2話「モラハラ婚約者」
──婚約破棄されてから数日が経過した。
妹のロージュはというと、お腹の子供の名前はどうしようだとかラインハルト様は夜は情熱的で激しくて~だとか聞いてもいないのに私に話続けている。
しまいにはラインハルト様の話題は聞いていると辛いので聞き流していると、「地味なお姉様に華やかなラインハルト様は釣り合わないからこうなって良かったわね」とまで言ってきた。
私は婚約破棄のショックから部屋に籠り、ラインハルト様との記憶を遡っていた。
しかし思い返してみれば彼との思い出と呼べる記憶は殆どなく、一緒に出かける約束は殆どがすっぽかされていたし、毎年こちらは誕生日にプレゼントを送っていたが送り返して貰ったことは1度もない。
そういえば、彼に会う度に「お前は本当に地味だな。妹のロージュを見習ってみろ。美しい桃色の髪はいつも綺麗に手入れされていて、ドレスだって煌びやかで美しい。それに比べてお前は地味な茶髪に地味なドレス。本当に姉妹か?」みたいな事を言われていた。
確かにロージュは私と違ってとても華やかで美人だし、私の薄い茶髪と違って桃色の綺麗な髪の毛をいつも縦巻きロールにして巻いて身だしなみにも気を使っている。
私だって身だしなみに気を使っていない訳では無いが、妹と比べてしまえばラインハルト様の言うようにとても地味だと思う。
「……何もいい思い出がないじゃない」
……振り返れば振り返るほど彼との記憶はろくな事が無く、思い返すほどに胸の奥でのモヤモヤが増幅する。18歳というこの国での結婚適齢期に婚約を破棄され傷物にまでされて私は彼に何を執着する必要があるのだろうと思う。
しかし、頭では直ぐに切り替えた方がいいと理解していて、ラインハルト様がどんなに酷い相手と分かっていても私は彼と一生を添い遂げる覚悟を幼い頃に決めていたので立ち直るには少し時間がかかりそうだった。
無理をしなくていい。
少しずつ彼のことは忘れることにしよう……。
そう思っていた時、
「──ケイお嬢様。お嬢様にお会いしたいという方がいらっしゃっています」
と突然執事が自室の扉を開けて私への来客の存在を告げた。