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20話「両家顔合わせ」(2)




「──先程から黙って聞いていれば、今日の主役であるケイに労いの言葉もかけない家族に、会って早々に私の大切な婚約者を罵る()婚約者。ラインハルト侯、貴方はご自身の立場を(わきま)えて頂きたい」


……怒っている。

言葉は丁寧ではあるが、淡々と話す一言一言に怒りを感じた。



「クラレンス家が上だとしても爵位は同じ侯爵家どうしだろ?有能で気高いルタ様は家柄の位でしか俺に物を言えないのか?」


それに対してラインハルト様はというと、全くルタ様の発する圧に屈することはなく、逆に挑発をして見せた。


「……この場を穏便に済ませようというこちらの配慮が分からないのか?」


その態度を見てルタ様も更に怒りが湧いてきているようだ。


部屋の気温が上がっていき、とても熱い。

ルタ様はとても強力な炎の魔力を持っているので、感情が(たかぶ)っているからなのか身体から膨大な魔力が溢れだしているようだった。


きっと争いになればルタ様が圧倒するのであろう。それ程にルタ様から溢れ出る魔力は膨大であると肌で感じることが出来た。


「──ルタ、辞めなさい」

「……お母様。大切な婚約者をこのように扱われては黙ってはいられません」

「ルタ。()()、辞めておきなさい。それに折角の食事が冷めてしまいます。早く頂きましょう」



2人を止めたのはルタ様の母親であるミリーゼ夫人だ。


「そ、そうですわよ~! ロレーヌで採れるお野菜は絶品ですのよ!!早く食べましょうか!おほほ……」


継母もその様子をみて真似るようにラインハルト様とルタ様を(なだ)めるような声掛けをした。



「………」



──葬式のような重苦しい空気の中で食事会は行われた。


自己紹介以外には誰も言葉を発さずに話さない。


たまに継母が気を使わせたような発言をしたが、ここまで状況が悪化してしまった場は和むはずもなく、より空気が悪くなる一方であった。



重苦しく葬儀のような空気に、折角のロレーヌ領自慢の野菜を用いた美味しい料理も十分に味わって食べることが出来なかった。



***



「──ルタ様ってとてもお美しい方ですわね。しかも騎士としての実力も確かであるとか。うふふ、お姉様。今度は3人でお食事でもしましょう?」


帰り際に妹のロージュが異様にルタ様へ愛想を振りまいていた。


どんな魔力をお持ちですの~?だの、とても美しい殿方ですわね、何で貴方程の方があんな地味なお姉様なんかと~だの聞いていてこちらも不快になるようなコミュニケーションの取り方をしていた。


ルタ様はロージュにペースを乱されることはなく軽くあしらっていたが、ロージュはもうラインハルト様の婚約者でその身に彼の子を宿しているというのに、まさか彼にまで興味が湧いたのだろうか。



「……じゃあなルタ様。まあなんだ、上手くいくといいな? でもさ、なんで本当にアイツと婚約なんかしたんだ? お前もケイの()()目当てか? それならもうアイツは───」


ルタ様へのロージュの猛烈なアピールの他に、帰り際にラインハルト様がルタ様に何かを(ささや)いていた。


その瞬間、一気にルタ様がラインハルト様に向けた感情は殺気とも言えてしまうくらいに威圧的でその対象ではない私も寒気がした。





「──お食事()非常に美味でありました。ありがとうございました。これで私共は失礼致します」



重苦しい空気感のせいで気が進まない中での食事を終えた後、簡易的な挨拶だけを済ませ、ロレーヌ家を後にした。



普段からあんなに優しいルタ様の私の家族やラインハルト様へ向ける視線は異様に冷たいものであった。





──帰り道に馬車の中でルタ様は、



「……折角の顔合わせだというのにすまなかった」



と私へ謝罪をして、それ以降は言葉を発することは無く、何かを考え込むような様子を見せた。



彼は何も悪くない。

むしろ、私を(ないがし)ろに扱う家族や元婚約者から守ろうとしてくれた。


私の為に私の事で本気で怒ってくれた。


その事実がただ嬉しかった。



「……ケイさ…、いやケイ。ロレーヌ領のお野菜は本当に新鮮で質が高いですわね」

「……あっ、ああ。とても美味であった。是非クラレンス領への輸入量を増やしたり、育てかたのノウハウを教えて欲しいものだな」




馬車の中の重い空気感を紛らわすために、クラレンス家のご両親は私に気を使って話しかけてくれた。


ルタ様のご両親だってロレーヌ家の酷い現状を目のあたりにして何か思うところががあるだろうに……。



「……ルタ様」



終始暗い表情をしたままであるルタ様にどうしたらいいか分からずに困惑していると、


「あの子は考え込むと少し長いの。ごめんね、きっとすぐに治るから」


とミリーゼ夫人は私に微笑んだ。




──こうして、普通はめでたい雰囲気の中行われるはずの両家の顔合わせは険悪な空気感のまま終了したのであった。


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