休養日(1)
更新が遅くなりまして申し訳ございません
-12/11 リバーサイド 宿屋-
ゴブリン退治の報酬で冒険者ギルドと揉めているので、次の仕事ができないため休養日になった。せっかくの休みだから、のんびりとしよう。
そう言えば、クリスと一緒になって二人で過ごす日は、初めてかな。
まずは、朝から胸の治療。あと、もう少しなのだよね。
治療後に、クリスが真面目な表情で話しかけてきた。
「フィル。
元の世界で、男女の関係がどんな関係だったのか存じませんが、帝国では、男性が妻以外の女性の肌を触るのは禁じられています。例外は、娼婦と守護者が聖女の治療をする時だけです」
見つかれば罪になるし、見つからなくてもカルマが下がるそうだ。娼婦や守護者が規制されていないのは、現実に即しているのね。
「あれ?
この前、クレアモン村での発言は、アウトだったの」
血の気が引いている私に対してクリスは、にっこりと微笑む。
「バレたら、アウトなだけです。
良くあるのは、バレた後で求婚すると言う殿方が多いですね」
あ、この前のセリフが恋愛系のゲームのエンディングが確定した瞬間かな。
ん?
背中に冷たいものが流れていく感覚がする。
「クレアモン村で、触らせてもらった気がするけどアウトだよね。
目撃者もいるし、クリスに求婚しないとだめかな」
背中を流れる汗は、止まる気配が無い。
恐る恐る聞いてみる。
「フィル。
あのまま、フィルが触ったらアウトでした。
異世界から来たのに、こちらの常識を教えていませんでしたので、とっさに、私が触らせたのです」
女性が触らせた場合や偶然ぶつかった場合などは、大丈夫らしい。そうしないと、結婚を迫るために、故意に行う女性が頻発するもね。ただ、女性が男性に触らせる場合は、求愛の行為らしい。
そりゃ、ココやジェジェが騒ぐわけだ。
私のために、泥をかぶってくれたわけだし、これ以上、クリスの好意に甘えていてはだめだな。クリスに気持ちを伝えよう。
「クリス。
好きだよ。一緒に居たい」
「え?
これまでも一緒でしたし、守護者ですから、これからも一緒にいてくれますよね」
えーー、気持ちが通じていない。
もしかして、単なる守護者としてしか扱われていないのだろうか。
困惑をしている私にクリスが、この世界の男女関係を教えてくれた。
20歳未満は未成年として、交際にも親や保護者の許可が必要だそうだ。
昔の異世界人が20歳未満を未成年と定義して、帝国法で保護が義務化されているそうだ。しかし、交際ですら許可が必要とか、どれだけ厳しいのだろうか。15歳で結婚が可能になるが、今度は配偶者が保護をする義務を負う。
余談だが、能力やスキルが鑑定できるため、20歳未満を適正な職に就かせるか、教育を受けさせないと、親や配偶者が死刑やそれに類する罰を受ける。
「くしゅん」
そう言えば、冬だった。
朝起きて、治療して話し込んでいたら体が冷えるね。クリスに私の上着を着せる。
「あれ?
寒い時は、元の世界でどうしてたんだっけ。
確かこんな感じ」
元の世界だと、何かスイッチ一つで快適だった気がするけれど思い出せない。なんで元の世界の事を思い出せないことが多いのだろうか。
手だけは、手に収まるものを押す仕草を覚えているみたいで、それを繰り返す。
「快適な異世界が羨ましいですね。
こちらの世界に転移すると、そのギャップで精神を病む方が多数出ていますので、記憶から消す治療が行われているのです」
異世界転移や異世界転生の物語だと、世界を移動しても、環境に適応している。しかし、現実には、世界間ギャップでついていけない方が多い。この世界では、世界間ギャップを防ぐために、元の世界の記憶を消す治療を行うみたいと言うよりも、私も治療されている。そりゃ、元の世界のことが思い出せないことも多いわけだ。
私が災害で発見されたときに、一切傷が無かったので異世界転移直後と判断されたそうだ。そこで、聖女協会の人たちが治療をしたそうだ。クリスも参加していて初めての治療だったそうだ。そりゃ、冒険者ギルドで再会したときに覚えているわけだ。
「この治療は、元の世界の知識がフラッシュバックすることがありますので、アフターフォローが必要なのです」
私のアフターフォローのために、監視していたのが、パティーさんとジェニーさんだったようだ。私のためらしいけれど、治療される側の意思は考慮されていないのね。この世界の人の善意って、やりすぎるところもあるのね。ちなみに、フラッシュバックやアフターフォローと言う言葉は異世界から来た人が伝えた者らしい。
「まさかだけど、クリスが私と一緒にいるのは、フラッシュバックの監視のためだけってことはないよね」
記憶が消されていたという衝撃もあって、言ってはいけない言葉を漏らしてしまった。
こんなこと言ったらあかんやろ。取り消したい。
「ごめんなさい。
最初は、私たちが治療をしてあげているという気持ちがほとんどで、フィルさんを見下していたと思います。
でも、一緒に冒険するうちに、別の感情が・・・・」
途中から声が小さくなって、頬を赤らめている。
せっかく、秘密を打ち明けてくれたのだから、最後までしゃべらせるのは酷だろう。クリスを抱きしめると、感情が高ぶっているのか震えている。真面目過ぎて、これまでずっと秘密として抱えていたのだろう。頭を優しく撫でて徐々に落ち着かせて「もう大丈夫。ずっとクリスと一緒にいるから」と言葉をかけてギュッと抱き締める。
「ありがとう。
もう大丈夫だから」
10分ぐらいたって気持ちが落ち着いたみたいだ。
この世界だと交際に親の許可がいるし、その承諾前にこういうことを続けるのは良くないかな。
ハグをゆっくり解くきながら、クリスの顔を見て
「正式にクリスと交際をしたいので、親御さんの許可を貰いたいので、紹介してもらっても良いですか」
少し堅苦しいけれど、この世界だとプロポーズになるかもしれない。
クリスはにっこりと微笑んで、快諾してくれた。
クリスの家庭は、一人っ子で10年前に聖女だった母親が亡くなっていて、父親だけだそうだ。いきなりハードルが上がった気がする。しかも、かなり忙しい人で、ここ数年間、会うのは年末か夏に数日だけらしい。
幸い、新年まであと20日程度だから、その時に紹介してくれる。
若いころに夫婦で冒険者をしていて、かなり腕が立つらしい。練兵所で槍術を教えていただいたガブリエル将軍に武術を教えて、10年前までは将軍と手合わせをしても勝っていたそうだ。将軍は10年前に、すでに戦場で手柄を上げているから、もしかしなくても、クリスの父親は相当強いはず。
「私、挨拶の後に、殺されることはないよね。
その時は、この世界に未練が残らないように浄化してください」
と冗談を言ったら、『たぶん、大丈夫』と言われた。
たぶん、なんだ。たぶん。そのうち、『20日後に死ぬフィル』と言う絵本でもできるかも。
お読みいただきありがとうございます
誤字脱字等ありましたら教えてください
ブックマーク評価ありがとうございます




