ゴブリンクイーン その2(7)
なかなか休みが取れず、更新が遅くなりまして申し訳ございません。
-5/11 ゴブリンの集落近郊-
ほかの冒険者とともにゴブリンの集落に向かい進軍を開始する。歩き始めて1時間ほどで小高い丘が見える。どうやら、この丘がゴブリンの集落らしい。
丘に向け進んでいくと、別の方向から集落に向かっている軍と戦闘が始まっている様だ。
「なぜ、同時に攻撃を開始にしなかったのでしょうね」
疑問を口に出して呟いた。
「灌木しか無い平野に軍隊が身を隠す場所はないだろ」
近づいた時点でバレるから奇襲ができないのさ」
アムールさんが、呆れた表情で教えてくれた。
元の世界は平和だったから、こういう知識に疎いのかもしれない。
実際に、ゴブリンの集落に近づくと灌木が無くなりゴブの実が一面に生えていて身を隠せる場所が無かった。100名近い武装した集団が近づけば、どこかで発見されるから、なし崩し的に戦闘が始まるのだろう。
「奴らは、見つけた敵に襲いかかるから、最初に見つかった部隊は防衛に専念するんだ。
そこで、ほかの部隊が集落の防衛が疎かになって居るところを攻撃するんだ」
アムールさんの説明はわかりやすい。
小学生のサッカーでボールに集まる様な相手に対する戦術みたいだ。
さて、私たちも集落に向かって進軍しよう。
-ゴブリン集落-
私たちがゴブリンの集落に着いた時には、ほかの部隊がすでに集落内に侵入して、いくつか火の手が上がっていた。
どこに、クイーンがいるのだろうか。
「あれが、クイーンの居場所よ。
下等なゴブリンに女王など不要よ」
輿に乗ったアンペラトリスさんにとって、女王様は、自分だけで十分と言うことなのだろうか、クイーンの居場所を扇子の様な物で指し示している。
「「最前線まで輿で移動!!」」
混戦の中、輿で移動していることに驚いていると、担ぎ手の一人が転けた。当然、アンペラトリスさんが輿から転げ落ちるが、そこにゴブリンたちが殺到する。
「早く助けに行かないと」
クリスが慌てて駆けつける。
戦争規模の戦闘で四肢損傷者も治せる聖女5のアンペラトリスさんは貴重なため、私たちもクリスに続く。私たちはアンペラトリスさんに群がるゴブリンたちと乱戦となる。私たちがゴブリンの一団を引きつけている間に、ほかのパーティーがクイーンがいると思われる場所に急行する。
ゴブリンとの乱戦を制し、アンペラトリスさんの無事を確認できた。クリスがアンペラトリスさんに駆け寄るといきなり頬をひっぱたく。周りに居た親衛隊がいきり立つ。
「あなたに何かあったら、怪我をした兵士は誰が面倒を見るのですか」
叩かれたアンペラトリスさんは一瞬むっとした表情を見せるが、親衛隊を手で制する。
「わらわの高貴な顔を叩くとは無粋にもほどがある。
本来なら八つ裂きにしてやるところだが、わらわを待つ者の声が聞こえる故、今日のところは見逃してやろう。
それでは、ごきげんよう」
アンペラトリスさんは口ではああ言っているが、怒っていない様だ。女はよく分からない。
「なんだあの化け物は」
「あれがクイーンなのか」
クイーンがいると思われる場所に向かった冒険者たちから驚きの声があがる。
『コロス、コロス、コロス、コロス……』
突然、クイーンがいる思われる場所から日本語が、響き渡る。
ココとアレックスさんは反応しているが、他の人には聞いたことのない、耳障りな音にしか聞こえない様だ。
「この化け物は日本語をしゃべりやがる!」
聖堂騎士団のシュバリエさんが、驚き叫んだ。
彼も異世界転移者だから日本語は分かる様だ。
『ミニクイトイワレ、イジメラレタ。
ゴブリンナノデ、コロサレル』
間違いなく日本語だ。
そうすると、ゴブリンクイーンも異世界転移者なのだろうか。
「ウォーリアが孵化したぞ!!」
「いや、あれは蛹だろ」
「どっちでもいいから早くなんとかしないと」
どうやら大騒ぎになっているので、私たちもそちらに向かう。
-ゴブリンクイーン-
