鉱山都市ヴィルバンド(1)
-夕方 クレアモン村-
「フィルたちは大所帯だなぁ」
クレアモン村にいたフレッドにからかわれた。
フレッドのところは、カティーさん、シャーリーさんと獣人娘の4人パーティーだから、それに比べると倍以上いるからね。その後、馬鹿話をしながら情報交換をする。
そんなとき、東の街道側から騒ぎ声が聞こえる。駆けつけるとここから東の鉱山都市ヴィルバントに向かう隊商とその護衛をしているジェジェたちのパーティーのようだ。
街道でゴブリンに遭遇し追い払ったが、前衛職が怪我をしているらしくクリスとカティーさんが治療している。街道にゴブリンが出るのは初めてらしい。
「数日前に、こちらの方々にゴブリンを退治してもらったばかりなのに、まだゴブリンが湧くのですか」
クレアモン村長は涙目になっている。
これだけゴブリンが湧き続ければ、そうなるだろう。
「安全に荷物を運ぶために護衛を雇っているのに、ゴブリン相手に苦戦するようでは困る。
君たちのどちらかのパーティーが代わりに護衛をしてほしい」
隊商のリーダーの発言はもっともである。
フレッドは、ゴブリンクイーンの調査が正規の依頼のため、そちらを優先したいと主張する。こちらは、あくまでも救出任務の保険で付いていたので、フレッドたちよりも優先度が低いのと、同じ任務なのに、フレッドたちよりも報酬が少ない。そこで、隊商護衛依頼を代役で受けることにする。
その際に、こんな感じにパーティーを分ける。
隊商の護衛・・・クリス、フィル、アムール、ドン、アレックス
ゴブリンクイーンの捜索・・・ジェジェ、ココ、スタン、グエン、パティー、アニア
ジェジェと一緒にパーティーを組んでいた前衛職は、武器スキルが1しかないので、これは訓練場で鍛えないと今後も厳しいので、傷が治り次第、訓練所で修行をしてもらうことにした。冒険者ギルドへの報告は、村長さんと隊商のリーダーが文書をしたためてくれたので、帝都行きの荷馬車に託すことにした。
-1/22 クレアモン村出発-
スタンやココたちと別れて、東の鉱山都市ヴィルバントに向かう隊商の護衛につく。ヴィルバントはクレアモン村から東に7日向かったところにある。帝都からだと10日の距離で貴金属が取れる鉱山が主産業だそうだ。帝都からは魚や肉の干物や穀類など食料品を運びヴィルバントからは、貴金属の合金が運ばれるそうだ。この合金を帝都の精霊術士が金や銀などに分離させるようだ。
「ここの護衛は、行きはゴブリンなどの魔物や肉食動物が食料の匂いにつられて、襲撃してくるんだ。帰りは盗賊しか襲撃してこない」
アムールさんは護衛の仕事はよく知っている。まぁ、魔物や肉食動物が貴金属は食べないか。人間以外に貴金属を必要とするのは、光り物が好きな魔物ぐらいだろうか。
「貴金属を収集しているような魔物はいないのですかね」
「貴金属を運ぶ馬車だけ襲える器用な魔物はいないよ。それこそ街の宝石店か貴金属の精錬所でも襲った方が効率的じゃないか」
アムールさんの言うことがもっともだ。貴金属のソナーでもあるなら別だけれど、そんな物がついているモンスターはいないか。
「フィルは、元の世界でラノベが愛読書だったのか。
俺は、料理か釣りの動画しか見ていなかったけどな」
アレックスさんにも笑われてしまった。そのまま重金属を食べるスライムみたいなモンスターの話になったが、魔術ギルドのドンさんによると、今まで、そういう生物は聞いたことがないそうだ。それこそ、存在していたら、養殖して精錬ができるのに、と残念がっていた。
-1/23 ヴィルバントに向かう街道-
クレアモン村を出発して、街道から2、3メートル離れると木々が生い茂る森の中の街道を進んでいく。翌日のお昼過ぎに隊商の後ろの方で騒ぎが起きたようだ。
