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最終話 2023年3月11日

【2023年 3月11日】



 一人の女性が、玄関の前に立っている。

 女性の名前は、瀬里。4年前にジャーナリストから麻薬依存治療をサポートする団体に転職した、通称『支援者』である。

 身長は高く、少しやせ気味。全てを見抜いているような鋭い瞳と転職するにあたって短くした黒髪は、漆黒の処刑人のような力強さがあったが、その内には同じ薬物依存を経験した共感と優しさを持ち合わせていた。


 Knock Knock


 瀬里は、緊張した面持ちで戸を叩いた。

 もう何人もの患者を社会復帰させてきた彼女には、どんな癖者が相手でも対処する自信があったが、緊張の元はそこではなかった。


 Clank!


 もう一度叩こうとしてところで、家主が扉を開けた。

 数年前、派手に壊されたのがまだ修理されていなかったので、開けるのに苦労していたようだ。


「……、これから一緒に暮らすことになる。君が患者で、あたしが『支援者』だ」


 一人の女性が、玄関の中に立っている。

 女性の名前は、香子。4年前にとある理由で薬物に犯されて、なかなか立ち直れない元・『支援者』である。

 身長は高くはなく、太ってもいない。大きくクリッとした瞳と一つも結んだ艶やかな黒髪は、白衣の天使らしいおしとやかさがあったが、重労働を安々とこなせるバイタリティと強かさはもう持ち合わせてはいなかった。


 二人は、顔を合わせるや否や抱き合い、香子は瀬里の胸の中に包まれるように顔を埋めて泣きじゃくった。


「瀬里……。ごめんね……、ごめんね……」


「これから頑張ろうな。香子は強い人だから、きっとうまくいく。ずっと、あたしがついてあげるから。頑張っていこうな」




 ◇ ◇ ◇


 今日は、3月11日である。


 それは、みんなが悲劇にあった日かもしれない。

 悲しむべきで。

 忌避するべきで。

 忘れてはならない。

 そんな日かもしれない。


 しかし、それだけの日ではない。


 それは、誰かが救われた日なのかもしれない。

 喜ぶべきで。

 歓迎するべきで。

 忘れてはならない。

 そんな日かもしれない。


 だから、それだけの日にしてはならない。


 今日は、3月11日である。

 それだけである。

最後まで読んでくれてありがとう!

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