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賢者とかみさまの忘れ物  作者: たかやす
一章
8/22

7

同時刻


大図書館の掲示板には数日早く辞令が公布されていた。

多くの人は一目してすぐに退散しているが、話題には登っているようだ。

辞令交付と同時に1ヶ月ほど休みとなっていた『黒の塔』の開館日時も発表されていたからだ。


その光景を遠目から『茶色の塔』の司書長、ヤスミン・リシャールは見ていた。


(…1週間後に発表といっていたはずだけど…)


自分の部署からも1人異動となるため、人員を補給しないといけない。その調整をしないといけない。心の中に名前のないどろどろしたものが膨れ上がってくる。しかし、辞令の交付前に佇んで愕然とした顔をしている当事者の顔を見ると、その名前のないどろどろしたものが少しなくなっていく感じがした。

幾分か気を取り直し、仕事しに自室へ向かうのであった。




いつもは人通りの少ない掲示板前は、多くの人が入れ替わり立ち替わり、掲示板に目を通していく。

その中に自分の見知った顔があり声をかける。


「ルイーズ、アドリアン。おはよう」


アナが2人に声をかけると、血相を変えて駆け寄ってくる。


「ねぇ、前に話した『黒の塔』のこと覚えてる!?」

「え、えぇ。でも気にすることはやめたわ。気にしてもしょうがないし…」

「その『黒の塔』への辞令がでてたぞ」

「辞令?」

「そう!辞令よ!!ちょっと見てよ!」


ルイーズに手を引っ張られる形で、人混みをかきわけ辞令の交付書をみる。


「…えーと、以下の者を昇進の上、『黒の塔 受付』への異動とする。『黄色の塔』ズー・ハン・ヨウ、……『茶色の塔』アナ……」

「昇進ってところが断りにくくするような手で姑息さを感じるわ」

「実際昇進だろう。『黒の塔』と『白の塔』は業務内容は大変だけど、出世コースっていわれてるぜ」


アナは2人に血の気のない顔を向けた。


「…わたしには無理よ…」

「前向きに考え見ろよ。出世コースだぜ、出世コース!これから自分の華々しい未来が幕開けるって考えてみろよ!」


アドリアンがアナの背中を励ますように叩く。アナは死んだ魚のような眼差しをアドリアンに向ける。

ルイーズがアドリアンをひと睨みし、アナの背中に手を回し励まし始めた。


「アナ、一先ず落ち着いて、ね?」

「…私自信ないわ、『黒の塔の受付』って調べてみたけど、世界樹の子株を管理しないといけないの…」

「…もう辞令は出ているから配属は決定よ。でもまだこれから業務内容の説明や世界樹への挨拶もあるでしょ?そこで世界樹からお断りされるケースもあるみたいだし、相性の問題だってあるじゃない?」

「………そうね…」

「それに、同じく異動になったズー・ハン・ヨウさん?だっているじゃない?1人じゃないのよ?」

「…ルイーズやアドリアンと一緒に働けなくなってしまうのね…」


しんみりとアナがいうと、ルイーズとアドリアンはハッとした顔になった。


「アナ、今日は昇進祝いをしましょう!もちろん、アドリアンがお金をだすわ!」

「え!?俺!?」

「…本当?」

「もちろん!何か食べたいものない?」

「…ね、給料日前なんだけど…」

「…フルーツが食べたい…」

「フルーツね!わかったわ!アドリアンと買うわ!アナの家でいい?」

「…うん…」

「…昇進祝いって本当なら昇進した人がご馳走す…いだっ」


ごねているアドリアンの足をルイーズが思いっきり踏みつけ黙らせる。


パンッ


乾いた手の叩く音が聞こえてきた。

前を見ると『黒の塔』司書長がいた。


「知ってる人も知らない人もこんにちは!『黒の塔』のアレクサンドだよ!アレクって呼んでね♡」


『黒の塔』の司書長はそういって集まった人達をズラっと見ていった。


「やっぱりきていたね。ズー・ハンとアナ。2人はここに待機してあとは解散だよー」


ルイーズとアドリアンはアナに励ましの言葉を一言ずつかけて、自分達の職場へ戻って行った。

その場に残ったのは、『黒の塔』司書長のアレクサンドとアナ、ズー・ハン・ヨウだった。ズー・ハン・ヨウは

背が高く、腰まで届く長い黒髪を後ろで一本にしばっている、黒い瞳の男性だ。周りをおどおどしたように見回しており、挙動不審のようにみえる。


「さて、2人はこれから『黒の塔』に案内して業務説明をするね』

「は、はいぃ」

「…はい、わかりました」


『黒の塔』司書長アレクサンドを先頭にズー・ハンとアナが続き、『黒の塔』へ向かっていった。


「『黒の塔』は『白の塔』と並んで、特殊部門なのは2人も知っていると思うんだけど、魔道書と古書専門に扱っているんだ。だからその扱いは特に注意が必要で、専門の訓練を受けた人だけが配属されているんだ」

