3幕 類は友を呼ぶって本当なんだなって。
え、いや待ってくれ。
確かに男にしては感性が少し女の子っぽいところもあったけど、じょ、女子……!?
正直、一瞬は夢だと思った。
でも頬に走る痛みは夢じゃありえないくらいに現実だし、林檎みたいに顔を赤らめた洞木に何とも言えない罪悪感が胸で膨らむ。紛れもなく現実だった。
「う……ごめん。つい手が出た……」
「う、うん……」
太平洋に隕石が降ってきたかのような、重い沈黙。その隙間に色々な思考が巡る。
何で洞木は男っぽい服装を貫いているのだろう。今までの付き合いから色々考えて、その全てが脳内で否定される。分からない。
そう言えば、俺は洞木が誰かと一緒にいる所を見たことが無い。偶然俺が見ていないだけかと思ってたけども今となってはそれも間違いなのかもしれない。その理由は女装をしている俺自身、心当たりがある。
性別を偽るというのは意外に労力を使う。普段の何の取り留めも無く行う仕草、癖、習慣は意識していないだけで多大に性別の影響下にある。斯く言う俺も女装をしているときは頭皮を掻いたりしないし、脇をボリボリなんてこともしない。無意識すら制御下に置いていなければ周囲から違和感を持たれてしまうのだ。
だからぶっちゃけ人間関係にまで気を配る余裕なんて基本は存在しない。俺だって同級生に話しかけられたことはあるが、一線も二線も引いて会話するからすぐに疎遠になっている。それは洞木だって同じハズ。
……でも洞木、そんなバレるリスクまで背負って何でか俺とは交友関係持ってたんだよなぁ。
「に、二千翔……シャワーと着替え、貸してもらえるかな」
洞木の弱い声に意識が現実に戻される。見れば洞木は胸元に右腕を当てながら、視線を床に落としていた。
そうだった。今の洞木はお茶でびしょびしょだ。
「本当にごめん! 勿論、使って構わないから! 着替えは……その、俺の服で良ければ」
「ありがとう……借りるよ」
そう言うと洞木は立ち上がって、洗面台へと向かう。一先ずは……片付けをしないとか。
コップをキッチンシンクに叩き込むと卓袱台にかかった雫を布巾で拭き取る。零れた液体の大部分は洞木の服に吸い込まれてしまったようで卓袱台や床は殆ど濡れていなかった。
床を見ていると不意に視線がさっき躓いた場所へ流れる。俺の部屋はなんだかんだ言って綺麗なのに何に躓いたんだ……?
見てみると、そこにあったのはトートバックだった。洞木の持ちものだ。
「なんでそんな所に置いてるんだよ……」
つい愚痴が漏れ出すのも仕方がない。自分の座ってる場所の近くとかに置いてくれ……。意外にズボラなのだろうか。
布巾を絞っていると廊下からシャワーがタイルを打つ音が聞こえてくる。音を聞いているだけなのに異様な気持ちになってくる。我が家に女の子が来てシャワーを浴びている……文字にすると背徳感が凄い。ただ俺が原因でそうなってしまったからやはり罪悪感も凄い。
後はバスタオルに着替えか。
布巾を適当な場所で乾かして、収納棚の戸を開く。バスタオルはこれで良いとして、服……なぁ。
既に嫌な予感がひしひしとしていた俺は適当に一枚取って広げてみる。俺の頭身に合ったsサイズの服だ。因みに俺の身長は150㎝前半、大して洞木の身長は見た目だけでも170㎝くらいは最低でもある。
要するに、サイズが合わない。全くと言っていいほどフィットしない未来が見える。
「どうすっかな……」
女性物の服も男性物の服もある俺の家であるが、こうも身長に差異があるとどうしようもない。普通こういうシチュエーションなら逆だと思うんだけどなぁ。ブカブカな服を女の子が着る展開でしょ、なんで逆なの? 自分の身長が恨めしい……クソ……欲は言わずともあと30㎝くらい欲しかった……!
