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18話「使えなくなった理由(わけ)」



☆ケイ視点へ戻ります。





──勢いで決めた婚約話であったが、ルタ様と話をしっかりとして、正式に婚約することとなった。


まさか彼が幼い頃に一緒に遊んでいた“クロ“だったなんて思いもしなかった。






「──そういえば、魔法学校でケイに再会できると思っていたんだが君は来なかった。別の国の魔法学校に留学でもしていたのか?」



……王立魔法学校。

身分を問わずに国内の魔力を持つ子供全てが11才から18才までの7年間入学し、基礎的な学問の他に魔力の扱い方や魔法について学ぶ王立の教育機関。


王立魔法学校によって育てられた子供たちは、騎士であれば有能な魔法騎士に、魔法使いであれば魔法技術の発展に、治癒魔法の使い手であればヒーラーとして活躍しどの分野でも引く手あまたである。


妹のロージュも光魔法の適性があり、11才の時に入学し現在6年生である。



結論からいうと、私は妹とは違って魔法学校に入学出来なかった為、学校などの教育機関には通わず自宅にて父親の雇った家庭教師から必要最低限の学をつけた。


何故かと言うとあの事件以来、魔法を使えなくなってしまった……というより使()()()()なってしまったからだ。



魔法は物心ついた時から使えた。

傷ついた鳥をロレーヌ領の森で見かけた際に、何とかしてあげたい……!と思った時、その魔力は発動した。


魔力を持つ者は貴族に多く希少であるが、癒しの力がある光魔法の適正を持つ者はその中でも更に希少とされる為、無意識に発動した治癒魔法とその適正の高さに当時の父は非常に喜んだらしい。




──が、私が10歳の時にあの事件が起きた。


何度唱えても完全に癒えない傷。

傷口から溢れ出る大量の血液の生暖かい感触。


振り返ってみればルタ様の傷が完全に癒えることがなかったのは、使用した魔法が初級治癒魔法の『ヒール』であった為とも言えるのだが、自分の力への過剰な自信からあの事態を引き起こした。自分の力の過信ゆえに大切な友達を傷つけてしまったのだ。


……治癒魔法(この力)が無ければ、彼を傷つけることはなかった。


亡くなった母譲りだという光の魔力の高い適正。

顔も覚えていない母との唯一の繋がりを感じていたのは私だけではなく父もだったようで、あの一件以来魔法を使わなくなってから父の態度は変わった。


母と違い父は光魔法の適性はあまりなかった。そのもどかしさからなのか、当初は何故才があるのに使わないんだと怒鳴られたことさえある。


穏やかだった父は変わった。亡くなった母親の得意であった治癒魔法を受け継ぐ事が出来なかった娘は期待はずれだったのだろう。


父からの擁護がなくなった瞬間に、母が亡くなってすぐに再婚した継母からの嫌がらせが始まり、可愛かった妹のロージュも私を見る目が変わり、家族ぐるみでチクチクと嫌味を言われるようになった。




「……魔法学校は入学していません」

「……そうか。学校に入らずとも学ぶことはできるからな。しかし、ケイの光魔法の適性はかなりのものだったと記憶しているが今は何処かにヒーラーとして所属しているのか?」

「魔法は……あれ以来、使っていないんです」

「……そういうことか。……本当にすまなかった」


魔法学校に入学していない事とあれから魔法を使っていないという事でルタ様は状況を全て(さと)ったようだった。


彼は何も悪くないのに頭を下げている。


全て私が勝手に自分の実力を勘違いして、(おご)って引き起こした事なのに。



「……ルタ様、謝らないでください」

「原因に俺が関わっている。君の人生を振り回してしまった」

「使えないわけじゃないんです。使うのが怖いんです」



治癒魔法を使ったから彼が傷ついた訳じゃないのは分かっている。


また治癒魔法を使い、傷ついた人を癒す場面で何も出来なかったら…… ?



治癒魔法を使用することを考えると怖くて手が震える。悪い意味で胸の鼓動が高まり締め付けられて苦しくなり、呼吸がしづらくなる。



「……ケイ。震えてる」

「……えっ」



ルタ様に言われて視線を落とすと両手が小刻みに震えていた。


……気が付かなかった。

無意識の内にここまで身体が拒絶反応を示すだなんて。


私はあの事件から魔法を使わなくなったが、もしかしたらもう使えないのかもしれない。きっと治癒魔法自体が私の心の傷(トラウマ)なんだと思う。



「今日は辛いことを思い出させたな。すまなかった。ゆっくり休んで欲しい」

「……そ、そんなことありません。むしろ、申し訳ありません。婚約当日にこんな暗い空気にしてしまって」

「自分が辛いのにそんなこと考えていたのか。不謹慎かもしれないが、ケイと再会できて婚約まで出来て、俺は今とても幸せなんだ」

「……そういって貰えると心が軽くなります。ありがとうございます」



ルタ様は私が落ち着くまで優しく頭や背中を撫でてくれた。


優しく、大きな手で、ゆっくりと。


彼の手はとても暖かく心が落ち着き癒されていくのが分かった。



それに、ルタ様は魔法が使えないと知っても態度が変わらなかった。


正直、私の価値は母譲りの高い光魔法の適性のみだと思っていたので、魔法が使えない事実を打ち明けている時に無能な私を婚約者として迎え入れたと知れば優しい彼の態度もガラッ変わるかもしれないと身構えていた。


ルタ様は私の高い光魔法の適性の血が欲しいという事ではなく、本当に1人の女性として婚約者としてクラレンス家に迎え入れてくれたようだ。


私と誠心誠意向き合ってくれる彼の事を信じてみよう。






──そして、ルタ=クラレンスとの婚約を結んでから1週間後。


クラレンス家主導の元にロレーヌ家との両家の顔合わせが行われることになった。



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