「…あのぅ、俺そういった訓練は受けていないんですが…」

「私もです…」

「君たちは精霊魔法がつかえるだろう!?本の扱いではなく、『黒の塔』への入館者の案内と本棚の管理、世界樹の世話をお願いしたいんだ」

「……」

「世界樹ですか?」


ズー・ハンは嫌な予感があたりました、という顔で項垂れてしまい、アナは自分自身が異動になるとは思ってもみなかったので、ほかの部署の話は噂話程度にしか記憶に留めていなかった。


「そう!『黒の塔』の本棚は世界樹の根や幹の一部分が変化しているものなんだ。だから世界樹に宿る精霊の世話してほしいし、彼女は魔法具や聖遺物なんかが自分のテリトリーに入るのを嫌がるから、入館者の持ち物検査をして確認してから入館させてほしいんだ。簡単な仕事だろう?君たちなら世界樹も気にいるはずさ」

「…も、もし気に入らないってなったら…?」

「そうなったら残念だけど、元の配属先に戻すことになると思うけど、事前に確認したところ2人ともパーフェクト!!だったから、安心したまえ!しかし2人とも精霊魔法を使えると申告していなかったから、探すのに手間取ったが…ぬかりはなかったな!はっはっは!」


ズー・ハンの両肩に両手をおき満面の笑みを浮かべて答えた。

アナはアレクサンドから目をそらし、ズー・ハンは口角をひきつらせるしかなかった。




『黒の塔』はL字型の建物で、そのちょうど真ん中付近に大きな大樹がそびえ立っている。それが『世界樹の子株』といわれている。本来『世界樹』は世界の真ん中にそびえており、世界を支えている。

『神と人の争い』の時に中立であった『世界樹』の精霊は、女神ディアナに滅ぼされたといわれている。その際、『世界樹』から種が世界中にばらまかれ、各地で『世界樹の子株』が大きくなり精霊が宿り始めている。その内の一本が大図書館『黒の塔』の『世界樹の子株』である。


暫く歩くうちに目的の『黒の塔』にたどり着いた。見た目は他の部署とかわりない外観をしていた。


「さぁ、君たち2人は主にここで受付業務をしてもらう」


そういって開けた扉の先は天井の高い縦長の白い部屋になっていた。

真正面には壁一面に世界樹が彫ってある扉が、右手にはカウンター、その奥に様々な大きさの引き戸がついた棚が備え付けられていた。


「ここで『黒の塔』入館者の持ち物検査をしてもらう。魔力をもった物はどんな物でも持ち込んではいけない。どんなに弱い魔力であっても許されない。回収した道具類は後ろの棚に保管して、棚の扉の前にある木札を渡して、帰りにその木札と預かり物を交換する形になる」

「その、魔力探知は私はできないのですが…

「あ、お、俺もできないです」

「それは心配しなくてもいい。世界樹の子株と契約を交わすと彼女の感覚が共有されて、さらに分体が君たちをフォローしてくれることになっている」


アレクサンドはそういうと受付カウンターの中に入っていく。


「ただやはり、説明しても話を聞かないやつがいる。受付が代わったばかりでそれを狙って無茶をいうやつだってでてくる」

「…私無理かもしれません…」

「……」


アナとズー・ハンは顔色悪くして話を聞いている。


「まぁ、まて。話は最後まで聞いてくれ。この空間に限っては治外法権、世界樹の子株、子株と感覚を共有しているお前たちが法律だ。たとえ王様だろうがこの中ではお前たち2人には逆らえない。そういう取り決めがされている」

「取り決め?」

「そうだ、ここが立つ時に当時の王様と館長が決めたものだ。だから、お前たち2人、もとい世界樹の子株の指示に従わない者は…」


カウンターの棚の奥にあるスイッチを押すと、ちょうどアナとズー・ハンの前の床が真ん中から割れ、奈落が見えるようになった。


「言うこと聞かないやつがでてきたら、カウンター奥のスイッチを押せば奈落に落ちるから好きなタイミングで使ってくれ」

「…ここはどこにつながっているんですか?」

「うーん…俺もよくわからないんだが、ここに落ちても死ぬことはないが抜けるのに数日かかるとかかからないとか…落ちたらその後はものすごい勢いで反省するらしいぞ?」


2人は足元に広がる奈落を見て喉を鳴らす。底が見えない黒々とした穴が広がっている。時々得体の知れない音がしており、2人で顔を見合わせて更に顔色を失っている。


「まぁ、ここが受付業務をするところになる。次は世界樹の子株に会いに行こうか」



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