どうしよう。マジでどうしよう。
着替えを貸すと言ってしまった手前引っ込めないし、それ以前に洞木を裸で置いておくわけにもいかない。男だったなら乾くまで半裸でいろという事も出来たが……女の子だしなぁ……。あったしなぁ……おっぱい。
次第にボイコットしそうになる脳味噌に活を入れて服を漁りまくる。とは言え、引っ越してきて三ヶ月ほどだからその数も多くなかった。5分ほどすれば俺の持つ全着が床に並んでいた。勿論全てSサイズ。ならば服になりそうなものは無いかと探せばそれこそ手元にあるバスタオルとか、後はゴミ袋とか……恋愛シュミレーションゲームだったら完璧に地雷選択肢なんだよなこれ。
……諦めよ。
「許してくれ、洞木」
俺は一番無難な単色のTシャツと、スウェット生地のズボンを取り出して俺は洗面所へと行く覚悟を決めた。多分これだけだと上がパツパツになって恥ずかしいだろうからもう一枚バスタオルを持って行く。これで手を打ってほしい。これでも本当に済まないと思ってる。
リビングとは短い廊下を挟んで位置する洗面所には、籠の中に先程まで来ていた服が入れられており、着ていた本人は薄い擦りガラスの扉一枚を隔てた浴室でシャワーを浴びている。風呂場にあるボディーソープで肢体を洗っているみたいで、身体に当たらなかったシャワーの水滴が浴室の壁や扉に当たる。その音が洗面所だと明確に聞こえて妙な現実感に襲われる。……ここにいたら変な気分になりそうだ。
「着替えとタオル、ここに置いておくから」
「あ……うん。分かった。ありがとう」
短い言葉を交わしてさっさと退散する。ラッキースケベとかなったら今度こそ取り返しが付かないからね。二度と顔を直視できなくなる自信がある。
リビングに戻って改めてペットボトルからお茶を注ぐ。一口喉に流し込んで、自然と溜息が出た。
……やっぱり、気まずいな。
数分ほどして洞木はお風呂から出てきた。不満げな表情を引っ提げて。
「これしかなかったのかい、服」
「マジでごめん。身長差がさ……」
「……はあ。しょうがないか」
予想していた通りと言うべきか現在の桐木は、服がボンドで体に張り付けてしまったかのような着こなしをしている。幸いにも俺の意図を汲んでくれたらしく服の上からはバスタオルをグルリと回していて、ほとんどの身体のラインはそれによって隠されている。それでも尚はみ出している箇所からは違和感がバリバリに視界へと飛び込んでくるのがこのファッションの奇抜性を表していた。まるで妖怪だ。
洞木の服装に目を通した俺は視線を上げて、次に顔に目を奪われる。
元々イケメンだった洞木だけど、髪を完全にストレートに下した姿はカッコいいというより美しいという感想が相応しいと不覚にも思った。顔から下はタオルの色も相まってドムみたいだが、その上にちょこんと乗った形の良い小さな顔は左右対称な造りをしていて、目鼻立ちもスッと通っている。くすんだ青色の瞳は深海を泳ぐ巨大な魚影のように揺らめき、美人という言葉はこういう見た目の女の子に送られるんだなと漠然とマジマジ見ていると当のイケメン美少女は小首を傾げた。
「どうしたんだい?」
「……な、何でもない」
洞木の容姿に注目していた俺はつい不自然に黙ってしまっていたようで、不思議に思った洞木の言葉でようやく意識が現実に舞い戻る。
いやだってさ、言い訳させてほしい。
イケメンと思った知り合いが女の子でしかもモデルとか出来そうなほどの美少女。そんな状況に陥った一般的男子大学生がマトモな思考を出来るはずがないじゃないか。よって俺は悪くない。洞木が悪い。うん。
理論武装を整えると俺は意を決して口を開く。
「取り敢えず、昼飯もっかい温めたからさ。食べながら話そう」
「……そうだね」
気を取り直して、俺は箸を持った。来客用の箸なんて無いので洞木は割りばしだ。
いただきます、と形式的に口にすると温め直した冷凍食品のシューマイを噛み締める。美味しいけど全く集中できない。どうしても眼前で同じくシューマイに醬油を付けている洞木が気になってしまう。
話題を振るにもこの状況を作ってしまった俺から切り出して良いものか……。
黙って食事を進めていると、5つ目のシューマイに箸を伸ばしたところで洞木は重い口を開いた。