目の前に居るゴブリンクイーンを一言で表すなら、シロアリの女王アリだろう。ゴブリンの身体に尻尾と言うには、あまりに大きい産卵器官が付いている。その大きさは、3m以上あり、クイーンが一人で移動することは不可能である。
そばにウォーリアよりも一回り以上大きく3m近い大きさの個体が4体居る。そして、目の前の蛹か卵か分からない状態から孵化する者を含めてウォーリアが20体近く居る。
いつからゴブリンが、昆虫の仲間入りをしたのだろうか。
「ゴブリンっていつから昆虫の仲間入りをしたの?」
思いっきり場違いだけれど、どうしても聞いてみたかった。
「こいつがおかしいだけだ」
「普通のゴブリンは、人間と変わらねーよ」
何人かに、お前は馬鹿かという口調で突っ込まれた。
ゴブリンクイーンだけが異常らしいので、戦闘に専念しよう。
ゴブリンウォーリアとタイマンになるが、遺跡調査の時に対戦した大怪我をしたウォーリアよりも、弱い。たぶん、孵化したばかりで戦闘経験などが殆ど無いのだろう。
『イツモ、ビンボウクジ』
『ニンゲンナンテ、ホロベ』
クイーンが呪詛を並べるたびに、禍々しい魔の気配が広がっていく。禍々しい魔の気配はバフの様にゴブリンたちの力を増すとともに、仲間の身体の力が失われていく様だ。
このバフの効果で、周りの戦況は徐々に不利になっていくが、私は力が失われる感覚は無い。ゴブリンウォーリアが強くなっても、戦闘経験が乏しいので、動きが読める。「当たらなければ……」と言う名言の様にゴブリンウォーリアの攻撃をいなしながら、こちらの攻撃を的確に命中させる。
『カワイイコニナニヲスル』
周りの禍々し今の気配が私に集まってくるが、何も変わらない気がする。
ところで、これは何かのエネルギーだろうか。
物は試しで、このエネルギーを質量に換えてみよう。
シュワー
まるで、掃除機に吸い込まれる様に、禍々しい魔の気配が薄くなっていく。
『キサマナニヲシタ』
ゴブリンクイーンの驚きの声が聞こえる。
禍々しい魔の気配が薄まるとともに、戦況はこちらが有利になる。
「皆様、女王はわたくし一人で十分です」
こちらの女王様ことアンペラトリスさんがゴブリンクイーンに対抗して聖の気配を展開する。クリスとカティーさんがそばに居て協力している様だ。
『ワタシガ、セカイノソウゾウシュ』
ゴブリンクイーンも対抗して禍々しい魔の気配を展開するが、今のところ互角の様だ。
そうなると自力に勝る私たちの方が有利になるはずだ。
目の前のゴブリンウォーリアを倒して周りを見渡すと、味方が倒れている。
Why?
クイーンの近くに居た10名近いゴブリンシャーマンが、私に向かって魔法を一斉に飛ばしてくる。
これで、味方がやられたのか。
『フハハ
ムシケラガチョウシニノルナ』
魔法の衝撃によって舞い上がった砂煙の向こうからゴブリンクイーンの勝利の雄叫びが響き渡る。
「悪いけど、効いてないから」
砂煙が無くなり視界が確保できたところで、ゴブリンクイーンに現実を告げる。
『コロセ! コロセ!』
ゴブリンクイーンの狂った様な叫び声を合図に、ゴブリンシャーマンたちの魔法が私に五月雨の様に飛んでくる。
まぁ、魔法だから、エネルギーを質量に換えよう。
「当たらなければどうと言う事はない」
つい、どこかのアニメの敵キャラのような台詞を吐いてしまう。
魔法が私に届く前に消えているから、効かないのは事実だしこれぐらいは許されるだろう。
『オタクシネ』
ゴブリンクイーンが異世界転移者なのは間違いなさそうだけれど、『オタク死ね』とツッコまれた。ゴブリン死ねと言って、命を狙いに行っているこちらに比べると、まだ穏当なのかもしれない。
そして、学習能力の無いゴブリンシャーマンは、さらに魔法を撃ってくるがそのうち弾切れになる。
魔法の煙幕が晴れた頃、ゴブリンウォーリアより一回り以上大きいゴブリンが襲ってくる。確かこいつは4体いて、エペのエイペストとラム、聖堂騎士団のシャバリエともう一人が相手をしていた様だが、そのもう一人がやられて、私の方に来た様である。
