ゴブリンクイーン その2(8)
なんとか、ゴブリンクイーンの話が完結しました。
-どこかの布団の中-
『ウザイ』『キモイ』『シネバヨイノニ』など、さきほど浴びせられた罵声が響く。
楽しくない、辛い世界。思い出したくもない。
なぜ、ワタシばかりが酷い目に遭うのだろうか。
『他人に負けない力が欲しくないか』
悪魔の囁きのような危険な誘惑の言葉。
しかし、力がないワタシにとっては、神の加護のような言葉に聞こえる。
「力が欲しい」
そう願うと、周りの景色が暗転する。
−儀式の間−
ワタシは硬い冷たい床に倒れていた。
身体は自由に動かない。
『テネーブル様。
異世界転移者の召喚に成功しましたぞ』
髪がボサボサで磨りガラス状の眼鏡を付けた白衣の男が自慢げに報告をしている。見た目通り、マッドサイエンティストみたいだ
『シアンティフィックよ。
目の前には醜い化け物しかいないぞ。
本当に実験に成功したのか?』
灰色のローブを着た、背中に羽の生えている男が、訝しそうな表情で、マッドサイエンティストに確認している。
『テネーブル様。
あれこそが、ゴブリンクイーンですぞ。
かつて1国を滅ぼしたことのある実績が……』
マッドサイエンティストは自慢げに自説を述べているが、テネーブルは落胆している様だ。
異世界?召喚?ゴブリン?
意味がわからない。
そもそも、ここはどこで、彼らは誰だろうか。
『ゴブリン!?
失敗だな。
どこかに捨ててこい』
灰色ローブの男が、吐き捨てるように叱りつける。
この場には、ワタシ以外は、灰色ローブの羽の生えた男とマッドサイエンティストしか居ない。
嫌な予感がしたところ、別室からやってきたローブを着た男に抱え上げられた。
もしかして、ワタシはゴブリン!?
凄い絶望感に陥る。
『テネーブル様はゴブリンがお嫌いでしたか。
お好みのほかの魔物に憑依させればよろしいでしょうか』
抱えられて外に出る際に、彼らの話している会話の一部が聞こえた。どうやら、ワタシは、この男の実験でこの世界に呼び出されてゴブリンに憑依させられたみたいだ。
ローブの男が外まで運ぶと、川に突き落とされた。
夢なら覚めてほしいが、川の水が冷たい。
どうやら夢ではなさそうだ。
-川のほとり-
太陽がジリジリと肌を焼き付ける暑さで目を覚ました。
周りを見渡すと、先程までの冷たく硬い床ではなく、河川敷の石が混じった砂利の上だった。目の前の川は、対岸が遙か先にある。
反対側を見渡すと、背の低い木が山裾の森まで続いている。
ここが日本でないことは、すぐに分かった。
ワタシを捨てた連中が言っていたとおり、ここは異世界なのだろうか。
川の水に映る自分の顔を眺めてみる。
目の前に醜い化け物が映ったときに絶望を覚えた。
「これがゴブリン」
ゲームに出てくるゴブリンよりも醜い。
どのくらい醜いかと言うと、見た瞬間に吐き気を催すぐらいだ。
最悪だ。
灰色ローブの男に捨てろと言われたときには怒りも湧き上がったが、この姿を見ると理解ができる。
絶望のあまり自殺したいが、自殺ができない。
餓死しようと食べることを我慢しても、いつの間にか何かを口にしてしまう。
川に身を投げても、何故か泳いで岸に上がっている。
自分の意志以外の本能か何かが生き延びるために死ぬことを拒否しているようだ。
ー産卵ー
どれだけの日が過ぎたかわからない。
この辺りに群生している植物の実は激しく不味いが食べることができるので、餓死することはなさそうだ。
この激しく不味い実を食べて、川で水を飲む。
元の世界の貧民層と同じか、それ以下の生活だが、餓死する心配がないだけマシだと自分に言い聞かせる。そして、植物を生で食べ、川の水をそのまま飲んでいるのに、腹痛一つ起きない。
むしろ、お腹よりも、尻尾のあたりが痛い。