「……変、だよね」
「……えっと、男装のこと?」
「うん」
反射的に口が動く。
洞木の手は電池が切れたロボットみたいに膝の上に置かれていて、もう一方の箸を持つ手は白飯が盛られた茶碗の直前で止まっていた。
「僕って女子なのに、いつも学校で男子の格好してるんだ」
「……そうみたいだね」
「変だよね、やっぱり」
土壌から徐々に水が染み出すみたいに、洞木の口からポツポツと言葉が振ってくる。小雨だな、と思った。
「同意して欲しいなら聞く相手、間違ってるけど」
「え……?」
「女装している俺がんなこと思う訳ないだろ。俺からすれば気持ち悪いなんて上等だよ。好きでやってるんだからな。むしろ益々俺の女装に萌えさせたくなる……まあ洞木は違うかもしれないけど」
「……それは気持ち悪いね」
「言わせといてそれ?」
その返答が可笑しかったのか、クスクスと鈴が転がるような音で洞木は笑った。笑い止むと、息を整えるように一度深呼吸をして、それから桜色の唇を戦慄かせる。
「僕はね……男の子の気持ちが知りたかったんだ」
その言葉を火切りに洞木は話し始める。
洞木は中高時代、男子から相当モテていた。その容姿を鑑みれば頷ける話だ。週に二回以上は告白されていて、その度に断る自分に疑問を感じていたらしい。表面上は今は勉強が大事だからだとか、恋人がいる想像が出来ないからだとか、それっぽい理由を並べていたもののその実自分でも本心が分かっていなかった。
そして疑問を疑問で終わらせずにあらんば、行動するしかない。
自身の本心を確かめるために高校三年生の時に一度、クラスの男子と付き合った。相手はバスケ部でも背が高くてスタメンを張る、いわゆるクラスカースト上位の陽の人間。それまで全員切ってきたから洞木がオーケーの返事を出すと大層驚いたそうだ。
だがその二日後、すぐに別れることになる。
疑問は氷解した。クラスでも人気のある異性と付き合ってみて初めて嫉妬という感情を一身に受けて、結論を得たのだ。
面倒を避けるために無意識に断っていたのだと。そう洞木は自分の中で解を結んだ。この手の人気者に惚れているクラスの女子は何人もいたし、承諾したら場が荒れるだけと無意識に判断を下していたのだと洞木は確信した。
そこまでは良かったが、連鎖的にすぐ次の疑問が湧き出した。
『私は可愛くないのに、何で男は告白してくるのだろう』と。
それは人からすれば傲慢にも見えるだろう。洞木の容姿は間違いなく高校でもトップレベルだっただろうし、だからこそ男装をすればイケメンにも見えた。
しかし洞木周は鏡と対峙した自分とクラスメイトの女子の容姿を比較して、終ぞそうは思わなかった。
普通、見方の物差しは1つではない。小柄で顔立ちの幼い女子を可愛くて容姿が良いと感じる人間もいれば、洞木のように大人びていて若干冷たさを持つ綺麗な女子を容姿が良いと感じる人間もいる。人の感性なんて十人十色だ。でも語るにも限りはある。幾ら小柄で愛嬌のある女子が好きな人間でもその対極に位置する海外モデルのことを容姿が良くないとこき下ろすことは無いし、逆に海外モデルが好きな人間でもアイドルみたいにキャピキャピした女子を容姿が悪いと判断することもない。飽くまで好みのタイプが違うというだけ。好みは千差万別あれど、容姿に対する認識が大きくぶれる事はない。
だが洞木にはその物差しが欠けていた。
自身への自信の無さが直結しているのか、涙袋が大きくて小顔でツインテールで、アイドルみたいな可愛い女子を容姿が良いと捉えていた。その一方で綺麗な人を容姿が良いと捉えられる感性が抜け落ちていて、自分のことはその辺に掃いて捨てるほどいる普通の女子と思い込んでいた。
何故自分が異性から求められているのかが分からない。自分より可愛い女子はクラスにも何人もいて、なのに男子はそこに目を付けずに自分へ愛を告白してくる。その思考プロセスには確実に自分の知らぬ未知の条件分岐が含まれていて、でもそれが分からない。
生まれた疑問は時が経つほどに色濃くなり、高校を卒業しても尚ずっと洞木の背後を付き纏う命題となって洞木の桎梏を縫い付けた。
