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賢者とかみさまの忘れ物  作者: たかやす
一章
7/22

6

数日後


ダンサーと導師は出発前にけが人の元に来ていた。

(本当にやるの?)

(…決めたことだ。憂いはなくしたい…)

(私もアナのことは心配だけど…。彼は魔法抵抗が高いから思ったほどの効果がないかも…)

(…承知の上だ…)

(反呪魔法も得意だし…)

(だから今しかないんだ)


ふっきるようにいうとダンサーはけが人の額に手をかざす。昨日の舞による魔法の行使ではなく、彼の元々の力による魔法の行使である。そのため詠唱破棄が可能で、詠唱破棄しても威力が減退することはない。


(発動条件はアナが近くにいる時、意識が微睡むように…)

掌からパチっと音がして、額に魔法陣が刻み込まれる。


呪いが刻まれても起きる気配はなく、2人は部屋を後にした。




数時間


ダンサーと導師は旅立っていった。


けが人は峠を越え、少しなら身体をおこすことができるようになっていた。しかし、まだ予断の許さない状態といわれており、会話はあまり成立せず、熱がでたり食事がとれなかったりしている。


「私はそろそろ仕事に行ってきます」

話しかけても返事がなく、目は開いているものの天井をみるばかり。


「私がいない間、シモン先生がいらっしゃいますので何かあれば先生に伝えてください」

返事はないが話しかける。たまに返事が返ってきたり、先生には自分の状態を伝えることもできることもあるようだった。




その後アナは仕事のため家を出て、ほぼ入れ違いのように、シモンがやってきた。


「おはよう、アロン。気分はどうだい?」

寝ているベッドの側まできて、診療の準備をする。


「……身体は日々良くなっているように思いますが、気分は最悪です」

「ははっそれならば上々。呪われてるからな」

「…なんて呪いをかけいくんでしょうか」


彼の名前はアロン・グリンバーグ。ダンサーと導師は出立間際、アロンに対してアナの前では意識が混濁する呪いをかけていった。それもこれも2人がアナのことを心配してのことだったが。


「まぁ、でももうすぐで解呪できそうなので問題はなさそうです」

「そうか、それなら祈祷師紹介しなくてもいいな」

「お心遣い痛み入ります」


呪いは聖職者、または祈祷師が解呪することができる。魔法使いでも魔法抵抗が高いと自力で解くことも可能だ。


「怪我はあと1ヶ月もすればよくなるだろう。その後はどうするつもりだ?」

「…どうとは?」

「旅をしていたんだろう?ダンサーや導師から聞いていたが、元々『賢者の塔』から来たんだろう」

「そうですが、そこにはもう戻る気はありません」

「じゃあ、ここにすむのか?」

「それもまだ何も決めてはいませんが…しばらくは滞在しようかとは思っています。それで身の振り方を考えようかと…」


そんな会話をしながら、足の治療をしていく。水球を解除し骨を固定するために氷の杭を足に何本も刺さっていた。


アロンはシモンの治療をじっと見ていた。

「…痛み自体はないんですが、見るだけで痛そうですよね。」

「痛みは感じないように麻痺させてるからな。骨はまだくっついていないからしばらくはこのままだな。まぁ出血は止まってるし、感染もしてなさそうだし順調だな」

「ありがとうございます」


わずかに溶けていた氷の杭を元の状態に戻す。そして水球で包み込む。


「この魔法は先生が開発したのですか?」

「開発っていうほどのものでもないんだけど…ちょっと変わってるだろう?」

「ちょっとどころではありませんよ。少ない魔力で水球を維持して、さらにはその細かな範囲固定、まるで精霊魔法のような緻密さを感じます。是非その極意を教えて頂きたいくらいです」

「なんだか賢者様にそういわれると照れるな」


全く照れた様子もなく黙々と治療を続ける。


「この水球の魔法を少し分析してもいいでしょうか」

「構わない。好きにやってくれ。改良できたら教えてくれ」

とシモンはにやりと笑いながらいった。


治療内容や必要なことをメモにしたためていく。


「よし、今日はこれで終わりだが、何かあるか?」

「…申し訳ないんですが、本を数冊枕元に置いてほしいんです」

「んー…これか。…ってお前さんが書いた本が多いな」


客間に設置されている本棚に向かっていき、どの本を持って行こうかと本棚をみてシモンがいった。


「自分の本がいいか?それとも他の人の本がいいか?」

「…他の人の本で」


本を何冊か選び、それをサイドテーブルへ置いていく。


「わかっているだろうが、峠を越えたからといって無理すると治りが遅くなるから、大人しくしているように。本の読みすぎにも注意しろよ」

「わかりました」


といいつつ、すでに本に手が伸びている。


「…呪いがかかって意識が混濁するのはかえっていいのかもな」

「…何かいいましたか?」

「なんでもない。じゃあまた明日」

「ありがとうございます」


シモンが帰り、1人になると全身の痛み、特に右足の痛みが響いてくる。一緒に頭までガンガンと痛み出してくるから不思議だ。ただ以前は診療の合間も痛みが酷く、うなされていたような状態だったので、それから比べるとましになってきている。


客間には、大きな本棚が1つある。そこには精霊魔法に関する本が集められている。本は高価なものであり、購入するより貸し借りが一般的である。一冊購入するだけで、庶民の1ヶ月分の賃金が吹き飛ぶほどの値段である。

客間だけをみるが、それほど裕福なふうには見えず、ちぐはぐな印象はうける。ただ本というものは掛け替えのない財産でもあるので、貧しい生活になってもいいから、本だけは手放したくないという者もいる。


「…精霊に関する本ばかりですね」


精霊魔法に関するものから精霊教の教典、精霊に関する一般常識的なものまで様々な書物が置いてあった。


「……早く呪いが解けてアナと話せるようになりたいものですね…」


なんの気なしにでた独り言に、アロン自身が少し驚いた。

これまでの彼の人生の中で、あんな風に裏表なく接してくれたのはアナだけだったからだ。アロンに話しかける者達は、全てとは言わないもののその多くの者が『賢者』という看板につられてくる者が多い。


(…綺麗な髪でしたね。手は少し荒れているようでした。大切にしないと…)


思い返すと少し頬が熱く熱を帯びてくるように感じた。身体中の痛みも少し良い気がしてくる。


(歩けるようになったら、彼女にはお礼を兼ねて何か贈り物でもしたいですね。喜ぶ顔が見てみたい…)


頭では別のことを考えながら、手元の本を読み始めた。

今後のことをどうするのか、そして呪いが一日も早く解けるようにと。


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