家族
舞い上がる砂煙、響き渡る蟲の叫び声、そして機械的な音。蟲が投げ飛ばされ、砂煙から飛び出し砂漠に叩きつけられる。まさかあの「ウェポンダイオウコガネ」を容易くあしらうとは……。しかも寄生生物がついて凶暴化してる個体だ。砂煙からコガネを追って人型の機体が飛び出す。ひっくり返ったコガネの足を引きちぎり腹部に起爆槍を突き刺し、即座に離れる。派手に爆発し、強烈な光と爆音が鳴り、辺りにヌメヌメした黒い破片が散らばる。
「ヌハハハハ!!!!素晴らしい!素晴らしいぞ、我が娘よ!」
「まだ、まだよ。」
腹におお穴が空いたコガネの体中の穴からムカデの大群のようなものが這い出る。それを足替わりに起き上がる。コガネの傷が次々と治癒して行く。
「これ、絶対拉致あかないやつだよね。私がちょちょっと毒でもぶち込んでくるよ。」
「バカ者が!!!!今我が娘の成長を目指しておるのだ!誰がお前の成長記録を取りたいっつった!?」
「わかったわかった。好きにすれば良いじゃない。何起こっても私もう知らないから。」
ダイオウコガネが飛びつく。人型兵器は寄生虫にどんどんとまとわりつかれている。アレはもう、機械の隙間から入られてるから関節はやられてる。機械は全身から火を噴き始める。まさか、アイツ正気?機械は爆発しコガネ諸共吹き飛んだ。隣であのバカは高笑いして素晴らしいと連呼している。私たちの前に白髪の仮面を被ったロリっ子がジェットパックを使って戻ってきた。
「いや!素晴らしい!素晴らしいぞ我が娘よ!ヌハハハハ!!」
「ありがとうございますお義父さん!ユヅミさんちゃんと記録してました?」
「はいはい、してましたよ。お義母さんと呼んだらどうしようかと思ったわ。」
「さらに改良が必要だな!とはいえ、お前の戦闘センスはどんどんと上がっている!全て順調だ!次の戦闘訓練の準備をせねばな!」
「ちょ、ちょっと!?財布が無事じゃないんだけど!聞いてる!?」
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「ゴメン、その釘取ってくれる?」
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
ちょっと前にワームにフォルラ食堂を壊されて、教会に住ませてもらっていたが流石にいつまでもいるのも申し訳ないので、修理することになった。全く一から新しい家を作るにも地下室の武器をどうにかしないといけないし、あまり壁には近づきたくないし……。兎に角、崩れかけていた食堂をもう一度修理することにした。
「ステノさん、水持ってきましたけど飲みますか?」
「ありがとう、貰うね。」
この前ここら辺に移住してきたあの人達もどこから聞きつけたのか総出で手伝いに来てくれた。私達は大丈夫、と言ったのだが、どうしてもお礼がしたいからだそうだ。それと、近所の人も手伝いに来てくれている。あのおじさんはいつも常連さんでいつも来てくれてたし、あの人達は多分私が用心棒をしていた学校の子達の親かな。てか、ちょっと人多くないかな……。
「ステノちゃん!顔、顔!」
下からおばちゃんが叫んでいる。私は頬を触ると血がべっとりと着いていた。いつもの事だからそんなに気にならなかったが、やはり人目に付く所に行く時は多少気をつけねば。ハンカチを取り出して血を拭き取った。
「ステノちゃん、さっき釘か木の破片みたいなのが刺さってたように見えたけど大丈夫なの?」
「はい、取れたので大丈夫です。」
私の顔の皮膚を突き破るのは、私の中に潜むあの寄生虫だ。時折細い足で顔に傷を作る。一日に5箇所くらい。普段はこうして私の体を意味もなく傷つけたり、喰らったりする。いざそれがなくなったと思ったら私の体が乗っ取られる。本当に迷惑な同居人だ。でも、私が不死身なのは皮肉にもそれのおかげだ。こんな蟲を体に入れて、しかも拷問までしたあの研究所は絶対許さない。でも、その相手は世界一の国。当然のことながら、私が手を出せる相手でもない。
「ステノちゃん、棚が修理できたからここに置いておくね。」
「分かりました、ありがとうございます!」
今は、復讐なんてしなくてもいいのかもしれない。家族になったあの3人と、私に優しくしてくれる周りの人と幸せに過ごせればいいのかもしれない。
「お姉ちゃん、手伝いに来たよ!いつも学校守ってくれるから、お礼だよ!」
「ありがとう!でも、気をつけてね。怪我しちゃダメだよ。」
今のままが幸せなのかもしれない。
………
どうもこの前乗っ取られて以降気分が上がらない。半年に1回くらい乗っ取られるのだが、何故か今回は随分ダメージが大きいようだ。気分が悪い。
「1回休憩にしよう。続けて長くやってると体調不良にも気づかんだろう。暑いから熱中症に気をつけろよ。」
丁度お腹も空いてきた頃だ。アビゲイルとサヤカが山盛りの「おにぎり」という食べ物を運んできた。手にベタベタ着くが、塩味が効いてて美味しかった。
「ステノ、まだ落ち込んでんの?」
サヤカが頭をポンポン叩きながら話しかけてきた。
「まあ、ちょっとね。」
「ちょっと?だいぶの間違いじゃない?」
「だってみんなに迷惑かけちゃったし。」
サヤカが私の髪の毛を引っ張ってる。
「何してんの?」
