遺跡調査(4)
-3/21
夜が明けるまでに、パンダやゴブリンなどの襲撃は無かった。
「せっかく交代で見張りをしたのに無駄だったね。
今日から、遺跡の攻略をがんばろう」
パティーさんが遠足を楽しみにしていた子供の様に張り切っている。
「パティーさんの専門は野外活動でしたよね。
屋内も得意なのですか?」
クリスが聞いてはいけないことを口にする。
室内だと、野外活動の知識は活用できないし、弓矢も使えないから長所が打ち消される。
「じゃぁ、みんなは遺跡探索に役立つ特技があるの」
パティーさんは、ほっぺたを膨らませて拗ねている。
言動が子供っぽくて忘れがちだが、パティーさんは子持ちだし、もう少し分別があっても良い気がする。
あ、エルフやハーフエルフにそういうことを期待したら駄目か。
「魔術の知識です」
自信満々に答えるドンさん。
しかし、私を含め他のメンバーは、ドンさんの魔術を信頼していないので、お互いに顔を見合わせながら、黙っている。
そもそも、魔術のトラップでも発見できるのだろうか。
「ところで、昨日のゴブリンはどうなったのでしょうか」
そんな微妙な空気を察してクリスが別の話題を振る。
たしか、昨晩夕食時に現れて遺跡側に逃げ出した後、悲鳴を上げていたっけ。
「ちょっと見てくるね」
パティーさんが軽いノリで引き受ける。
先ほどの専門外発言は引きずっていない様だ。そのあたりは、エルフやハーフエルフの良いところなのかもしれない。
「この辺りで見かけたけど、これは、食えるのかね」
パティーさんが確認に向かっている間に、アレックスさんがキャンプの近くに自生していた何かの実を採ってきたみたいだ。
大きさが5cm位のトマトの様な実で、誰かが囓った後がある。
「こりゃ、ゴブの実だな。
アクが強くてエグイから、ゴブリンぐらいしか喰わないよ」
アムールさんが教えてくれる。
「へぇ、そんなにエグイのですか。
ちょっと試しに……ウガァ」
アレックスさんはエグイと聞いたのに、試しに口に運んでみた様だ。
一口であまりのエグさに吐き出し、むせている。
「おいおい、人の言うことを信じてくれよ。
食える代物じゃないんだから」
アムールさんは、「まずい」と言っているにもかかわらず、人の言うことを聞かないで口にしてむせているアレックスさんを見て呆れている様だ。
「すみません。
料理人は、実際に試してみないと納得しないので」
アレックスさんは、むせながら、アムールさんに謝っている。
「これは、聖女の保存食ですね」
今、アレックスさんが一口噛んだだけで、むせていたのを見ていなかったのだろうか。
みんなが唖然とした表情でクリスを見つめる。
「保存食ですか
煮たら溶けてしまいそうですし、干したら皮だけに成りそうです。
どうやって調理するのですか」
アレックスさんが、調理人として疑問を口にする。
「聖女の力でアクを抜くのです。
その後、皮をむいて、中身をペースト状にして乾燥させて、使うときに水で戻すのです」
「えっと聖女の力とは、どのような調理法ですかね
一般の人も利用できるのですか」
「聖女が、力を流すことでアクを抜くことができます。
聖女の力を使用できるのは聖女だけですよ」
「つまり、聖女以外はあく抜きの調理ができないと言うことか」
メモをとっていたアレックスさんの手が止まった。聖女以外ができない方法では調理のしようが無い。
「おーい
ゴブリンたちの残骸を見つけたよぉ」
パティーさんが遺跡の確認を終えた様だ。
ゴブリンの遺骸は分かるけれど、残骸って何だろうか。語彙力の問題だと思うけれど、エルフにとってゴブリンは生物で無く物なのだろうか。
-遺跡の入り口-
遺跡の入り口に移動したとき、パティーさんがゴブリンの残骸と言った理由がわかった。
遺跡の中にゴブリンの衣服や装備品と思われる物だけが転がっていたからだ。
「身の回りの物だけ残して、どこかに行ったみたい。
どこに行ったか分からないのよ」
パティーさんが遺跡に向かう複数の足跡を指名ながら説明している。遺跡に向かう足跡はあるが、遺跡から出ていった足跡は無い。
