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THE Defected Phoenix  作者: 電球フィラム
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奇妙な来訪者

シケイティオ砂漠

ウィール国の東側、イーストパラス地方の隣に広がる砂漠。巨大なワームや甲虫などの野生化した生物兵器が住み着いており、かつて森であったところも食害によって砂漠になってしまい、その面積は広がっている。オアシスに小さい町が存在するが、その危険性故に一般人は寄り付かない。解体屋や盗賊団のアジトが多く存在するとされる。

今日もいつもの様にあの食堂へ向かう。毎日欠かさずに同じ道を通り、同じ様に見かけたゴミを拾う。学校へと向かう子供たちとすれ違う。子供たちは俺に「ゴミ拾いおじさん」とか何とかあだ名を付けているらしい。結構気に入っている。今日はいつもよりゴミが多いかな。そろそろ新しい袋を出すか、と思い始めた時に丁度食堂へとたどり着いた。扉には「準備中」と描かれた札が掛けられている。その札を裏返し「営業中」と描かれた面に変え、扉をノックする。すると、建物の中から鈴の音が聞こえた。私は扉を開けて中へと入った。いつもの様にセシルがコップを拭いている。そしてアビゲイルとサヤカが掃除をしている。

「やあ、昨日はどうしたんだい?」

「ああ、レビフ、昨日は知人が事件に巻き込まれてな。」

セシルの真ん前のカウンター席に腰掛けた。

「そりゃ物騒だな。何があったんだ?」

セシルが俺にタブレットを見せる。そこにはニュースの記事が映されていた。

「へぇ、教会に住んでたシスターが行方不明になって現場にゃ血痕か。なんか、遂にやったなって感じだな。」

「昔からあそこの住人は教会に対して過剰な程暴力的だからな。とはいえ、殺人まではいかないと思うのだが。」

「どうだかね。人間一度ブレーキが壊れると止まらなくなるぞ。まあ、その子は不運だったって事よな。」

セシルがコーヒーとトーストを出す。

「そんでもって、ステノちゃんはどこいっちゃった?」

「教会に早朝から。証拠を探し出したいらしい。そして、居場所を突き止めたいともな。私たちは保安官に任せる気でいたが。」

「本当にあそこのヤツらが馬鹿だったか、臓器屋にバラされたか、他宗教の信者に殺られたか。」

「分からんな。だが、臓器屋は無いだろう。あんな血痕が残るほど商品を手荒く扱ったりしないだろう。血腥い話はコレで終わりでいいかな?」

「ああ、折角の美味い飯が台無しになっちまう。すまんかったな。」

ドアが開く音がしたのでそっちを見る。そこには珍妙な格好をした太った男がたっていた。まるで医者とサイボーグを混ぜたような感じの見た目だ。続いて仮面を付けた少女。リュックのようなものを背負った女性が入ってきた。変態三人衆……。アビは気にせずにメニューを手渡す。太った男はそれを受け取り、ジロジロと眺める。少女は太った男の横で一緒にメニューを見ていて、女は眉間を押さえて俯いている。今までにも何処かの民族衣装を着たのとか、ピエロとかも来たりしたのは知ってるが、アイツらは格段に珍妙な格好をしている。

「おい、レビフ。余りジロジロ見るんじゃない。客は客だ。」

「ああ、すまん、つい。」

セシルはバカ真面目で、俺が客について何か言うと怒られる。デリカシーが無いとか、客に聞こえてるぞ、とか。それはそうと、俺が見ていた事に金髪の女、この中では一番マシな格好をしている、が気づいたのか私の方を睨んだ。いや、ただこちらを見ただけかもしれないな。目付きが相当悪い。その後その目線は俺から逸れた。そして俺の隣の男の方へと釘付けになっていた。彼女の目線に沿って同じ方向を見るとセシルがコップを拭いていた。コイツがどうかしたのか?もう一度彼女を見てみると目ん玉ひん剥いて凝視している。

