ゴブリンクイーン その2(5)
-4/29 聖女協会治療院-
私たちは、昨晩の謎薬騒動で何か感染したか診察して貰うため、聖女協会の治療院に来院する。
「大丈夫みたいですね」
私たちに治療を行ったおばちゃん聖女から太鼓判を押してもらった。『みたい』で確定でないのが不安だが、元の世界の医療も100%の診断性能は無かったし医療に絶対は無いから信用しよう。
そんなことを考えていたら、私以外の仲間や憲兵隊員は、みんなどこかに切り傷か火傷などの負傷をして、おばちゃん聖女に治療をしてもらっていた。
「フィルは防御が得意だよなぁ。
ダメージを負わないことは大事だよ」
アムールさんが褒めてくれるが、昨晩の戦いで何回か奴の体液がかかっていたはず。みんなは体液がかかって火傷をしたのに、私は運が良かったのだろうか。
「フィルの火傷は、昨晩の治療で完治しましたよ」
クリスがにっこりと微笑みながら答える。
少し考えすぎだったかな。
-4/30 憲兵訓練所-
ゴブリンクイーンの討伐開始日が決まった。5/2に帝都を出発しクレアモン村に向かう。前日に準備をするから、ここで稽古を行うのは今日が最後になる。
「フィルと剣をあわせるのは久しぶりだな」
フレッドとの手合わせで、この前対戦した猿人グノンよりも素早い攻撃を繰り出されるが、やはり高速型の宿命なのか攻撃が単調で対処できる。
「速くて残像が見える」
「あの速い攻撃をすべて凌いでいるのか」
外野からいろいろな声が聞こえる。
フレッドは、一般人の2倍の速度は出ないが5割増し以上は出ていると思う。
野球に240km/h以上の剛速球を投げるピッチャーが出てきた様な感じだろうか。
「フィルは、俺様の動きが見えているのか」
フレッドが休憩時間に疑問をぶつけてくる。
これまで、あの攻撃を凌いだ人は、殆ど居ないらしい。
「動きが直線的で読みやすいんだ」
さすがに、『高速型の戦士は、行動が単調』と言うわけにはいかないので、少し誤魔化した。
「速度を活かすには行動を単純化するからな。
そもそも速すぎるとフェイントも、相手が反応しないから意味が無いんだ。
しかし、フィルが反応できるなら話は別だな。
もう一戦いくぞ」
フレッドの答えで納得した。
フェイントをかけても相手が反応しないなら無駄な動きになるし、むしろ最短時間で攻撃できる方が効率的だ。
治療で疲労が回復したあとにフレッドと再戦する。
フレッドが仕掛けてくるフェイントを見極めかわしていくが、ずっとフレッドのペースで戦っているのか、押され気味になる。
もしかして、仮面の男ことジェームズ帝の『動きを読めることに頼りすぎ』は、相手のペースに身を任せすぎていると言うことだろうか。意を決して、フレッドのフェイントをかわす際に、自分のペースで攻撃を繰り出していく。
こちらのペースで攻撃を繰り出すと、自分のペースでしか戦ったことの無いフレッドは防戦一方になる。
「VHSのフレッドが押されて居るぞ」
「Lv1.2のAGIは、そんなに高かったか?」
なんか外野が五月蠅い。
ところで、Lv1.2は私だとしてVHSは何だろうか。
あとで、ココとアレックスさんに聞いたところ、元の世界にあったビデオデッキのテープと言う物らしいが、聞いたことも見たことも無い。記憶メディアは、USBメモリやマイクロSDカードだったと伝えると、2人から知らないと言われた。2人と私が居た世界は、実は別の世界なのだろうか。
フレッドとの手合わせで課題が見つかったので十分な成果だ。
ただ、これ以上フレッドと手合わせをして、どちらかが大怪我をするとゴブリンクイーンの討伐に参加できなくなるため、切り上げる。
その代わりに、他の人との手合わせで自分のペースを作るべく試行錯誤する。
「フィルは、クリスが相手の時は手加減をしているのか?」
アムールさんやフレッドに揶揄われる。
フェイントを仕掛けてフレッド並みの速度で攻撃しても、すべて防がれた。
「クリスにフィルの動きがすべて読まれていると思いますの」
ココの指摘通り、クリスと対戦したときはこちらの動きがすべて読まれている感じだ。まるで西遊記の孫悟空がお釈迦様の手のひらの上で弄ばれている様な状態だ。
「フィルの事は何でもお見通しです」
クリスが当たり前の様に答えているが、あれだけ行動が読まれているとしたら、事実なのだろう。
なぜ、完全に読まれているか確認したいが、やぶ蛇になるかもしれないので、今のところは黙っていよう。
-5/4 クレアモン村-
クレアモン村には、ジェニーさんの墓参りをするために、作戦決行日の前々日に到着する。フレッドたちのパーティーと一緒にジェニーさんの墓に向かう。ジェニーさんはゴブリンの洞窟の前で、カティーとココたちのパーティーメンバーはゴブリンの洞窟の中で亡くなったため、墓を一つに纏めている。
「ジェニーの好きだったコロッケを、出来たてで捧げる事ができたよ」
アレックスさんが、ジェニーさんの墓の前でコロッケを作っているため、出来たてのコロッケがたくさんできている。
アムールさんがアレックスさんに感謝している。
「ゴブリンなんて絶滅すれば良いの」
