バトルジャンキー祭
-12/29 デュポア未亡人宅-
クリスも動けるようになり、顔の火傷も目立たなくなってきた。表情にも明るさが出てきて、もう少し回復すれば、元のクリスに戻ると思う。
「年末年始は、何処も休みですね。
どこの家庭でも、25日前後に年越しの食材をまとめて購入して調理していますね」
お正月のおせちの様な物だろうか。クリスに日本のお正月の話をしたら、昔の転生者がこちらの世界で広めたそうだ。この世界には、食品を長い時間保存できる魔法の金庫が無いため、この時期は干物や塩辛い物が多くなるらしい。
また、年末はお正月の料理が出ないので、倹しい食事になるそうだ。
-憲兵訓練所-
今日も、顔を出したのだが、ガブリエル卿は居ない。
スタンの話によると、きな臭い話があり、練兵場に戻って居るらしい。憲兵ではなく明らかに兵士と言う人たちが数名いるが、殺気立っているので、スタンと二人で訓練をする。
今日は、聖女さんが居ないので、回復ができないと思っていたら、仮面をつけた聖女さんと言うか、クリスがやってきた。マスクの様な仮面を着けているが、目元は覆われていない。
変装と言うよりも、火傷の跡が見えない様にしている。おかげで、怪我や疲労の回復もできるので、訓練がはかどる。クリスとスタンと三人で、激しく和気あいあいと訓練をしているので、あちらの殺気立っているグループとの差が際立つ。あちらは、隣国のピカ名何タラと言う国との戦争を求めているみたいだ。
-仮面の戦士-
私たちが来た時からいる、殺気立っている集団は、出入りがあり5-10名の間を行き来している。幕末の尊王攘夷の志士たちがこんな感じだったのだろうか。
さらに、夕方に40代くらいの仮面の男が訓練所に来た。クリスとスタンは、見覚えがあるらしく、『あっ』と一瞬反応して、視線を合わせないようにした。仮面の男は、一度、こちらの方を見た気がするが、そのまま一人で準備運動をしている。殺気立った集団とは一線を画していて、誰かを待っているような感じだ。
殺気立った集団から2名、仮面の男に近づいてくる。彼が気に入らないのだろう。
「おいおっさん。
年末で暇なんだろうが、ここは老人のたまり場じゃねぇよ」
「俺たちがちょっと揉んでやろうか」
2人組は口汚い言葉を吐きながら仮面の男に絡んでくる。
「大丈夫です。
あの程度の者共に遅れはとりません」
スタンは『大変なことになりますよ』と私に聞こえる程度の声で呟いた後、クリスと一緒に成り行きを注視している。私も、仮面の男が心配で眺めているが、仮面の男は2人組の存在を無視して、型の動きを行っている。
「人が優しくしていれば舐めやがって」
2人組が仮面の男に襲い掛かったが一瞬で返り討ちにあった。1人を打ち据えるところは確認したが、もう一人をどのように倒したのかわからなかった。
「フラム(炎)の腰抜けの前に貴様から血祭りにあげてやる」
残りの男達が襲い掛かろうとするが、クリスとスタンが先に仮面の男の元に駆け寄る。私も出遅れたが、仮面の男の元に駆け寄る。格好悪いが仕方がない。ちなみに、フラムは隣国が火の神を信仰しているので、その隠語だそうだ。
こちらが4人に対して、向こう側は6人。人数は不利だが、仮面の男の腕が立つので互角だと思われる。
お互いににらみ合いを10分ぐらい続けただろうか。相手から威勢の良いヤジが飛んでくるが、誰一人こちらに向かってこない。最初に打ちのめされた2人組が復帰し、人数差が倍になる。さらに、10分ほど経つと、最初に増援を呼びに行った一人が数名の仲間を連れてやってくる。
そのうちの1人は2メートル近い大女で、見覚えがある。
「アムールの姉御。
こんな奴ら早くやっちまってください」
君たち、隣国と戦争とか景気の良いことを言っていたじゃないのか。それ以前に、兵士なのに、いざ戦うとなるとしり込みをしているのはなぜなのだ?
