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王都に居を構える民衆、特に収入の少ない者たちが住む区画は未だ整備が済んでいないところも多く、治安も不安定である。また暮らす上での安全も確保されていない。瑕疵があるものから、施工が雑なもの、また家々のすぐ側には山を切り崩した後の山肌がそのままに残っている状況である。
アナの家はそのすぐ側に切り崩した山肌が見えており、このような雨のときには時折小さな崖崩れが起こっている。それでも住む人がいなくならないのは、安い賃料や購入費手続きが簡便などの理由がある。
「あらー、大分崩れてるわね…大丈夫かしら?」
「…いつか家ごと埋まりそうだな…」
「導師様もダンサー様も変なこと言わないでください!水の精霊達に頼んで土を崩れにくいようにしていますから」
「…土の精霊とは相性が悪いものねぇ」
「こっぴどく振られたからな」
「うっ…その時のことはあまり思い出したくありません…」
アナは精霊と契約するにあたり土の精霊に泥を頭からたっぷりかけられたことを思い出した。
「まさかあんな振られ方をするとはお思わなかったわ」
と、導師がクスクスと笑う。
「雨が止んだら崩れた土を片さないといけないのは骨が折れますぅう??!」
途中から変なこえをあげたアナは、何かを言いたそうに土砂崩れのほうを指をさして慌てている。
「どうした!?……って人だ!」
アナが指をさせたほうをダンサーが見ると、そこには片手と頭を少し出した格好で土砂に埋もれた人がいた。ダンサーが慌てて駆け出し、その後をアナと導師が追いかける。
ダンサーが駆け寄り手を握るが反応はない。
「ちっ…舞いあがれ、舞い散れよ、我が魔力に応じよ。…散っ!!」
ホドの大地に伝わる扇子を片手にもち、手と足でリズムをとり呪文を紡ぐ。そうすると、土砂が浮かび上がり四方へ散っていく。
すぐに導師が倒れている人の元へ駆け寄る。
「…死んではいないようだけど、ひどい怪我ね…」
「私、先生を連れてきます」
と、アナは孤児院兼医療院になっている建物に向かって走っていった。
導師が倒れている人の介抱をしながら、ダンサーがその顔をじっと見ていた。
「…なんだか見た顔だな…」
「あ、そうなのよね…髪も顔も泥だらけだからちょっとわかりづらいんだけど…アロンっぽいなぁって…」
「…!アロンか!最終試験の途中か?」
「確かそのはずよ、妹ちゃんが『離れたくありません、お兄様ー!』って言っていたの覚えているわ」
「…見捨てるか…」
「ダンサー!駄目よ!私だって何も思わないなんてことはないのよ!いつもいつも鼻持ちならないこといって…そう!前にいったときには女神ディアナについて意見を聞きたいって言われて、話を聞いていたら難しい言葉ばかりいって結局何が言いたいのかわからなくなったら、鼻で笑ったのよー!!他にもまだまだあるのよー「少し落ち着こうか」
ダンサーに肩を掴まれ興奮状態になっていた導師ははっとした顔になった。
自分の手をみると、アロンと言われた青年の首にかかっていた。
「はっ…私は何を…」
「…気持ちはわかるけどな、とりあえず応急処置を続けようか」
ダンサーが見た限り、肋骨骨折、右肩脱臼、内臓打撲による内出血、骨盤不全骨折、右大腿、左下腿の枯れ木による損傷、特にひどいのは右下腿の解放骨折。
「重症だな…」
「『賢者の塔』に連絡しときましょうか…」
「そうだな、急がないから手紙で十分だろう。最終試験では亡くなる者もいると聞くが…」
「…嫌な子だけど教え子ともなると複雑だわ…天国にいけるのかしら…」
「まだ死んでないからな、ラナ」
「そうだったわね、失言だったわ」
そんな話をしているうちに、アナが医者をつれて戻ってきた。