「だから僕は男装することにしたんだ。少しでも男の子の姿になって、気持ちを知ることが出来れば解は得られるんじゃないかって。でも全く効果は表れずに膠着状態に陥って、それで君を見つけたんだ。で、話しかけた」
長い長い語りを経て、現在に話が戻ると洞木は困ったような笑みを浮かべながら視線を俺へと向けた。
「何で俺だったのか聞いて良いか?」
「君が女装していたからさ。女の子みたいだけど、男の子だ。見つけた時は僕と同じく性別を偽って講義を受けているってシンパシーもあったし、その少し後には未解決のこの疑問を解く重要なカギになるかもと思ったんだ」
「鍵ねぇ」
「そう。まあ結局分からないんだけどね」
首を振る洞木に何だかなぁ、と思う。
「仮に洞木は男になっても理解出来ないと思う」
「……え?」
「てかまず男のフリをするだけで男の気持ちが理解出来る訳が無いだろ。女装してる俺の気持ち分かるか?」
「そんなの分かんないよ」
「じゃあ無理だ」
男の気持ちは男にしか分からないし、そもそも洞木に関しては男の気持ちを理解する必要なんてない。だって欠けているのは男女共通で持ちうる共通の価値観だ。女の子だってパリコレで奇抜なファッションと共に歩くモデルの容姿はトップクラスだと認識できるんだから。
「あのね二千翔! それ以前に女装してる男の気持ちが分かる女子の方がおかしいと思う!」
「お互い様だろって。俺だって洞木の気持ちなんて知らないし」
「はあ……。そうだけど……でも無理と言われるのはちょっと気に入らないかな。何でそんなことを言うのか、参考までに聞いてもいいかい?」
「聞いてれば洞木のそれって根本的なもんだだろ。知識なら学べるけど、価値観を変えるのは難しい。聞くけど自分の見た目は俺から見てどのくらいだと思う?」
「二千翔から見て? 心理学専攻でも無いから分からないけど……女の子としては中の中とか」
「上の中だよ」
「うーん……」
眉を盛大に曲げた洞木は思案するように顎に手を当てた。言われ慣れているのだろう、全然照れる様子もなく摩訶不思議そうに首を傾げる。恋愛ゲームなら照れるとこでしょここは。照れられても異性耐性×の俺的には対応に困るから良いけどさ……まあ現実はラノベじゃないってことだ。
「良くそんなような評価をされたりするけど、僕に上の中の容姿なんて無いと思うんだよね」
「ならこの人はどう思う?」
そう言って俺は本棚に仕舞っていた女性向けファッション誌を取り出してページをめくってモデルが写った写真を洞木に見せる。黒髪で長く、洞木と違っておっぱいも大きいけど顔立ちとか雰囲気は似通っている。
「何故そんなものが……」
「そういう趣味だからな。トレンドを追うのは大事だろ?」
「本気過ぎない? 僕でもそこまでしないからね?」
同じ穴の狢なのにまるで俺だけがおかしいみたいに言うのは辞めていただきたい。
「でどうよ?」
「いいんじゃないかな。別に醜いとは思わないし……」
「思わないし……?」
「……それくらいかな。善し悪しとか、そういう感想は湧かないよ」
だろうなぁ。自己評価が低すぎるのかとも思って念のために聞いたがやっぱり予想通り。懸念が無くなったので次のページをめくる。
「ならこっちは?」
今度は年齢が幼めの女の子の写真である。ポップなストリート系の服装に身を包んでいて、アイドルみたいに手を可愛らしく上げたポーズをしている。
洞木は少し見ると意味深に息を漏らす。
「可愛いと思うよ。上の上かな」
「さっきのは?」
「……評価不能かな」
「じゃあ無理だって。こればっかしは価値観の問題だからな。男の気持ちがどうとか女の気持ちがどうとか関係なく、美醜の捉え方の問題」
「そう……僕ってやっぱり美醜の感覚が違うのかな……」
顔に影を落とす洞木に俺は何も言わず立ち上がって、空っぽになっていたコップに追加のお茶を注ぐ。
纏めよう。洞木からすればクール系の年上お姉さんタイプは全員美人には見えないみたいだ。多分、醜いとは思っていないだろうけど……言葉通りに平均並みとは思ってるんだろうね。まだ自己評価が低いならよかったのに、自分と同じようなタイプは全員そう見えるらしい。
「問題のボトルネックはそこだろうなぁ。正直、何でそうなったとしか」
「ごめん……心当たりはない」