なぜ、『騒ぎが起きたようだ』なのかといえば、この隊商は12台の馬車が一列に移動しているから後ろの方は視認できない。食料品の輸送のため、馬車1台あたりの利益が少なく、かなり大きな規模で移動しているのだ。おかげで、前の方に乗っている私たちは、馬車から降りて、騒ぎしている後ろ側に向かう。
事前に、アムールさんから、匂いにつられて近づく魔物や動物の場合は前から襲撃してきて、少し知能がある魔物は最後尾を襲撃すると説明されていたので、多分、知性のある魔物のだろう。そうなると、ゴブリンの可能性が高い。
「いつものゴブリンセットだよ。
フィルとアムールがホブゴブリンを倒すので、残りは任せるよ」
アムールさんの指示でゴブリンたちの襲撃に対応する。実際に襲われているのは最後尾の馬車だけれど、その2つ前の馬車の御者が逃げ出しているので、後方の馬車2台が止まっている状態である。御者のいない馬車は、そのまま道なりに走っていって、前の馬車を追い抜こうとして、脱輪してしまったようだ。
襲撃しているのは、アムールさんの指示通りゴブリンセットであるホブゴブリン2体とゴブリンシャーマンとゴブリンが、馬車の影にいる個体もあるので正確にはわからないが10体以下だと思う。
今対峙しているホブゴブリンは、この前のクレアモン村のホブゴブリンたちと異なり実戦経験がある。しかし、武装が貧弱で、次の行動がある程度予測できるので終始押し気味に戦いを進めることができる。途中、ゴブリンが加勢に来るが、こいつを軽くいなしてホブゴブリンにとどめを刺す。
戦況を確認すると、アムールさんもホブゴブリンをすでに倒していて、ほかのゴブリンを牽制している。
クリスは、倒れているドンさんの近くでゴブリン3体と戦っており、すでに1体を倒している。アレックスさんは、2体と戦っているが、少し押されているようだ。
その時、あるゴブリンが奇声を上げて、それを合図にゴブリンたちが逃げ出していく。あれは、撤退の合図だったのだろうか。
素早く森の中に逃げていくゴブリンに、量子核魔法を使うが、動いていて、目標がずれたので近くの草木が爆発した。その衝撃で奇声を上げたゴブリンがよろめく。そこで、二発目を発動させてゴブリンを爆発させる。それに驚いて、動きが止まったゴブリンも爆発させる。残りのゴブリンは、悲鳴をあげて三々五々に森の中に逃げていった。
問題は、最初の量子核魔法は制御がうまく行かず3メートルほど爆発してそのあたりの低木をなぎ倒してしまい、その衝撃に驚いて馬が暴れ、御者が一生懸命宥めている。
クリスが一瞬こちらを睨んで、他のけが人や馬の治療に向かっていった。やはり使うところを考えないとだめなようだ。
-襲撃の後始末-
「あの魔法は、どうやって使ったのですか」
隊商が襲撃の後始末に追われている頃にドンさんから尋ねられた。周りを見渡しても、誰もいない。いや、いない状態を見計らって彼は話しかけてきたのだろう。そもそも、私が量子核魔法を使ったときには、気絶していたはずだ。
「魔法ですか?
私は、PIE0ですから、そんな特性はないですよ」
そう答えて、はぐらかす。
「私が倒れていた間に、暗い空間に白抜きのくせ毛で、目を見開いて舌を出している男が現れて、リョーシカク魔法と言ってました。
その後、フィルさんが魔法を3発使うシーンが現れました。
一発目が木を吹き飛ばして、あと2発がきちんとゴブリンを倒していました」
はぁ?
意識が無い状態で、なんでそんな具体的な描写ができるわけだ。
どう見ても、アインシュタインが現れて、何かしたに違いない。
しかも、黒い方となると厄介だ。
「ドンさん。
傷の方はどうですか?」
ちょうどいいタイミングでクリスが話しかけてきた。
今度は、彼が当たり障りのない対応で、話をごまかしている。
その間にアムールさんとアレックスさんの方に近づき話をする。
そう誤魔化している間に、出発となる。
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