尻尾のあるゴブリンは見たことがない。
翌日、尻尾の痛みはなくなていたが、目の前に見たことのない白い楕円状の塊がある。それが何か、おおよそ予想がつくが認めたくなかった。
数日後、白い楕円状の塊から、醜い子供が生まれた。ワタシと同じゴブリンの様だ。この周りに、ほかの動物が居ない様だから、私が卵を産んで、それが孵化したのだろうか。
落ち着いて、周りを見渡すと、さらに4つの卵がある様だ。マッドサイエンティストがゴブリンクイーンと言っていた様な気がする。もしかすると、ゴブリンの女王アリみたいなモノなのだろうか。
放心をしているワタシのそばで、生まれたばかりのゴブリンが美味しそうにあの不味い実を食べている。子育てをした経験も無いし、こんな化け物を育てる気は無いが、どうやら勝手に成長していくようだ。
-ゴブリンの群れ-
ゴブリンたちが孵化して数が増えていくと生活が変わった。ゴブリンたちがワタシの食事の世話をしてくれるため、産卵回数が毎日3個まで増えた。ゴブリンたちは醜い存在で、最初は抵抗感があったが、そのうち慣れていき、一生懸命ワタシに使える様などは可愛く思える様になった。徐々に群れは大きくなるが、大雨の際に川が氾濫して辺り一帯が水没するので、安全な住み処を探すことになる。
最初は川から離れた森に向かったが、大きいパンダが私たちを餌として襲撃してくる。この世界のパンダは、全然可愛くないと言うよりも怖い。
森に近づくのは危険だ。
河川敷のうち、わずかに高い場所に住み処を定めることにした。住まいの近くに、あの不味い実を植えた。あの不味い実も、食べ慣れれば、味が気にならなくなる様だ。ワタシは適応能力が高いのだろうか。
このまま数が増えると食糧の供給が追いつかなくなると予想して、10名ほどで1ユニットとなる調査隊を何回か派遣した。戻ってこない者たちも居たが、次第に周りの状況が分かる様になった。目の前の大きな川沿いにある河川敷にライバルとなる生物は居なかった。大雨のたびに水没するので、生息場所としては不向きなのだろう。
日が昇る方角を東と仮定した場合、東の大きな川は北から南に向かって流れている様だ。河川敷と灌木の地域が幅数キロほどあり、西に、危険極まりないパンダが生息している森がある。
北に向かったユニットから川と山で進めなくなると報告を受けた。南側から人間と遭遇したと報告を受けた。人間は無条件にこちらを敵視している様で、どうやら生息地域をこれ以上進めることは難しそうだ。
-極寒の冬-
冬になり、あの不味い実の収量が減ってきた。
食糧不足となり、このままだと餓死者が出る様だ。
このままたくさんの仲間が餓死するくらいなら、いくつかのユニットを人間の勢力圏に送るくり、生息圏を広げるしかないだろう。
春先になって、食糧事情が安定した頃、南に向かったユニットから何も報告が無い。逆に、パトロールをしているユニットから人間を見かけたとの報告を受ける様になる。
こちらも、ただ殺されるわけに行かないので、迎撃に出るが返り討ちに遭う。最初に召喚した男が、ゴブリンをいらないというわけが少し分かった気がする。
今後、人間が住み処を襲撃する可能性があるので、数が回復するまで時間稼ぎをしたい。
-襲撃-
その日は突然やってきた。
早朝から集落が騒がしい。
どうやら大量の人間が襲撃してきた様だ。
しかも、いくつかの方向から分散して襲撃してくる。
どうやら人間どもは、ゴブリンを根絶やしにする様だ。
ワタシの元にも、数十人の武装した人間がやってきた。我が子たちが必死に守ってくれるが、徐々に討ち取られていく。ワタシも頑張ったが、ついに最後を迎える様だ。
我が子も居なくなり、諦めの境地の中消滅する。
元の世界でも、この世界でもひたすら嫌われた人生はここで終わるのだろうか。せめて、誰かに見守られて成仏したいなぁ。
