鉱山都市ヴィルバンド(6)
-3/8 ヴィルバンド-
ようやくヴィルバンドを出発することができる。
1月29日に着いたから40日ぐらい滞在したが、飯もまずいし、歓楽街もひどいし、他に何も無いから、良い思い出は無かった気がする。
量子核魔法などが上達できただけでよしとしよう。
「この町は、食材が入らないので、食事を作るのも大変でした。
次は、良いところに行きたいですね」
食材探しの旅に出ているアレックスさんらしい台詞だ。
あと数日で、この単調な味から解放されると思うと、少しはほっとする。
ヴィルバンドからの帰路は隊商で必要とする分以外の食材を運ばず野生動物や魔物などに襲われることが無いため、無警戒に飛ばしていく。帰路で襲撃する可能性があるのは、貴金属を狙う人間だが、こちらは警戒しても道が一つしか無いため、対策するだけ無駄だそうだ。おかげで、暇になるため、量子核魔法の練習に励む。
-3/10 街道-
ドンさんの魔術の光が、これまでの線香花火の様な大きさから、こぶし大になった。
「実は、昨日、アインシュタインさんが枕元に現れました。
これまでの魔術から、光属性になったのです」
ドンさん、嬉しそうに理由を明かしてくれる。
光属性?量子核じゃ無いのか。
「枕元に現れたのは、化け物か幽霊かい?
神様や仏様は、夢枕に立つはずだよ」
アレックスさんが、茶化す様に聞いているが、こちらの世界ではどうなのだろうか。
いや、その前に、アインシュタインはこの世界の人物では無いから、枕元が正しいのかもしれない。
「アレックス、化け物は分かるけど幽霊って何?」
ドンさん、突っ込むところはそこでは無いと思う。
ああ、そうか、この世界に幽霊は存在していないか。
「ドンさん。
鎮魂が行われていない幽霊は、私が浄化してあげます」
その話にクリスが加わってきた。
この世界では、魔物以外の人型生物は亡くなった際に聖女の鎮魂を受けないとアンデットになる。そしてアンデットを浄化するのは聖女の役割だ。
つまり、幽霊は死んだものが成仏できずに姿を現したとするとアンデットになる。聖女であるクリスが鎮魂か浄化を考えているので、浄化されては困るドンさんは幽霊で無いと擁護する。
「アインシュタインは幽霊ではありませんよ。
光魔法を導いてくださったのだから神様かもしれません」
この世界の神様は、光、闇の2神が居たが、光の神が闇の神を封じて、その後四大精霊王とともに力を失いどこかに消え去ったらしい。
もし、神様だとすると、凄いことになりそうだ。
「神様(笑い)
そんなものいるわけ無いだろ。
精霊に誑かされてたんだろ」
同じ馬車の人から、からかわれる。
帝国が、宗教を禁じてから、神を信じる人はいなくなったからだ。
この世界にも、いたずら好きな精霊が居るらしい。
そんなことに盛り上がりながら、馬車は進んでいくのであった。
-3/13 ペジエ村-
ヴィルバンドから一番近い村に到着した。
これで、貧しい食生活から解放される。
「ありえねぇ。
何でこの村はこんなに食材が高いのか。
ヴィルバンドの貧しい食事の後だからって、こっちの足下を見ていやがる」
食材の店に行ったアレックスさんが、帰ってきたと同時に吐き出した台詞だ。
まぁ、あのまずい飯を食った後なら、最低限のものでも足下を見られるのだろうか。
「お前さん、この村の利便性と季節を考えなよ。
売れ残った食材は誰も買わないし、この村の人口じゃ自家消費すら無理だ。
もう少し暖かくなると、周辺でとれた産物も並ぶが、まだまだこの時期は厳しいわ」
アレックスの嘆きに対して隊商の調理人が、苦言を呈す。
ペジエ村の近郊に、他に消費者もいないし、冬の間は、食材を供給する手段も無いそうだ。長期保存の利かない食材は、売りに出すこと自体がリスキーになるそうだ。
隊商の場合は、ペジエ村出発後の昼に食材を収集する時間を設けて食糧事情を解決しているそうだ。
「異世界でも経済の概念が働いて僻地は、苦労するのか。
元の世界同様、この世界も世知辛いのね」
私が分かった様なふりをして発言すると隊商の人に、「異世界人の元の世界もユートピアじゃ無いのか」と逆に同情された。隣の芝は青いと言うことだろうか。
-3/14 ペジエ村西の街道-
帰り道は野生動物や魔物が襲撃せずに安全なため、無警戒で飛ばしている。むしろ、見張りの人は、何か他のものを探している様だった。
昨日、隊商の人が言ったとおり、お昼時間の前に食材の採集が始まった。
我々を警戒して、動物は近くにいないため、森で植物の採集をする。春は新芽が息吹くため、野草や低木の新芽がメインだそうだ。さらに竹林を見つけて筍まで採集してくる強者もいる。先ほど、一生懸命見張りをしていた理由はこれの様だ。筍は調理に時間がかかるため、夕食に回されるみたいだ。
みんなで採集した野草を、ベテランの調理人の方が、食べられないものを除いて、あく抜きをして調理する。久しぶりに新鮮な野菜を食べて幸せな気分になる。
「元の世界だと、ふきのとうやコゴミを採りに山に入る人たちがいましたね。
たまに熊と遭遇したニュースが流れていましたわ」
アレックスさんは調理に加わっているので、調理人の人たちと異世界の話で盛り上がっている。
「元の世界の話をすることもあるけど、帰りたいと思うことが無いのよね。
不思議だな」
私がそう漏らしたところ、クリスが申し訳なさそうな表情をした。
たぶん、異世界転移者は治療で、帰郷したいという気持ちは消されているのだろう。帰ることができないのに、帰りたいでは、精神が崩壊する人も出るから仕方が無いのだろう。
-3/16 クレアモン村-
ようやく、クレアモン村に到着した。
村の外にまで野外用のテントが展開されていて、帝国の軍隊が数百人ぐらい集まっている様だ。
「どう見ても、村人よりも、軍人の方が多いな」
アムールさんが言うまでも無く一目瞭然だ。
小さな村に、こんなに人が居ると野生動物は警戒して村の近くにこないだろうし、作物を作る場所は軍隊の野営地になっている。
「ところで、これだけ軍隊が居たら、村人の食料はどうなっているのかな」
私が呟いたところ、他の人も同じ事に気がついた様だ。
クレアモン村にたどり着いたら食糧事情が改善されると期待していたが、どうやら難しい様だ。
「やべぇ。
また飯が改善されないのか」
案の定、村の食事は軍隊の飯だった。
帝都に戻るまで食糧事情は改善しないのだろうか。
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