「セシル、あの子と何かあったのか?」

「初対面だ。面識はない。」

太った男が注文しようとしたのか手を上げるが女が阻止し、出ようと促しているようだ。

「セシル、お前ホントに何もしてないんだろうな。」

「さあな。」

女が背中のリュックのようなものから細い蜘蛛の脚みたいなものを出し、男と少女に怒鳴っていた。それに渋々従い、彼らは店から出ていった。

「過去一で変なヤツらだったな。」

「レビフ…明日コーヒー抜きな。」

「おいおい、悪かったって。もうちょっと静かにしてるから。」


━━━━━━━━━━━━━━━


「おい、ユヅミ。なんて事をしてくれたんだ。折角飯が食えると思ったのに。」

「あそこの店員がヤバかったって言ってるでしょうが。あの、カウンターで皿拭いてた爺さん、アレはプロの殺し屋よ。」

「別に俺らは誰にも狙われてないだろ。」

「それ本気で言ってるの?」

「戻るぞ。」

「バカ!止めれ!そもそも金が無いって言ってるんでしょうがぁ!」

私は背部の付属肢ユニットを展開した。通行人が驚いて走り去っていく。

「とにかく、今日は川で魚でも釣るか砂漠で狩りでもしないとダメよ。」

「何故金が無いのだ。」

「私しか稼ぎ手が無いじゃない!しかも、ゴロツキか闇取引現場を襲撃してそいつの身ぐるみ剥がすとかいう方法だし!」

「むぅ、仕方ないか。ブリンガー!」

後ろから着いてきている棺桶のような機械が開き中から機械の腕が多数出てきてケイロスを掴み、中に引き込んだ。彼は一日の大半をこのようにこの中で過ごしている。

「ああ、もう、イラつく…。」

「あの、ユヅミさん?」

「どうしたの、エウリー。」

あの醜男とは対照的な小動物みたいな可愛いエウリーが私に顔を向ける。と言っても仮面を付けてて表情は分からないが。

「セシルって私たちよりも強い人なんですか。」

見た目は可愛いのにこういうこと言い始めるからあまり好かない。私は無視して早足で歩いていく。

「あの、ユヅさん?」

「私はどっかで飯か金か探してくるからアンタはそのダメ親父連れて寝泊まりできるとこでも探してなさい。」

私は一人でスタスタと歩いていった。何処かでヤク中か闇商売関連の輩がいればいいんだけど……。アイツらの仲間になる前はこうやって金稼いで暮らしてた。前の仲間には悪人だけを狙う私を見て偽善者だとかなんだとか言われたけど気にはしていない。丁度獲物が居そうな細い路地裏を見つけた。昔はちっちゃいナイフを持って後ろからズブリと。そしてすぐさまもう1人。でも今の私は、あのクズ男に背中に付けられた武器がある。付属肢ユニットを展開して両側の壁を伝い、建物の屋上に登った。その上から見下ろすと、人影が見えた。4人。私はその真上に移動し様子を観察した。今正に、それぞれの腕に薬を注射している様だった。私は付属肢を使い、徐々に下に降りていった。男達は気持ち悪い笑い声を上げながらヨダレを垂らしている。標的から1m位の高さになったので支えるのに必要な付属肢以外を下に向ける。標的に向けて霧を噴射した。男達は私に気づいて直ぐに喉を押さえて苦しみ出した。喉や鼻から血を出し、もがき苦しんでいた。私はガスマスクを付けて下にそっと下りる。獲物はもう動かないなっていた。念の為、付属肢で少し続いたあとポケットやカバンを漁る。薬物の取引用に用意したであろう大金が手に入った。お互い売人で、それぞれお手製の薬を持ち寄ってお互いにヤリあってたって事か。私は金目のものを持ってすぐさま屋上に逃げた。屋上でお札や小銭を一枚ずつ確認する。財布や封筒は下に投げ捨てた。ダミーや、GPSなんかが付けられてたら厄介だからね。全部機械に通し、検査を終えた。上出来だ。あのバカ親子には内緒で少し喫茶店でも寄っていこうかしら。そんなことを考えながら建物の屋上から飛び降りた。路地裏の入口付近で着地し、そのまま出ようとした。その時後ろから何かに思い切り引っ張られ、路地裏に引きずり込まれる。私は乱暴に投げられ、また持ち上げられる。