「そっか」
申し訳なさそうに瞼を伏せた洞木に慌てて「気にしなくていいよ、俺も大したこと言えなくてごめん」と軽く手を振る。言い訳をすれば俺自身こんな話になるとは全く思わなかったし、何より洞木のこの問題は根深そうだ。一朝一夕で変化するようなもんじゃない。
「僕こそ巻き込んじゃったから気にしないで……ただ、真剣に考えてくれてありがとう。こんなこと、親にも友達にも言えないから」
「ああ……俺の方こそ気にすんなって。まあ、その、何だろう。友人、もとい貴重な異性に変装する仲間だからさ」
「友人ならともかく、そう言われると変人みたいで心外だよ」
「変人なのは事実だろ……今の問題を抜いたとしても女の子で一人称は僕だし、イケメンのフリをしていて、更にまな板で三振でしょ」
「ちょっと二千翔、それセクハラだよ? セクハラで学生相談室に訴えてやる」
「マジすんませんでした! 調子コキました!」
口元こそ微笑を浮かべているがその眼光はマジだった。もし謝罪してなかったら絶対にやってたなコイツ……男と思って接してきた相手が女の子と発覚して急に距離感が掴めなくなった俺が悪いんだけども。でもまな板なのは事実なんだ。幾ら大きめの上着を着ていたとしても胸なんて僅かも膨らんでないのが分かる。さっき透けて見たからさらしを付けているでもないし、着やせしている訳でもない。完璧な貧乳だ。別に巨乳が好きな訳じゃないけどしかし洞木を見ていると何か足りねぇと脳内が疼いて仕方ない。何で女の子にはこんなにも格差が存在するのだろう。富める者と貧しい者……その残酷なまで大きく隔たれてしまった原因は何なんだ神様!
とか何とか考えていたらギロリと洞木に睨まれる。
「何か変なこと考えてないよね」
「そ、そんなことねーし! 経済格差について考察してただけで疚しいことは何も!」
「……推定無罪の原則に感謝するんだね、変態似非女子くん」
へ、変態似非女子って……外聞が悪い呼び名すぎる……。
「そう言ったら似非イケメン美少女の洞木はどうなんだ。この二か月で何人の女子を誑し込んでるんですかね?」
「た、誑し込むなんてしてないよ! 向こうから何人か来たりはするけど、精々が一緒に授業受けたり課題をラインで共有するくらいで」
「ほうほう」
「な、何だよその懐疑的な眼差し……」
これは誑し込んでますね。間違いない。どれだけの女の子を泣かせることになるのか……でも洞木って女子高の宝塚系お姉様的な雰囲気あるし案外気にしない子もいそう。どっちにしても苦労することは確実だな。
「それを言うなら君だって同じだろ! 講義が始まる前に良く男子に声を掛けられてるじゃないか!」
「あーそれね。鬱陶しかったから最近は講義にギリギリに行って、終わったら秒で出ていくようにしてるからノー問題」
「でも何人かは狙ってるよ? 後ろの席に座っていると黒板そっちのけで二千翔を見てる人が良く見えるんだ」
「え、マジ」
……心当たりがないけど多分ガチなんだろうなぁ。俺の女装、完璧に美少女だから。最悪告白とか覚悟しなきゃならないと思うと凄い憂鬱だ。ファースト告白は女の子にしてほしい、本当にお願いします。俺は女装趣味を受け入れてくれるインドアで可愛い彼女が欲しいんだ。巨乳ならなお良し。
今のは先程の俺の発言に対する意趣返しだったらしく、唖然とした俺に洞木はクスクスと笑った。
「まあ、この辺で辞めておこうか。お互い斬り合っても傷が増えるだけだろう?」
「俺たちは同類だからな……」
イケメン(女)と美少女(男)。同じ悩みを持つ以上傷つけ合うのも馬鹿らしい。悲しい運命を背負ってしまった同士、仲良くしようじゃないか。
それはそうとして、本当に女の子とお近づきになりたい。
「はぁ~、男じゃなくて彼女欲しい」
「なら女装やめなよ」
「それは出来ない。人類の損失になる」
男でここまで美少女を体現できるのは俺を除いて五人といないだろう。いわば芸術品と一緒。来年には人間国宝に指定されること請け合いだ。
自信満々で言ってやると「……じゃあ無理だね」と肩をすくめた。畜生。
次話は9日17時です。
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