彼が魔物を倒した際に炎が一瞬にして消えた光景と全く同じだった。






一方で、彼が消火をしている間に私は怪我人が集められた街の広場へと足を運んでいた。



「──クラレンス邸から救護物品を持ってきました!!必要であれば使ってください!!また、私共もお手伝いさせていただきます!!」


アンはクラリスの街の広場で現場の救護班へ手伝いに来たことを伝えた。



「おお!これはアン殿!!助かります!!ではこちらへお願いします」

彼女は街の人々に顔が広いらしく、何かと話が早く済む。


救護班の方に連れられてきた広場では怪我人を重症度によって区画分けしており、軽傷者にはグリーンのリボン(タグ)、中傷者にはイエロー、重傷者にはレッドのリボンが付けられていた。


この方法は怪我人の重症度を色分けして管理することでより迅速に適切な処置が出来る為、災害時に有用であると記載してある本がロレーヌ家の書庫にあったのを思い出した。


周囲を見渡すと、幸いにも今のところは死亡者につけるブラックタグを付けている人はいないようだった。



「……ブラック…死傷者はいないようですが、レッドタグの方で危ない方はいらっしゃいますか?」


ぱっと見た感じ、グリーンとイエローゾーンの人々は軽傷そうだったのでレッドゾーンの状態が気になった。


基本的にこういう災害時は治癒魔術師がレッドゾーンの方から治癒魔法をかけて行く。


治癒魔法が使えるか分からない私にでも治療の補佐くらいなら出来ると思うのでそちらで何か手助けをしたい。


「レッドタグという言葉をご存知なのですね、貴女はお医者様か治癒魔術師でございますか?」


救護班の医師にそう言われてハッとする。確かに普通はこんな専門的な言葉は知らないだろう。



「ああ。紹介していませんでしたね、こちらの方はルタ様の──」

「──わ、私はケイです!!ケイと申します!!アンとはたまたま居合わせて──、医者でも治癒魔術師でもありませんが勉強中の身で……!少しでも手伝えればと思ってこちらに来ました!!」


アンが私の事をルタ様の婚約者であると紹介しようとしてくれたが咄嗟に誤魔化す。


私は医者でもないし、治癒魔法だって使えるか分からないただの娘。


ここでルタ様の名前を出して何も出来なかった時に彼に迷惑を掛けてしまうし、私が貴族だって事が分かれば街の人々は気を使ってしまうだろう。


「……アン、ごめんなさい。今は私が貴族でルタ様の婚約者ということを隠したいの」


アンに今は自分の正体を隠したいことを耳打ちする。



「なるほど。アン殿のご友人なのですね、助かります。今は大分落ち着いてきてはおりますが、実は1人ブラックに近いレッドの者が居りまして……」


彼に連れられてレッドゾーンに入ると、何人かの負傷者がおり皆酷い火傷を負っていたが治癒魔法で症状はかなり落ち着いているとの事であった。


しかし、その中で何人もの大人が集まっているところに目がいき様子を隙間から覗き見ると、全身を酷く焼けただれた小さな子供と思われる影が見えた。



「あのレッドタグを付けている子供は1番最後に運ばれて来ました。全力は尽くしましたが、私の使える魔術と魔力量では……」


救護場を仕切っていた男性は街の医者だというが、初級の治癒魔法しか扱えず既に魔力も底をつきてしまったとの事だった。


重傷者を救うことが出来る上級治癒魔法を使える魔術師は街の冒険者ギルドに1名居たらしいが、不運な事に現在は依頼の遂行の為に不在だという。




「──……まって。リンよね? 嘘でしょ……?」




レッドゾーンに案内された矢先、アンはその小さな影を見て震えていた。



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