ゴブリンクイーン(2)
―1/14 東に向かう街道-
リバーサイドから東に延びる主要街道を進んでいくと、帝都に向かう人や馬車を12月初めに通った時より多く見かける。ちょうど、今日戻れば、16日から仕事をすることができるのだろう。元の世界の帰省ラッシュみたいなものだろうか。
街道は道幅が広く、お互い右側通行のためルールに従えば安全に通行できる。
『そこで止まって!!あたいは降りるから』
馬車から飛び降り、そこから、みんなの流れと逆走してこちら側に向かいだす女性がいる。そんな大迷惑行為を犯している女性に文句を言う人もいるが、ハーフエルフと分かると『エルフなら仕方がない』と言う声が上がる。
「なんでエルフなら仕方ないの?」
エルフも聖女と同じで何か特別枠でもあるのだろうか。
今まで疑問に思っていたので聞いてみた。
「エルフやハーフエルフは長生きしているのに、脳みそは人族と変わらないから、憶えられる総量より覚えなければいけないことの方がはるかに多いの。
親兄弟とか部族の事とか絶対に覚えなければいけないことがあるから、それ以外の事は憶えられないの。
特に、法律の様に時代によって変わるものは、憶えるのが無理みたいなの。
だから、エルフやハーフエルフがルールを理解できないし、言っても無駄だからあきらめているの」
ココが教えてくれたが、凄い理由だ。
たしか、人間は、脳みその3割しか使っていないとか聞いたことがあるけれど、それよりもはるかに長く生きるエルフの場合には、仮に脳みそがフルに使えたとしても覚えきれないわけか。そもそも、人間もすぐ忘れるから、エルフの事を笑うわけにはいかないね。
「もう、あたいを置いていくなんて酷いよ」
パティーさんが、他人の通行をお構いなしに道を横切ってやってきた。
ハーフエルフだから、交通ルールを理解するという考えは存在しないのだろう。
パティーさんにゴブリンクイーンの話をすると、『また出たんだ』と一言。
私たち人間と明らかに異なる時間軸を持っているので、またが何年前か、突っ込む事は野暮みたいだ。実際に、エルフやハーフエルフとカップルになった場合、子供が生まれても、相方が歳をとって外見が変化することが理解できなくて別れるらしい。
ああ、私も、エルフだから仕方がないと思うようになってきたのだろうか。
-夕方 宿場町-
帝都リバーサイドから東に2日進んだ宿場町だ。皆が『E2(東2日目)』と呼んでいるようで、それが名称になっている。地名は文化と言う考えはこの世界にはないらしい。リバーサイドを起点にしていて、旅をする者にとってはわかりやすい。京都の地名の様に、基礎知識が必要なものは地元民にはわかりやすくても、一見さんには厳しいよね。
クリスに聞いたところ、世間では帝国語を周囲に普及させる際に簡便にしたと言われているが、実際は、当時の宗教の権威をつぶすための施策だったらしい。そう言えば、英語の月や曜日も、神話や過去の偉大な人物などに由来していた気がするし、宗教を排除した帝国らしい。
逆に、それらを廃止してしまったので、異世界人の風習が簡単に根付く原因になっているらしい。
えっと、クリスマスって、元の世界は、確かみんなでご飯を食べる日で、それ以外の意味は、なかった気がする。チョコの日はお菓子メーカーの販売戦略でハロウィンはカボチャのお祭りだったからね。
同じ異世界人のココに聞いても、同じ答えだったから、間違いが無い。
(二人とも、異世界転移後の治療で元の世界の宗教知識は消されています)
さて、今日の泊まる宿は、スタンと決めていた宿にする。宿の受付にパティーさんと合流したことも含めて手紙を託すことにした。
宿は木賃なので、みんなで食事に出かける。
食事中に、街道を東に進んだシャテルロー領で何かあって通行が制限されているという話を聞いた。パティーさんに聞いたところ、通行を制限されている町があったけれど、ハーフエルフだから通してくれたそうだ。そこで、何があったか聞いたが、『エルフ腦が憶えるわけない』と断言された。さすがエルフ腦だね。
「シャテルロー領だったらグエンさんは巻き込まれていますの」
そう明言したのはココだった。
なんでも、帝国マップに、たいていの貴族領と主要街道を覚えているそうだ。
東の主要街道は港湾都市コルマールに向かうルートとシャテルロー領を経由してカンペール王国や遊牧民の居る地域に行くルートの二手に分かれているらしい。物流は、港湾都市コルマールに向かう方が多く、それほど影響はしないそうだ。
ところで、シャテルローって、どっかで聞いたことがあるような名前だな。
「12月のゴブリン退治でクリスが叩きのめした屑の家ですの」
そう言えば、そんな貴族が居たね。
私たちが向かうルートとは異なるため、それ以上詮索しなかった。
クレアモン村に向かうルートについて情報収集をしてみたところ、半年ぐらい前から、ゴブリンの目撃情報が多発しているらしい。
『退治しても、直ぐに沸いてくるらしいよ。
ルートの川沿いの森側から沸いてくるらしい。
そう言えば、年明けにゴブリン退治に向かった冒険者の1人が食通だったね』
食堂の給仕係から、情報を聞き出した。
その冒険者は、作り方が悪いと文句を言って自ら食堂に入って作ったらしい。
ただ、文句を言うだけあって、出来が良く、冒険者よりも料理人に向いているらしい。
ただ、帰りは見かけていないみたいで、別の店に寄ったか、帰ってきていないかまではわからないようだ。
-夜 -
宿は、利用者が多く、男女別に分けた大部屋での対応のため、私はクリス達とは別室になる。
しかも、同室にかなり大きいいびきをする人がいるのでなかなか寝付けず、宿の外に出る。月明かりを頼りに周囲を散策する。
水桶があったので、量子核魔法を使ってみると、上から石を落としたように水が弾け飛ぶ。2、3mほど飛び散ったので、もう少しで濡れるところだった。冬に水遊びをするわけにいかないので、おとなしく宿に戻る。
宿に戻った頃に、雨が降り出した。もう少し戻るのが遅ければ濡れていただろう。
大部屋のいびきの主は、いびきが数十秒止まることが頻発しているので、睡眠時無呼吸症候群と思うが、この世界の聖女は治すことができるのだろうか。
そんなことを考えていたら。普通は眠れなくなるが、歩き疲れていることもあって、やがて眠っていたようだ。
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