13話「現在の彼女」
「──こんにちは、ケイ=ロレーヌ嬢。私はルタ=クラレンスと申します。突然ですが、本日は貴女様と婚約させて頂きたく此方へ参りました」
この国ではよく見かける控えめな茶髪に、ライトグリーンの瞳。優しげな顔つき。
……ケイだ。
当然ながら大人の女性へと成長してはいるが、面影は殆ど残っており一目で彼女だと認識できた。
「お、お初にお目にかかります。ケイ=ロレーヌと申します。
申し訳ありませんが、突然の事に状況が読めないのですが……」
「実は先日、貴女様がフォルクング侯と婚約破棄をされたと伺いました。突然ではありますが、ケイ様が宜しければ是非私と婚約して頂きたいのです」
今日は顔合わせのつもりだけであったが、彼女の父親との件もあり率直にケイとの婚約を考えていると伝えた。
「……クラレンス様の申し出、受け入れさせて頂きたいと思います」
彼女はしばらくの沈黙の後、婚約を受け入れると言った。
突然の訪問に婚約の申し出。
もっと慌てふためくと思ったが、案外彼女は冷静に見えた。
もしかして、ルタ=クラレンスがクロであると気がついているのだろうか?
彼女は昔の事を聞いてくる様子がなさそうなので後日こちらから確認したいところだが、今は彼女が自分との婚約を受け入れてくれた事が素直に嬉しかった。
「……本当ですか?嬉しいです。実はお父様にはケイ様がいいならと許可は頂いております。明日にでもクラレンス家にお越しください」
「……はい。流石に明日に、とは行きませんが数日後には家を出れるようにします。よろしくお願いします」
***
──話はとんとん拍子に進み、ケイと婚約をする事になった。
彼女への扱いを見て腹が立ち勢いでの申し出となってしまったが、自分にとって彼女との婚約は本望だった。
両親に冷静に考えろと言われたことに対しては反してしまっているが、帰りの馬車の中で改めて考え直してみても俺には彼女一択だったので後悔はない。
驚かせてしまうとは思うが、両親には直ぐに報告しよう。
後、彼女を受け入れる準備を早急に行わなければ。
「……ロレーヌ侯、どうしてあんな扱いを……。
それにケイに対するあの噂は何なんだ……?」
ケイがロレーヌ家で散々な扱いを受けているのはロレーヌ侯の態度を見れば一目瞭然だった。
心做しかケイの顔色は悪く、貴族令嬢とは思えない程にドレスも使い古した様な物を着ていた。
昔はドレスは毎度新しい物を着用していた気がするし、まさか今の彼女があの様な扱いを受けているとは思いもしなかった。
そして、現在のケイ=ロレーヌは悪い噂が出回る令嬢。
自分はケイに関する噂は全く知らなかったが、両親はわざわざ過去の息子の想い人の悪い話をするような事をしなかったんだろうし、俺が噂話を好きではない事を周囲の人間も知っているからわざわざ耳に入れることもなかったのたろう。
10年という歳月の間にロレーヌ家と彼女に何が起きたのか……。
早く家に迎え入れて、現在の彼女についてもっと知りたいと思った。