「米ついたまんまだった。」
「ちょっ、止めてって。」
サヤカはウェットティッシュで手を拭きながら話し続けた。
「しょうがないって。ステノからそれを取り出すことも出来ないんでしょ?」
「まあ、そうだけどさ。」
「なら、受け止めるしかないよ。私たちが何とかすればいいし。いつもステノも私たちのこと不審者から守ってるでしょ?お互いがお互いを助け合えばいいじゃん。」
「それもそうだね。なんかごめん。」
「ほら、もう一個食べとき。」
サヤカは私に黒い何かが巻かれてるおにぎりを差し出した。
「何巻いてあるの?」
「海苔だよ。」
「ああ、海苔ね。」
わたしは一口かぶりついた。………何かおかしい。鼻に刺激が登ってくる。
「サヤカ!おま、ワサビ入れた!?」
「せいかーい!海苔にワサビたっぷり塗ってありまーす!」
「さっきまでいい話してたと思ったらこんなしょうもないイタズラしやがって!」
サヤカは壁を乗り越えて逃げてった。はあ、毎回サヤカのイタズラにはめられるの何とかしたいな。私はさっきのワサビおにぎりをもう一口食べた。
「あー辛い。鼻が痛い。」
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「どうすれば、どうすれば私は救われるのですか?生きているだけで苦しいこの世の中に救いなんてあるのですか?」
「ええ、ええ、ありますとも。この世に救いはあります。」
「じゃあ、何処に!?」
「神が救いを与えます。神が祝福を与えますでしょう。」
「神!?神なんて居ない!居るなら人間はこんな状態にはなっていないだろ!」
「神はおわします。でも私たちからは、見ることも感じることも出来ないのです。神は私たちの中におわします。」
「私たちの……中…………?」
「神とは可変です。どんな姿形にもなれます。そして、神は全ての人間の数と等しくその数を増やします。そして、その人間に相応しいお姿となって人の中にいます。」
「じゃあ何故神は今まで助けてくれなかったんですか!?」
「神ってのは役立たずじゃねぇか!?」
「いいえ、貴方たちが神のことを忘れてしまっていたからです。今からでも遅くありません。あなたの中の神を思い出すのです。」
私は1回深呼吸をした。
「神のお姿を想像ください。最も最初にはっきりと思いついたもの。それがあなたの中におわします神なのです。その神に祈りを捧げなさい。何か困った時、運に恵まれたい時、仲間を助けたい時、いついかなる時でも神頼みをしてみるのです。」
私は手を合わせて目を瞑った。後ろに飾ってある大時計がカチッと音を立てたあと、鐘の音が鳴る。
「本日はここまで、皆さんどうぞありがとうございました。皆さんに神のご加護があらんことを。」
顔に何かがぶつかる。硬いものかと思いきやべっとりとしたものが着く。卵かな?
「何か救われる方法を話してくれるかと期待すればそんなクソみたいな話なのかよぉ!聞いて損したわ!」
「全く、子供に悪影響ですわ!神頼み神頼みって子供がなんでも神様のせいにしちゃうじゃない!早くどっかいって!」
罵声が聞こえて更に卵とか色んなものが投げつけられる。でもわたしは姿勢を崩さない。絶対に屈しない。ブツブツと小言を言いながら退出していく。私は物音が消えるまで姿勢を崩さないつもりだったが、女の人に話しかけられたため、目を開けた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですとも。この程度の仕打ちなんのそのですよ。」
「その、ごめんなさい。多分あの人達、ただストレス解消にだけに来てると思うんです。前も貴方のような修道女が来た際も、度重なる嫌がらせに耐えかねて出て言ってしまいました。長い間ここで教えを解いてくださってるのは有難いのですが、ここで教えを解くのはもうやめた方がいいと思います。」
「それでも、貴方のように私の話を真剣に聞いてくださる人もいるのでしょう。それがたとえ少なくとも、私はここにいる義務があります。」
「………そうですか。それではこれを。」
その人は私の前に箱を置いた。
「私と子供たちが作ったケーキです。」
「ありがとうございます。後で美味しくいただきますね。」
女の人はこちらに笑いかけ、そのまま去っていった。私は誰もいないことを確認して、シャワー室に行って投げつけられたものを洗い流した。私の前任にどんな人がこの教会にいたのか分からないけど、私はその人の代わりにこの教会を守り続けなければならない。いつまでもいつまでも。チャイムが鳴った。誰だろうか。私は体を拭いて軽装で玄関を出ようとした。いや、待って。前にも同じような事があったような。私は玄関の真上の窓のそばに移動し、覗き込んだ。私の嫌な予感は当たった。この前のヤツらだ!私をワームの中に吊るした連中だ。私はどうしても必要なものだけ持ち、裏口から逃げようとした。私が裏口から飛び出すと、そこにも黒づくめの男がいた。私は全く動けなくなった。怖い、どうなるのか。汗がだらだらと出て、ガタガタと体が震える。
「………お前は特に障害になりやしない。」
「何の話ですか?」
男は私の腹に刃物を突き刺した。その後首の後ろを激痛が走り、感覚が無くなる。
一体……なんなの…………?