「よう、嬢ちゃん。久しぶりだなぁ。」

「あぁ、えっと、どなたでしたっけ。」

視界が鋭い衝撃と共に急に右に向く。少し遅れて激痛が襲いかかってくる。耳はキーンという音の他何も聞こえない。

「おい、このクソ尼。聞こえてるか?昔お前に商売の邪魔されたせいで俺様の役が落とされちまったんだよ!なぁ!?」

まずい、早く逃げなきゃ。付属肢を展開して私の首を掴んでいる男の腕に素早く突き刺し、酸性の液体を注入する。男の腕からは逃れられたが、周りの子分に捕まる。

「おぅ、逃げんじゃねぇよ!」

「これからがお楽しみじゃねぇかよぉ!!」

集団から殴る蹴るの暴行を受けている。背中の付属肢ユニットももがれている。

「このクソ尼ァ!!背中のこれをぶちとってやれ!ヤる時に邪魔になるだろ!」

私は羽交い締めにされて背中の機械を引っ張られる。

「止めて!ホントに!痛い痛いぃ!!!!」

背中に縫い付けられた機械がブチブチという音と共に体から離れていくのが分かった。激痛と共に足に力が入らなくなっていく。血がぼたぼたと落ち、気が遠くなっていく。

「うぉ、これホントに取れちゃったよ。てか、背負ってるだけじゃ無かったんだな。」

「背中にこんな機械縫い付けてるなんてどこの生物兵器なんだよ。」

「お、これバイキングブラッドイーグルにそっくりじゃん。皆で記念撮影しようぜぇ?」

私は気が遠くなりながらもズボンのポケットから注射器を取り出した。使用後の副作用がどうたらとか言われたけど今はそんなことは関係ない。死にたくない。ただそれだけ。身体の何処かも分からないが注射器を刺した。背中の激痛とは違った、まるで焼けるような痛みが全身を包む。

「なんだコイツ、こんな状態なのに自分でヤク使ってガンギマってるぜ?」

「相当な変態じゃねぇかよ?そっちが準備OKなら早速めちゃくちゃにやっちまうぜ!?」

私は何とか腕を動かして路地裏の出口に向かおうとしたがそんなことは出来るはずはなかった。私は、ここで終わるの?


━━━━━━━━━━━━━━━


「ごめんなさい、こんなものしか用意できなくて。折角のお客さんなのに。」

「いえ、大丈夫です。」

キョウさんが巻き込まれた事件について調べるために事故現場の教会に行ってみたり、聞き込みをしていた。教会の裏口にはとても大きな血痕があった。あの血痕が全てキョウさんのものなら、多分あの人はもう……。

「ステノさん、あなたもキョウさんのお知り合いなんですか?」

「はい、知り合ったのはつい最近なのですが、お互いにかなり助けになったので。」

「何かあったのですか?」

私はワームを退治した日、もといキョウさんと出会った日のことを話した。

「そんな事があったのですね。」

「はい、まさかワームの中から人が出てくるなんて思ってもいませんでした。」

「ステノさん、大丈夫ですか?」

私は、今日の欠損箇所である右目に付けてある眼帯に触った。血が滲んでしまっていて血が垂れていた。

「ああ、すみません。大丈夫です。」

私は血を拭き取って、濡れた眼帯の上からガーゼを貼り付けた。

「キョウさん、彼女は真面目な方でした。あなたも他の家に聞き込みをして分かったと思いますが、ここでの彼女の扱いは最悪でした。毎日のように嫌がらせを受けていました。酷い仕打ちです。」

教会の近くに住んでいる人々は皆、知らない、だの興味が無い、だのと冷たく私をあしらったり中には、暴力を振るったり暴言を吐いたりするものまでいた。

「皆、恐れているんだと思います。」

「キョウさんを、ですか?」

「いえ、疑われることをです。キョウさんを殺した犯人だ、と疑われてしまえばもう戻れないでしょう。」

「まるで魔女狩りですね。そこまでここの人達は周りが信用ならないのですか?」

「あなたの身の回りの人がお人好しすぎるだけなんじゃないんですか?」

「……。」

「………すみません。あなたを傷つけたり、怒らせるつもりで言った訳じゃないんです。その、えっと、すみません。」

「いいんです、分かってます。こんな世の中だから、人の心が荒むのも分かります。」

「あなたは凄いですね。自分がどれだけ傷ついていようとも、苦しもうとも他人の為に動いているのですね。私には到底できません。もしあなたのように四肢を失い、目まで怪我をしているなら家の中でガタガタと震えることしか出来ないでしょう。」

