神様だって万能じゃあない(イケメン神様視点)
始まりは小さな光だった。
世界に時々生まれる歪み。
これを正す為に聖なる力を内包する者に加護を与える。
加護により周囲の脅威から守られ育つ。
その加護は物理的なものから精神的なものまで多岐におよぶ。
そうして加護の元不慮の事故や病気、人々の悪意や嫉妬などから守られる。
そうして輝きを成長させて、神の代理として歪みを矯正するのだ。
神は人の世界に直接干渉する事が出来ない。
それ故の苦肉の策だが、この加護を与える者に対しての好悪は無い。
しかし神の加護を与えられた者は、ほぼ神の愛し子として周知される。
そして人々から崇拝され、寵愛を受けながら幸福に人生を終える。
……神の本意など人々は預かり知らぬもの……
この歪みに対しての加護を与えられた者以外にも聖なる輝きに似た光を持つ者は存在する。
だが加護のある無しで、輝きも力も歴然とした差が出来てしまう。
それに加護が無い光は大抵負の感情で濁ったり、小さくなったりして消えてしまう。
元々の輝きも小さく弱い為、周りの人々が気付く事も無い。
一葉もそんな一人だった。
私はあまねく世界を見渡していた。
そこで小さな光を見つける。
歪みを正す者の選定はすでに終え、加護も与えた。
加護持ちを複数にすると人々に混乱が生じるのでこれ以上加護は与えるつもりはなかったが興味が引かれ見に行く事にした。
私が見つけた小さな光は今まで見つけた光の中でも一番弱々しかった。
仄かに灯る程度の光を纏っていたのはまだ産まれて間もない女の子だった。
両親や周りの人々に愛され慈しまれ、彼女も幼いながら心からそれに応える。
彼女の光は輝きを増していった。
人とは不可解ないきのものだと思う。
光を持って産まれても環境や資質によって光を失う事がほとんどだ。
失う事が無くとも輝きが増す事は皆無と言ってもいい。
悪事を働かなかったとしても、周りの人々の悪意に挫けたり、自身の欲望に負けたりして光を維持出来なくなる。
それを多く見てきたからこそ、惜しみなく愛情を与え合う光景を嬉しく思った。
神の加護が無くとも輝きを増す彼女の人生を、最後まで見てみたいと思った矢先の出来事だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
幼い彼女の全身から放たれた悲痛な叫びが無垢な魂を引き寄せる。
凄まじい数の動物に守る様に囲まれた彼女は真昼なのに煌々と輝いていた。
その彼女の前には大きな爪痕から血を流す母親が倒れていた。
彼女から少し離れたところに消滅しかけの魔物ような何か。
瞬時に状況は理解出来たが、直接関与出来ない私には為す術がなかった。
神様だって万能ではない。
彼女を助けたくても、理によって縛られた私は何も出来ないのだ。
輝きを増し続ける彼女の輪郭が揺らぎ始めた。
!!!
自らの命を力に変換しているのか!?
止めどなく涙を流す瞳から徐々に生命の輝きが消えていく。
少しずつ光となり崩れていく彼女。
それとは逆に彼女の母親は癒されてゆく。
流れ出る血が止まり、無惨に引き裂かれた傷が塞がって顔に血の気が戻り、瞼が震え瞳が開いた。
「……お母さ……ん、良か……た……」
微かに残っていた彼女から溢れた吐息の様な呟き。
それを最後に彼女は跡形もなく消滅した。
「?」
「………?」
「………………!!!」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
何故か全てを理解してしまった母親が絶叫した。
先程の彼女と同じように、いやそれ以上に。
このままでは精神が崩壊すると判断した私は彼女の叫びが集めた小鳥の一羽を依り代にして、狂った様に叫び続ける母親に忘却の術を施す。
母親は糸が切れたみたいにコトリと倒れた。
……全てを忘れて。