「おう。クリスとフィルじゃねえか。それに旦那でしたか」
どうも、アムールさんは仮面の男と知り合いだそうだ。そのまま、二人で談笑している。こちらも相手側も、事態が呑み込めず、ポカーンとしている。
それから数分して、ガブリエル卿がやってきた。
「師匠。久しぶりに稽古をお願いします。
おや、アムール。今年も来ましたね」
ガブリエル卿、後からやってきて、何も知らないのはわかるが、20分前を知ったら驚くよ。威勢の良かった男たちは、某立ちしているが、何人かの槍が震えている。兵隊さんが、将軍の師匠に因縁をつけて喧嘩を売ったのだから大変だよね。仮面の男がにやりと笑う。
「ガブリエルか。
軍部には、休みの日にも訓練を希望する熱心な者がいる様だな。
どれ、この者たちにも稽古をつけてやろう」
ガブリエル卿は、何かを察したらしい。
「師匠。
こいつらは訓練すらサボる奴ですので、師匠の手を煩わせることはありません。
せっかく訓練場に来たようですから、私が直接鍛えます」
ヘイタイサン、カワイソウニ。
うん。私たちは、関係ないよね。
「フィルだったかな。
君がガブの替わりに、手合わせをしてくれるかな」
え?
やはり、こちらに来るのね。
ガブリエル卿の師匠でクリスやスタンと知り合いで、しかも私を知っている。ある事を予想してクリスを見ると、仮面越しからわかるように笑みを浮かべて手を振っている。スタンが、『頑張れ』と私の肩を叩いてくる。ドッキリ並に酷いぞ。
実際に立ち会ってみると、隙が一切なく、動きも無駄が無い。何度挑んでも、直ぐに切り返され、叩きのめされる。普通なら怪我と言う逃げ道があるが、親切なクリスが回復をするので、また叩きのめされる。10分ほどして、仮面の男、と言うよりクリスパパが歳のためか少し疲れてきた。ここでもクリスが治療で回復させるので、また一方的な稽古が続く。
どれぐらい叩きのめされただろうか。
そのうち、なんとなくだが、クリスパパの動きが読めるようになってきた。読めて対応できても、次の攻撃で沈むだけだけれど、少しはマシだ。
「ほう。
何か掴んだようだな。
そろそろ稽古を終わりにするか」
ふぅ。何とか解放された。
その安堵感を掻き消す発言がする。
「お父様。
フィルだけでなく私にも稽古をつけてください」
おーーーい
私と同じようにクリスに回復してもらっていた兵隊さんからも、『嬢ちゃん、止めとけ』と言う心配する声が聞こえてくるぞ。
そして、パパは、娘にも手抜きをしない様だ。クリスが怪我をするたびに治療の補助に入る。ふと、兵隊さんたちの方を見るとスタンとココが稽古をつけていて、回復はアムールさんのパーティーメンバーのパシオンさんが行っている。こちらと比べると当然だが、和やかだが、彼らにはきついようだ。
日本の大掃除で男たちが家から追い出されるのと同じで、たまたまここにたむろして少し威勢の良いことをしていただけみたいだ。可哀想に。
クリス親子の隣では、ガブリエル卿がアムールと稽古を行っている。両方の稽古を見ていると、次にどう動くか予測できる時がだんだん増えてくる。目が肥えてきたのだろうか。ガブリエル卿がクリスパパと稽古をするようになったので、アムールさんとクリスと一緒に稽古を行う。
まだ、アムールさんには敵わないが、半月前に戦った時よりは、善戦していると思う。
「坊主。腕を上げたな。
愛している女の前だと、力が出るか」
その直後、見事な一撃をくらった。アムールさんに、心理戦も大事だと念押しされる。
オリヴィエやフレッドにカティーさん達も参戦してきて、憲兵訓練場が蜜になった頃に兵隊さんたちは開放される。本当にお疲れさまでした。
その後、日が暮れるまで、稽古をした。
今日は帝都にあるバトルジャンキーのお祭りなのだろう。
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