「私はすごくありません。ただ、私には、こうするしかないんです。」

「……。」

「こういうと、あまりそうは見えないと言われそうですが、私は怒りと憎悪を向けている相手がいるんです。その相手の事だけ考えれば私は止まれなくなるでしょう。そうならないように、周りに気を配っているのです。私の、ただのエゴの為に家族を巻き込むわけにはいきません。」

「そうですか……。何はともあれ、キョウさんについて何か見つかるといいですね。」

「はい、どうにかして手がかりが見つかればいいのですが。そろそろお暇します。」

「すみません、あまりお力になれず。またいつか、そっちにもお邪魔しますね。」

私は協力してくれた方の家を後にした。キョウさんの居場所の手がかりは何も掴めなかった。本当にこの地区の人々の中に犯人が居るのか、それとも全く違う、他宗教の団体に襲われたのか。今日はもう帰ることにした。これ以上はどうしようもないし、協力も得られないだろうし、現場も保安官に整備されてしまっている頃だろう。バイクに乗り、自宅に帰ろうとした時、何か叫び声のようなものが聞こえた。バイクから降り、音を頼りにそっちへと向かう。路地裏から何人かの笑い声と叫び声が聞こえる。私は義手からワイヤーを出して建物の屋上へと登り、見下ろすようにして覗き込んだ。女性が数人の、恐らく解体屋の輩に暴行を受けている。背中から何かを無理やり引き剥がされている。私は携帯用の閃光手榴弾を作動させ、耐光グラスを身につけて飛び降りた。私が着地すると同時に上に掲げた閃光手榴弾が炸裂する。解体屋は全員目を押さえてもがいている。私は血塗れの女性を抱えて走った。こちらに向けて走らせていたバイクに飛び乗り逃げ出した。後ろから解体屋が銃を乱射してくる。それでも、まだ閃光で目がやられているのか狙いがあっていなく、被弾しなかった。その代わり道沿いの建物のガラスや壁が被弾し、通りは大騒ぎになった。何とか解体屋からの追跡を振り切り、自宅に着いた。女性を見ると背中に大きな穴が空いていて肋骨や背骨が見えていた。傷口からは少し湯気のようなものが出てきた。すぐさま食堂に入ると、セシルさんは既に察していたらしく担架を用意していた。

「血の匂いがすると思ったらそういう事か。こりゃ大変だな。」

「路地裏でリンチを受けていた。背中に取り付けた生体ユニットか何かを無理やり外されてたみたい。」

「この傷でまだ生きてるが出血が酷い。持つかわからんな。ん?これは。」

セシルさんは女性の足に着いていた注射器を取った。そのあと傷口を見た。相変わらず湯気のようなものが出ている。

「どこで手に入れたかは知らんが、この子はA4再生剤を投与している。傷の方は治るだろうが栄養失調になるやもしれん。」

A4再生剤。セシルさんの昔の職である殺し屋の間で用いられていた薬剤で、今では解体屋などの社会の裏に潜む人々が用いていて、表の人は滅多に目にしたり手にしたりすることは無い。効果は投与した生物の代謝を異常に活性化させる。傷口は直ぐに塞がるが、その分そのエネルギー量が足り無くなれば餓死する。また、薬の作用が通常通りでないケースが多いらしく、アビゲイルの様に変異したりするらしい。それを持っているということはこの人は何かしらの、それもかなり腕利きの裏の人物だろう。それとも、こそ泥が上手く掠めとったのか。

「とりあえず、スムクに貰った点滴があったと思うからそれを使おう。一応キアーナも呼んでおくか。」

女性の背中の傷は半分ほど塞がっているが心做しかどんどんと窶れているように見える。私はセシルさんに渡された点滴を女性の腕につけ、横向きになるようにベッドに寝かせた。私が部屋を後にしようとすると後ろから囁くような声が聞こえた。私は女性の傍によってしゃがんだ。女性はうっすらと目を開け、弱々しく私に手を伸ばした。

「エウリー………助けて……………。」

「私はステノ。絶対に大丈夫だからもう少し頑張って。」

「エウリー………エウリー……………」

女性は力尽きて眠った。口元に耳を近づけ、耳をすますと、すやすやと寝息を立てていた。エウリー……。まさかとは思うが……。

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