クリスの父親
12/29夜 デュポア未亡人宅-
憲兵訓練所で、朝から日が暮れるまで訓練したため、かなり疲れていた。実は、聖女の治療で、回復するのは肉体的な疲労などだけで、精神的な疲労は回復しないし、睡眠不足なども治療の対象外だ。
明日は、クリスパパに挨拶に行き、そのまま1/15までご厄介になるので、デュポア未亡人宅に居候するのは、今日が最後になる。数日であったが、急遽宿泊させていただいたお礼もかねて、クリスと二人で料理をする。
そう書くと格好良いのだが、実際には、何処に何があるかわからず、結局は、デュポア未亡人が作ることになった。おかげで、ご飯の時間が一時間ほど遅れてしまって、逆に迷惑をかけてしまった。申し訳ないので、デュポア未亡人には、年明けにディナーを招待する約束をした。
わずかな期間だが、お借りしたので、綺麗に掃除するはずが、掃除道具を探しているうちに、結局、デュポア未亡人のお世話になるおまけまでついた。
「若い人が、年寄りを思いやると言う気持ちだけでもありがたいのよ」
本当にご迷惑ばかりかけてすみませんでした。
あと、この台詞に、もう一つの意味が事を知るには、もう少し先になるのだった。
-12/30 デュポア未亡人宅-
数日間お世話になったデュポア未亡人宅をあとにする。
別れる時に、『そのうち学生が帰ってくるので、また賑やかになります』と言っていたが、実際に帰ってくる学生はいないはずである。それが分かっているので、少し寂しく感じた。
そのままクリスの父親の家に向かうが、その道中でクリスが意外なことを言った。
「あの部屋は、亡くなった娘さんの部屋です」
一瞬足が止まった。
デュポア未亡人の娘さんは、聖女だったそうだ。そして、聖女の修行中に亡くなったとのこと。修行中に亡くなるは5人に1人よりも多く、その殆どが、冒険中の死亡らしい。冒険者ギルドがいい加減なのが主な原因だろう。そのような事情があるにもかかわらず、受け入れてくれたデュポア未亡人に感謝したい。
-ジェイムズ・ド・スタール邸
クリスと一緒に、クリスの父親の家に向かう。大通りから曲がった先の大きな庭付きの住宅が並ぶ高級住宅街だ。クリスがお嬢様と言うことは、ある程度予想していたが、ここまでとは思わなかった。たしか両親ともに冒険者だったはず。かなり腕が立つけれど、何か財宝でも見つけたのだろうか。
「私の家は、ここですよ」
紹介された家は、塀に囲まれていて、他の住宅よりも警備が厳重で門の前には衛兵が2人もいる。周辺の家には、門番は居ないし、家主の強さから考えると、門番が必要なのだろうか。
昨日と同じ仮面を着けたクリスが、門番に封書を渡したところ、門番が封蝋の家紋を確認して、1人が中に封書を持って入っていく。数分後に、門番が初老の執事の様な男性を連れて戻ってくる。
「クリスティーナお嬢様。
陛下がお待ちです。
中にご案内いたします」
ん?
陛下?
えっと、元冒険者だよね。
「フィル。
さぁ、中に行きますよ」
クリスに急かされたので、頭の中が疑問符のまま、クリスの後をついていく。
昨日、憲兵訓練場で会った仮面をかぶった男の人だよね。
因縁をかけた兵隊さんたちは不敬罪に問われるのだろうか。
自分のことがどうなるかわからないのに、他人の事を気にする。いや、単なる現実逃避だ。
たぶん、近衛兵の隊長かなにかで、皇帝陛下が交際の同意の席に同席してくれるだけだろう。
どんどん現実逃避をしていく私は、屋敷の中庭に案内される。
中庭に入ると、昨日手合わせをした仮面の男性が稽古をしていた。
「陛下。
フィルとの交際を認めていただきたく参上しました」
ああ、やはり皇帝の一人娘らしい。
その前に、きちんと挨拶しないといけないので、クリスに教えてもらった通り挨拶をする。
「は、初めま、えっと、昨日ぶりです。
フィリップです。
クリスティーナお嬢様との交際を認めてください」
いきなり、最初から躓いた。
昨日会っているから初めましてではない。
「ワハハ。
確かに初めましてではないな。
朕は、いや、堅苦しいのは面倒だ。
我が名はジェイムズ・ド・スタール。一応、アルゲティー帝国の皇帝だ。
そして、クリスティーナ・ド・ロンシャンの父親だ。
本来は、ここで武術の腕前でもテストする予定だったが、どうするかな」
やはり皇帝陛下でした。
もっとも、厳格な印象が無く、親しみやすい感じだ。
ところで、陛下とクリスで苗字が違うね。
「親子で姓が違うのは、私が母親の姓を引き継いでいるからです」
クリスが補足をしてくれた。聖女は、通常ランダムで出生するが、聖女が母親の場合、受胎時に望めば聖女が生まれるらしい。その代わりに、その後は、子供が生まれ無くなるそうだ。
「うーん。
クリスを幸せにしてくれるなら、それでよいのだが、テスト無しは、慣例に反するのか。
よし、手合わせをするか」
結局、稽古をすることになりました。
昨日掴んだ感覚が活かせているのか、手合わせの最初のころに比べると、少しは様になっている。
そして、ここでもクリスも稽古に挑む。
クリスさん、あなたにテストはないと思いますよ。
見ていると、クリスの表情が明るい。意外にバトルジャンキーなのだろうか。
-ジェイムズ・ド・スタール邸
1時間ぐらい稽古をした後、昼食になる。
クリスは、5歳で母を亡くし、10歳で聖女と鑑定されて聖女養成所に引き取られ、その間は皇帝が多忙のため、年2回に数日程度しか会うことができなかったそうだ。家族としてのつながりが薄いのだろう。もしかして、クリスが稽古を希望したのは、いや憶測で決めつけるのはよそう。
「来年は退位して、自由な時間が持ちたいものだ」
「その言葉は昨年もお聞きしました。
確か2、3年前から同じことをおっしゃっていますが」
話を聞くと、どうやら退位させてくれないらしい。
2-30代の若手を重要ポジションに大抜擢して、高齢の保守層から反発を受けているらしい。ところが、ジェームズ帝が退位しても、次の皇帝候補筆頭が、それ以上の若返り推進派とみなされていて、ジェームズ帝を退位させず若返り阻止を画策されているらしい。
確かに、自分が抜擢して任命した人を別の若手に替えることはできないか。元の世界と同じで、政治は難しそうだ。
その後、冒険者ギルドの話になった。近年、修行中の聖女の死亡者が増えていて、問題になっていたそうだ。
「いつの間に、こんな問題のある組織になってしまったのだろうか。
皇帝を辞めたら、ここの立て直しに尽力したいな」
元冒険者だけあって、ギルドの問題は気になっているようだが、立場上、直接手を出せない様だ。そんな話をしている頃に、玄関で対応した老執事が、数名の冒険者を連れて入室した。
「陛下。
護衛の冒険者が揃いました。
本当に、近衛兵全員を休暇にしてよろしいのでしょうか」
ジェームズ帝は、老執事も含め、全員が10日まで休暇をとるように命じた。その後、それでも勤務を申し出る近衛兵に、『それなら配置換えするよ』と笑いながら命じるジェームズ帝。
この世界にもワーカーホリックな人がいるのですね。
護衛の冒険者には、アムールさんたちレーヌの面々がいた。もう一人は明日から来るそうだ。
ジェイムズ帝は、護衛の冒険者から冒険者ギルドの内情を聞きたいらしく、私とクリスは部屋での休憩することになった。
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