このデカブツは先ほどの促成ゴブリンウォーリアと違って戦闘経験がある。大きい分、力は強く一撃一撃が重いので必死に凌ぐ。多少動きが鈍いが、力強い攻撃を警戒するために防御に専念すると、じり貧になりそうだ。
ふと、ジェームス帝の『動きを読めることに頼りすぎだ。武術は、攻撃と防御が一体だ』と言う言葉が脳裏に浮かぶ。相手のペースに任せるのでは無く、こちらも攻撃を織り交ぜながらペースを掴む様にする。徐々に、ペースを掴める様になり、デカブツにダメージを与えていく。焦りだしたデカブツが、体勢を崩したのに強引に反撃するために全体重を足に預ける。
一般的に、身体が大きくなると、体重は大きさの3乗に比例するが、支える筋肉や骨は大きさの2乗に比例するため、太くなる傾向がある。さらに骨や筋肉の強度は変わらないため、巨大化による自重に抗するのが難しくなる。地球の大型哺乳類が水生になるのは、自らの重さに潰れないように浮力を利用せざる負えないからである。
さて、無理に踏ん張ったデカブツの膝が、自らの重さに耐えきれず、ブツッと大きな音を立てる。デカブツが大きな悲鳴を上げ転倒し、それを合図に複数の冒険者がとどめを刺しに行く。デカブツが居なくなり、あたりを見渡すとゴブリンクイーン以外はあらかた退治されていた。
クリスを始めとする聖女が全員でゴブリンクイーンの禍々しい魔の気配を抑え込んでいるが、接近するのは難しいようだ。
昼過ぎに、軍から報告があり、ゴブリンの集落にいたゴブリンを壊滅させたそうだ。
『モウ、ワガコハダレモイナイノネ』
これまで修羅のような声色だったゴブリンクイーンが、寂しそうに呟いた。
『ヒタスラキラワレ、イノチマデネラワレル
イセカイテンイトハ、ナンダッタノダロウカ』
蚊のような細い声が聞こえたあと、ゴブリンクイーンはまとっていた禍々しい気配とともに消滅していった。
「すごく後味の悪い終わり方ね」
ココが呟いたが、気持ちは同じだった。
多分、こんな救いのないシナリオを書いたらクレームの嵐だろう。
勝ち鬨をあげている冒険者や軍の人たちとは別に、いたたまれない気持ちでゴブリンクイーンの居たあたりに目をやる。1つの小さな淡い金色の光が、蛍の様に彷徨っている。
光に気がついたクリスは、一瞬驚いたように見えたが、落ち着いて光に向かって祈りを捧げる。
『アリガトウ』
光が消えるとともに、か細い声が聞こえたような気がする。
「ゴブリンクイーンさんの魂を浄化しました。
人間以外の死者の魂を見るのは初めてです」
クリスも驚きを隠せないようだ。
聖女教会の教えによると、死亡後に魂が顕れるのは人間や一部の獣人だけだそうだ。精霊の加護の強いエルフやドワーフなどは、死ぬと同時に精霊の元に帰ると言われている。ゴブリンたち魔物については聖女協会も死後に魂が顕れることがなく、殺したまま放置してもアンデットにならない事ぐらいしか把握していないようだ。
そのため、今回、魔物であるゴブリンクイーンに魂が顕れたことは新たな発見らしい。
「魔物にも魂があるということは新しい発見です。
そもそも、浄化された魂の行き先もわかっていないのです。
浄化した魂がどこに行くのか非常に興味があります」
クリスが、目をキラキラと輝かせながら話を続けている。
どうやら、聖女教会の教えで解明されていない部分に強い興味があるようだ。
聖女として死者の魂の浄化を行っているからこそ、その真相を知りたいのだろう。
元の世界の魂は宗教の中だけの話だったが、亡くなった人の魂を浄化しなければアンデットになるこの世界の場合はどうなのだろう。そもそも、浄化された魂は無に帰すのだろうか、それとも輪廻転生をするのだろうか。
ゴブリンクイーンの魂は、きちんと成仏できたのだろうか。
あと、私やゴブリンクイーン達、異世界転移者は、どのようにしてこの世界に来たのだろうか。凄く気になる。
私も、クリスと一緒にこの事を調べていこうと思う。
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