そんな風に思っているワタシに、討伐に来ていた女性が祝福をしてくれる様だ。最後に、一つ良いことがあったのかも。
-モノクロの世界-
気がついたときには、白黒の何も無い空間に居た。
ここには、2人の女性の話し声が聞こえる。
『可哀想な転移者ね。
闇さんや、何かしてあげられないかな』
『異世界転移者なら、輪廻になるから人間に転生すると思うよ』
誰か知らないが、ワタシの人生もといゴブリン生に同情してくれる様だ。
『いや、彼女はゴブリンじゃん。
もしかしたら、またゴブリンなのかなと思って』
またゴブリンに転成する輪廻って、救いの道が無い。
なんとかして欲しい。
『あらら。異世界転転移者がゴブリンになったの。
たぶん、テネーブルが変なことを思いついたんだろうね。
とりあえず、輪廻の先をいじってみましょう』
よかった。
ゴブリンに無限転生する道からは逃れることができるみたいだ。
ところで、異世界からどうやって渡ってきたのだろう。
『異世界転移について知りたいのね。
転生までの間、待っていることになるから教えてあげよう』
この人物が何者か分からないけれど、この世界のことと異世界転移について教えてもらった。
元々この世界に人間はいなかったらしい。
彼女たちは、異世界転移ができる様になった理由までは分からないらしいが、2-3000年前に数百名の人間が異世界転移をしてきたのが始まりらしい。
ほかの人型生物の魂は、光や闇、4大精霊の加護でできているのに対して、人間は異世界転移で転移した魂を元にしているらしい。そのため、人間は死亡すると輪廻の元に人間として転生するそうだ。
輪廻の元に人間に転生した際に記憶は消えるらしい。そして、異世界から魂の供給はずっと続いているそうで、人間の数がどんどん増えていったそうだ。
「記憶が無くなるとワタシがワタシで無くなる。
ワタシのままで転生することはできないの」
好意で人間に転生させてくれるのに、つい無理なお願いをしてしまった。怒って、気が変わったらどうしよう。
『たまにはサービスしてあげようか。
記憶を残したまま転生っと』
よかった。
怒っていないみたい。
『あら、記憶を残すとすると転生はできないのね。
あ、間違えた』
聞いてはいけない台詞を聞いたと同時に、ワタシの意識は遠くに飛んでいった。
『人間じゃ無いけど可愛いから許してくれるでしょう』
-謎の間-
ゴブリンクイーンを召喚した元凶の髪がボサボサで磨りガラス状の眼鏡を付けた白衣の男が主人に報告をしている。
「テネーブル様。
ずいぶん前に召喚したゴブリンクイーンが軍隊に討伐されたそうですぞ。
そこら辺に転がっていたゴブリンに、異世界転移者を憑依させると、異世界転移の人間と同様に魔物もかなり強化されるようですぞ」
主人であるテネーブルは、ゴブリンが薄汚くて廃棄したことなど覚えていないかの様に満足そうに報告を聞いている。
「シアンティフィックよ。
ほかの成果はどうなっている」
ゴブリンですら、これだけの成果を上げるならば、ほかの憑依の実験ならもっと凄い結果が出るはずだ。
「テネーブル様。
我々の力では、強力な魔物は、そもそも確保ができません。
冒険者どもを利用して、強力な魔物を生け捕りにするのはいかがでしょうか」
都合の悪い報告をするため、磨りガラス状の眼鏡が真っ白になる。戦闘能力の無い彼が、これまでに捕獲に成功した魔物は、気絶している者を含めても、せいぜいオーク程度までである。
この前、愚か者のトロールを騙そうとして、逆に食べられそうになった事は、恥ずかしくて報告していない。
さて、今後も不幸な異世界転移者は発生するのだろうか。
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