12話「ロレーヌ邸」
ロレーヌ家長女、ケイ=ロレーヌの婚約破棄の話を聞き付けてから3日後。
両親に自分の胸の内を話した俺はその後すぐに彼女の父親であるロレーヌ侯に『ケイ=ロレーヌ嬢にお会いしたいので宜しければご挨拶をさせて頂きたい』という旨を婚約破棄については触れずに書き綴った手紙を送ったところ、返事は案外直ぐに届き『我が娘の貰い手になってくださるなら是非喜んで』となんとも娘を大切にしていなさそうな文面での返事が来た。
馬車に揺られること1時間弱でロレーヌ邸へ辿り着く。
ロレーヌ邸に着いて先ず目に入ったのはそれは見事に手入れをされた美しい庭園で、桃色の薔薇が咲き乱れていた。
薔薇のアーチをくぐり抜けると、庭園の中央部には大きく華やかな噴水がありとても印象的だ。
ロレーヌ家はこの国の貴族の中でも広大な土地を持ち、主に農業や花栽培、薬草栽培を担っているのだが、この庭園を見ると如何にその技術が優れているかが一目で理解出来た。
「──ようこそおいでくださいました。ロレーヌ家当主のデイビッド=ロレーヌと申します。騎士として名高いクラレンス家のご長男様が我が家の長女とお会いしたいとの事を伺っておりますが大変驚きました」
「初めましてロレーヌ侯。私はクラレンス家長男、ルタ=クラレンスと申します。以後お見知り置きを。……しかし何故驚かれるのです?」
手紙の時から引っかかっていたこの違和感。
ロレーヌ侯のケイに対する態度だ。
「……それはもうケイは何の取り柄もない、ただロレーヌの名を持つだけの存在でしてね。ロレーヌの得意とする治癒魔法も全く使えません。見た目が華美な訳でもなく、目を引く物を何も持っていないのです。しまいには婚約破棄をされて“傷物“といった始末でして……」
自分の娘を貶すロレーヌ侯を見て開いた口が塞がらなかった。
何故なのかは分からないが、ロレーヌ家でケイが大切にされていないのは父親の態度ですぐに分かった。
「……ケイ様に私が婚約を申し込んでも問題ありませんか?」
「……はい?」
「ケイ様が宜しければ私と婚約させていただきたいのです」
「ふ、ふぇ!? よ、宜しいのですか?あの様な娘がクラレンス家のご長男様と婚約して頂けるとは嬉しい限りですが……」
「彼女に会わせていただけますか?」
「は、はい。今すぐにでも……」
両親に冷静に考えろと言われたのに、ロレーヌ侯の態度に無性に腹が立ち、挨拶だけのつもりが婚約を前提で会うことになった。