ゴブリン本体は、どこに行ったのだろうか。遺跡の中でストリップでもしているのだろうか。
「遺跡内部から魔力を感じます。
それが、ゴブリンに影響を与えたのでしょうか」
本来、建物の内部は暗いはずが、薄ぼんやりと明るくなっている。
ドンさんが指摘するまでもなく、何らかの力が働いているのだろう。
「聖女の浄化と同じ力が働いていた様ですね。
本来浄化はアンデットにのみ効果があります。
それなのにゴブリンまで浄化したのは、理解不能です」
クリスの説明によると聖女の浄化と似た様な力が働いていてゴブリンには有効な様だが、人間には無害らしい。もっとも、聖女にはアンデット以外を浄化する力が無いので、正体不明の力らしい。
「本当に大丈夫なのか。
アムールたちも浄化されたりしないよな」
アムールさんは心配な様だ。
正体不明な力が働いている遺跡は、薄ぼんやりと明るくなっているのが確認できるから余計に不安なのだろう。
「この力は、どこから供給されているのでしょうかね。
魔力を供給する装置でもあるのでしょうか」
ドンさんが、魔力の供給元に言及した。
魔力も、元の世界のエネルギーみたいに、無から作られる事は無く、何らかの供給源が必要だそうだ。もしくは、遺跡内部に魔力が残留しているだけなのかもしれない。
「謎があるから、遺跡を調査するのですよね」
内部が解明されているならば、調査する必要は無いはずだ。
明らかに危険ならば、調査自体が自殺行為だけれど、冒険者の仕事に危険は付きものだと思う。
「未知の遺跡を探索するか。
ファンタジーの冒険物の定番ですよね」
アレックスさんは、食材探しと言い異世界転移を楽しんでいますね。
無為に過ごすだけだと、生活レベルが大幅に低下するだけだから、積極的に楽しむ方がましなのかもしれない。
私も、冒険者をしている時点で積極的に楽しむ側に含まれると思う。
「内部の壁に洪水線がありますね。
昨年の洪水で浸水した可能性が高いみたいですね」
ドンさんが指摘したとおり、壁に洪水線があり、遺跡の内部の床には土砂が堆積している。洪水で遺跡の一部が壊れたことが発見につながった様だ。
-遺跡内部-
遺跡内部は、土砂が積もっていて歩きにくく、薄ぼんやりとした明かりでは暗いため、たいまつで明かりを確保する。
なぜ、魔法の光で無くたいまつなのか。
明かりとして確保できる魔法の光はクリスと私しか出せない。しかも、明るさを一定にするにはかなりの集中が必要になり、土砂が堆積して足下が不安定な遺跡を、光源以外にも気を配るとすると実用レベルに到達していないのが実情である。
「やはり、魔法の光を安定化させるには、リョウシカク魔法の習得が必須だな」
ドンさんが、量子核魔法に期待するのは自由だけれど、万有引力も発見されていないこの世界で量子力学は理解不能だと思う。
それに、私は放射線の危険を理解しない人に、量子力学や量子核魔法を教える気は無い。
さて、遺跡だが入り口の先はT字路になっており、左手の方向に進むことにした。左の道を進むとY字に別れており、左側は少し進むと円形の部屋になっていた。
部屋の内部には、何か構造物があった様だが、洪水の際に壊れてしまった様だ。ドンさんが、土砂の中から、生えている様な構造物の残骸を調べているが、魔力を感じる物は何も無かった様だ。
Y字路に戻り、右手の道を進むと途中で右に曲がり、Y字路に出た。左手は、先ほどと同じ様な円形の部屋に通じていてこちらも、同様であった。違いは、部屋の色が、最初の場所が赤系統の色だったのに対し、この部屋は緑系統の色だった。
「たぶん、次もY字路だろ。
ぐるっと一周できそうだね」
アムールさんが予想したとおり、4つのY字路の先に円形の部屋がある構造だった。円形の部屋は、赤色、緑色、水色、茶色の4色で4大精霊を表している様だった。そして、ぐるっと回る通路の内側に入る入り口があり、ドアがあった様だが、洪水で壊れている様だった。
お読みいただきありがとうございました
ブックマーク評価 ありがとうございます




