困惑しかないのですが…
初投稿です。
よろしくお願いいたします。
その日は雨が降っていた。
「一葉、パパとママお出掛けしないといけないんだ。すぐに帰って来るからお利口に待っていておくれ」
何時もの様に優しく頭を撫でながらパパは微笑んだ。
「……やっっ!」
瞳から溢れそうな涙を堪えて私はパパのスーツの膝にすがりつく。
困った様にパパとママは顔を見合せるのを私は見つめる。
パパとママがスーツを着てお出掛けする事は今までにもあり、私がこんな風に引き留める事はなかったからだろう。
でも、今日は嫌なの。
怖い絵本を見た時みたいに胸がドキドキする。
「…っく、やだ、行かないで…ふえぇぇん!」
とうとう我慢しきれず涙が溢れ泣いてしまう。
「!!一葉。大丈夫、大丈夫よ」
ママが慌てて屈みこみ、私を抱き上げ背中を撫でてくれる。
「……ねぇ、あなた。こんな一葉初めてよ?今日行くのは止めましょう?」
「しかし……」
抱き上げられ目線が近くなったパパに必死にお願いする。
「っぐ、えぐっ、パ、パパっ、お、おねがいっ、っく行かないでええ〜うわぁぁん!」
「っ、か、一葉!わかった、行かない、行かないから泣かないでおくれ!?」
「ふぇっ、っほ、ほんと?」
ママの腕の中からパパを見ると、シュンと両眉を下げて何度も頷くパパ。
「ああ、行かない。一葉をこんなに悲しませてまでしなければならない事などないっ!」
「あなた……。ふふっ、そうね」
「仕事など埋め合わせしてみせるさ!あそこの会長に………」
最後のほうは聞こえなかったけれど、とりあえず二人が今日出掛けないとわかった私は安心した。
そして、先程までしていた怖いドキドキが無くなっている事に気付く。
(もう大丈夫。……何が?大丈夫???)
私は自分の感情が解らず混乱してしまう。
目の前のパパとママが私を呼んでいるみたいだけど薄い布が一枚あるかの様にぼんやりとしか理解出来ない。
そうして、私は意識を手放した。
ふわふわとした感覚で意識が覚醒する。
目を開けるとそこには視界いっぱいのイケメンの顔!
!!!!!
(誰っ、この人っっ???)
あまりの衝撃にぴしりと固まる私。
金髪碧眼に陶器の様な白い肌、完璧に配置されたパーツ。
職人が精根込めて造り上げましたと言われても納得できるご尊顔。
美形のパパとママを常日頃見慣れていた私でも息を飲むほどの超絶イケメン。
その超絶イケメンは私が目覚めた事に安堵したのか柔らかく微笑んだ。
「一葉、おはよう」
「………」
(お、おはよう?何、誰、何処〜〜〜!!!)
中々に忙しい心情とは裏腹に身体は固まったまま。
「か、一葉?どうしたの?何処か痛い?」
意識を手放す前のパパみたいに眉を下げてオロオロしだすイケメン。
(……落ち着け、私!とりあえずこの状況を把握しなくちゃ!)
先程よりはイケメンとの距離が空いたおかげで少し周りが見えた。
!!!!!
ここ何処〜!?
驚愕の風景にもはや声にもならなかった叫びが頭の中をこだまする。
向こうが透ける程薄いのに、精緻で美しい刺繍が施された天幕が揺れる、外国のお伽噺に出てきそうなベッド。
毛足の長い絨毯は立てば私の足首まで埋もれそう。
猫足のついた白い調度品には、細かく綺麗な金の装飾がついている。
開け放たれた大きな窓には、緑の木々から柔らかい日差しが溢れている。
まるで童話の挿し絵の様なこの状況。
しかも、素晴らしいふかふか具合のお布団にくるまれた私……
……もう一度目を閉じたらいいのかな?
いいのよね、うん、これは夢だよね、そうに違いないっ!
半ば自棄になりつつ、自己完結しながら目を閉じようとする私に待ったがかかる。
「ち、ちょっと待って下さい!か、一葉、もう一度寝ようとしないで!」
麗しのご尊顔の超絶イケメンが、半泣きで私を揺さぶった。