ココやカティーもゴブリンを嫌っているが酷い目に遭ったので当然だろう。今日は、亡くなった仲間を偲び、明日からの討伐の無事を願う一日になる。
そう言えば、ファンタジー世界のゴブリンは物語ごとに設定が違うが、この世界だとどうなのだろうか。
-ゴブリンの生態とゴブリン病-
クレアモン村に戻ってから、この世界のゴブリンについて、ドンさんから教えて貰った。
醜悪な外見、旺盛な繁殖力、集団で生息、不衛生な環境を好むところはファンタジー世界のゴブリンと同じだが、大きく異なるのはゴブリン病と呼ばれる病気を媒介するそうだ。
この病気は、ゴブリンには無害だが、ほかの人型生物が感染すると様々な症状が発現し死に至るそうだ。そのため、この世界では、ゴブリン病から身を守るために、見かけた場合には速やかに討伐するそうだ。
当然、ゴブリンを観察や研究することはなく、文明程度は元の世界の石器時代と同程度で、詳しい生態は分かっていない。 いくつかの種類がいるので、人間が区別するためにホブゴブリンやシャーマン、ウォーリアと呼んでいるだけだそうだ。
12月に見かけた灰色ローブについても聞いてみたが、こちらは何も分からないみたいだ。ゴブリンの研究が全然進んでいないから仕方が無いのかな。
そんな話をしていたところ、村の年寄りから遺跡の近くで見かけた、パンダみたいな生物について『神獣様に違いない』と主張して根掘り葉掘り聞いてくるので、ドンさんたちに任せよう。
-ゴブリン病の真実-
クリスにゴブリン病について聞いたところ、「そんな病気は無いですよ」と意外な答えが返ってきた。聖女協会の解釈は、ゴブリンは、いろいろな種類の病気に罹っていて、人間に感染するだけだそうだ。かつて存在してい宗教が、病気が流行したときにゴブリンをスケープゴートにした名残だそうだ。
元の世界でも、ペスト、狂犬病、インフルエンザなど動物が媒介する病気もあったから、不衛生な状態のゴブリンが人里近くに生息していたら、いろいろな病気が流行るよね。
不衛生な生活環境で生息しているから一部の病気への耐性があったり、繁殖力が旺盛なので死んでも減った様に見えなかったりするので、ゴブリンには無害と思われているだけかもしれない。
-5/5 クレアモン村-
ゴブリンクイーン討伐のために集まった軍人と私たち冒険者に対して、これから作戦の説明が始まる。
日の出と同時に説明を行うため、その前に起きて準備をしなければならない。日の出と同時に起床で、1時間後ぐらいに説明して作戦実行では駄目だったのだろうか。冒険者側は私も含め眠そうな人がたくさん居る。
作戦の説明をしている参謀によると、軍人300人と冒険者7パーティー28名だそうだ。確か、帝都で動員令が出ていて数千人が参加すると聞いていたから、凄く少ない。一週間後に皇帝が500名を率いてE2まで親征をするそうだが、それよりも少ないのはどういうことだろうか。
帝都だけで100万人以上が住んでいるから帝国の人口は数千万を超えるはずなのに、元の世界の川中島、関ヶ原、赤壁に比べても圧倒的に少ない。
そんなことを考えていると、作戦の説明が終わっていた。
あとで聞いた話を纏めると、ここから北に5日進んだところに大規模なゴブリンの集落があるそうだ。この集落以外に大規模なゴブリンの集落が見当たらず、この集落には、ゴブリンが数百匹程度居住していて、ウォーリアも多数確認され、この集落にゴブリンクイーンが居る可能性が高い様だ。
軍隊が森以外の方向から集落に向かいゴブリンやホブゴブリンを駆逐して居る間に、冒険者が突入しウォーリアを排除しながらクイーンを探して退治するそうだ。
森側は巨大パンダもどきが居るので近づかない様に指示された。再会したくないけれどね。
-7パーティー-
次の7パーティーがゴブリンクイーン討伐に参加している。
『エペ』・・・パーティーランク 7
ドワーフのエイペストとリザードマンのラムの元剣闘士コンビで帝国最強のパーティーと公言している
『聖堂騎士団』・・・パーティーランク 6
フルプレートの4人組
団長のシュバリエはドワーフの異世界転生者で元の世界の十字軍をオマージュ
『アンペラトリス』・・・パーティーランク 6
アンペラトリス 30代聖女5
親衛隊4人
『グリモア』・・・パーティーランク 5
精霊術士2人のコンビ
『フラム』・・・パーティーランク 4
豪炎のダニエル ドンの弟
猿人グノン
聖女アンジュ
ドワーフ戦士ゲリエ
『チーレム』・・・パーティーランク 4
フレッド
カティー
シャーリー
ウラリー
『Lv1.2』・・パーティーランク 3
私たちのことらしい
-パーティーの関係-
エペのエイペストが纏め役としていろいろ指示をするが、聖堂騎士団とアンペラトリスは『粗野な自信過剰野郎』と蔑称で呼んでいて従う気は無い様だ。聖堂騎士団とアンペラトリスも『エセ宗教』『おばさん女王様』と呼んでいるので、私たちとフラムの仲と同じくらい仲が悪い。
グリモワは、その様子を遠巻きに見ていて、言われたこと以外は従わない様だ。
おかげで連携は全く期待できないので、凄い不安だ。
お読み頂きありがとうございます
ブックマーク、評価ありがとうございます
第85話にエペ、聖堂騎士団、アンペラトリス、グリモアを追加しました




